④-3 ちいさな花との出会い③

 アンリは顔を赤らめると、ティトーと一瞬目が合い、慌てて腕を組むと再びそっぽを向いた。


「いってーな、思いっきり引っ叩きやがって」

「君が余計なことを言うからだろう! 子ども扱いは辞めろ!」


 アンリは顔を赤らめながら、更にそっぽを向いたが、すぐに溜息を吐き出し、腕を組みなおすとティトーに向き合った。


「俺たちは目的があって、偽名に偽姿で潜伏している。目立つ行動は避けたい」

「アンリ、俺はまだ何も話していないぞ」

「助かる。いいか、ティトー」


 アルビノのアンリは眼帯に触れながら、ティトーの前に跪いた。


「お前が俺の弟かは、旅の中で判断する。俺たちは旅を止めるわけにはいかないんだ」

「わかりました。でも……」

「なんだ」

「コルネリア様から、お言葉を受けて居るんです」

「おことば?」


 アンリはグリットと目を合わせたものの、グリットは首を横へ振った。


「俺は何も聞いていないぞ。話してみろ、ティトー」

「お話してもいいですか」

「聞くだけなら」

「アンリ…………」

「聞くだけで構いません。そうしてくれだなんて、思ってませんから」


 ティトーはそこまで話すと、姿勢を正してアンリへ向かった。アンリはグリットより背は低いものの、それでもティトーよりもずっと背は高い。ティトーはアンリを強い目線で見上げた。


「コルネリア様からの伝言です。……お父上が、心配しています。すぐに帰国してください。それから」

「アンリ、まだ言葉が……」

「聞いているよ」


 アンリはティトーの言葉の最中に落胆し、すぐにベッドへ座り込んだ。


「続けろ」

「はい。それから…………」


 ティトーは瞳に再び涙を貯めると、流さないように上向きで更に気張った。潤った声を必死で紡いでいく。


「あなた様の命は一つです。母上から頂いた、大切な命です。だから、大切に生きて、身近な家族で出来るだけ過ごしていってください、です」


 ティトーは言い切らないうちに涙を流し、嗚咽混じりで泣き出してしまった。グリットが駆け寄り、ハンカチを手渡そうとするが、ティトーは夢中で泣きじゃくった。


 雨が降っているかのように、として重苦しい部屋では少年が今も泣きじゃくっている。


「ティトーは一人でシュタインの屋敷からでて、一人で再会の町まで、国境を越えて来たんだ」


 グリットは宥めるように、ティトーの背中をゆっくりと撫でた。


「ほら、ゆっくり息を吸って、吐くんだ。そう、上手だ」

「ひっく…………うう…………。すーーはーー」

「そうだ、焦らなくていい。そう、ゆっくり吸って、ゆっくり吐くんだ」

「うん。すうぅ、はぁあ」

「………………ティトー」


 アンリの呼びかけに、ティトーは飛び跳ねるように驚き、慌ててアンリを見上げた。アンリは申し訳なさそうに、心配した表情でティトーを見つめている。


「はい」

「偽姿の場合、冒険者を装うのが一般的なんだろうが、今のご時世で冒険している奴なんて疎らだ。その方が返って目立つ」

「?」

「だから、子供がいて、兄弟みたいにしていた方が、まだ親しみの目線があって、だな……」

「同行しても、いいんですか。いっしょにいっても?」

「その方が、都合がいいんだ」

「アンリ…………」


 グリットはアンリの辛辣とした表情を受け、アンリへ駆け寄った。ティトーは強く何度も頷くと、深くお辞儀をした。


「忙しい中、ぼくのためにありがとうございます」

「自分たちの為だ。お前の為じゃない」

「あ、あの。だったら……」

「なんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る