③-4 でもそれは、とても幸せな①
「ティトー、背を向けるな。目線を合わせるな。大丈夫だから」
「だだだだって、どうするの」
魔物は小型のウルフが一体。ティトーのすぐ目の前まで
「すまない。説明してからと思ったんだが、すぐに出てきたからな」
「そうじゃなくて、どうしたらいいの!」
ティトーは魔物を見るのが初めてのようで、ワタワタと焦っている。グリットも、剣や魔法を使う為に警戒は怠っていない。
「魔物を攻撃する事にためらいはあるか」
「あるに決まってるじゃん! この子も生きてるんでしょ」
「そうだ。きっと家族もいるだろう」
「うそー!」
緊迫しているのか分からないような会話を繰り出すと、背後にまだ見える町の門番までもがオロオロしだしたが、グリットはそれを制止させるように頼み込んでいた為やってくることは無い。ウルフは尚もにじり寄りながら、ティトー達へ睨みを続けている。
「エーテル、乱れてるのが分かるか? 視えているか?」
「えっ」
ティトーは睨むわけでもなく、魔物をゆっくりと視た。微かに緑のオーラがティトーを包む。魔物も視られている事を悟っているが動きは警戒したままだ。
「あ! これ、コアですか。ものすごい乱れてる」
「淡くてもしっかり揺れいるエーテルがあるのなら、それがコアだ。魔物はコアを打ち取れば消滅する」
「そんなあ! 家族がいるのに?」
ティトーは身構えたが、すぐに掌をゆっくりと魔物に見せると、淡く緑色に発光した。
「だ、大丈夫だよ。怖くないよ。家族さんもエーテルが乱れてるの?」
「ガルルルル……」
「言葉がわかんないんですけど、家族の元に帰りたいです、か」
「ガルル……」
「グリット、何言ってるかわかんないよ!」
ティトーが目を逸らしたものの、魔物は殺意を抑えながら襲う素振り始めていた。ティトーの呼びかけに、僅かにエーテルに揺らぎが発生したのを、グリットはしっかりと見ていた。グリットは剣の鞘から手を離すと、ティト―へ向かう。
「話すんじゃない。そのコア、癒すんだ」
「ええぇ!? 癒すって、浄化とかじゃなくて?」
「浄化は神聖魔法だが攻撃魔法だ。消滅してしまうぞ」
「ううー。だって、苦しいのを治すので、エーテルを安定させて、それから心にバリアを送って」
ティトーはこんがらがったのか、頭をぐしゃぐしゃとかき回しながら、詠唱を始めた。
「魔物はお前を信じて待ってる。よくわからんが、言葉が通じてるんだ。やってみてくれ。大丈夫だ、怪我をするようなら俺が叩き伏せる」
「それはだめ!」
ティトーはついに振り返ると、腕を広げて魔物の前に立ちふさがった。すると、魔物の足元から魔法陣が現れ、魔物を包み込んだ。
「な、なにこれ」
「そのままだ、ティトー! エーテルを乱すな。ティトーが出した魔法陣だろう!」
「あ、さっき唱えたやつ!」
「魔物もそこから出ようとしていないだろう。だから攻撃を加えずにエーテルを平定できる」
「平定って、力で押さえつけるんじゃないの!?」
「力を加えて、無理やりエーテルを制圧して元に戻すんだ。正常に出来ればあとはウルフが自分で何とかする! 大丈夫だって最初に言っただろう」
ティトーはゆっくり振り返ると、魔物へ両手をかざした。
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