第2章2話 変異 異形なる魔物

応援要請があった南部に着いた悠と彩音。彼らが目にしたのは、市民の人たちがまるで悠の辞任を求めるようなデモ活動であった。


 「こりゃあまた、予想の斜め上の光景だな。」


 「どうしてこんなことを?」


デモ活動を目撃して唖然としている悠たちにスタークがどこからともなく現れて声をかけてきた。


 「よく来たな。」


 「スターク。これはどういうことだ?」


 「それについては後で説明する。まずは基地に行こう。そのまま移動すると彼らに見つかって騒ぎになるから入りな。」


 「わかった。」


スタークは、自身の影を広げ悠達はその影に入り込んだ。スタークの『ギフト』は、【影狼】かげろう。影を媒体として物の出し入れや影から影への移動、動物などに具現化など影を自在に操ることができる『ギフト』である。


スタークの『ギフト』によりデモ活動している市民の人に見つかることなく基地へとやってきた。


 「急に悪かったな。あのデモ活動のせいで俺らの活動もままならなくてな。」


 「なんであんなデモが起きたんだ?」


 「集合会議の時に悠の事を批判していた大臣がいただろう。どうもあの大臣仕業のみたいだぜ。お前がその地位にいるのも俺たちにかばわれたのも気にくわないらしい。」


 「やっぱりか。デモのターゲットが俺な時点でなんとなく察してはいたが。どのくらい続いてるんだあのデモ。」


 「1週間くらいだ。何言っても聞く耳持たなくてまいってんだよ。」


 「でも、なんで南部でしているんでしょうか?するなら東部でするんじゃ。」


彩音の問いに悠がすかさず答えた。


 「首謀者が南部の人間だからってのもあるだろうけど、多分、南部が他の地域に比べて発言力が強いのもあるだろうな。」


南部は大侵攻の後、他の地域よりも早く復興を成功させ新たな技術の確立、貿易経路の確保など人類に多大な利益をもたらしたとして他の地域よりも発言力が強くなっている。


 「それに、あの人こっちじゃ絶大な人気があるのも関係するかもな。」


 「あの人そんなに人気なんですか?私にはそんな風には見えないですけど。」


 「まぁ、彩音たちから見たらあの人は悠の事を批判する嫌な奴って思っているかもしれないが、こっちの人からすればあの人は有能だから人気なんだぞ。」


彩音は想像ができないのか眉間にしわを寄せて考え込んでいた。


 「あの人は政治が上手なんだよ。元々貧しい暮らしをしてたから市民目線の政治を多く打ち出しているんだ。だから、市民の人たちには大人気ってこと。」


 「そんな人がなんでこんなことを仕掛けたのですか?」


 「あ~あの人なんというか、自国愛が強いんだよ。南部がなにかに負けるのが嫌なんだと思う。具体的な理由はわからんけど。」


 「まぁ理由どうこうは後からどうにかするとして、まずはデモを何とか辞めさせないとね。ほっとくとデモ活動の範囲が増えて他の地域でも始まるだろうし。艮の襲撃でそれどころじゃないんだけどな。どうしようか。」


デモの対策に頭を悩ませている時、基地内で警報が鳴り響いた。


 「このタイミングでかよ。場所と数は?」


 「数はおよそ10体、ほとんどが人獣型と思われます。場所はデモ活動している場所から500m先です。」


 「近いな。悠一緒に来てくれ。」


 「わかった。彩音はこっちのオペレーターのサポートをしてくれ。」


 「承知しました。」


悠とスタークは急いで魔物の出現場所へ向かった。


 「半分は任せるぞ悠。」


 「OK、任せろ。」


 『影狼・狼牙ろうが


スタークは、自身の右手の指に狼の牙のように影を纏わせて現れた魔物を切り裂いたり抉ったりしながら次々と倒していった。


 『桜刃流双身術 こぼれ桜』


2人の息の合った連携で出現した魔物はすぐの殲滅された。


 「スターク師団長ありがとうございました。」


デモ活動していた人たちがスタークにお礼を言おうと近づいたとき


 「ってこの子、大臣が言っていた第1師団長じゃないですか。なんでこんなところにいるのよ。」


悠に気づいた人がそういうとみんなして悠に罵詈雑言を浴びせた。


 「皆さん落ち着いてください。彼はミサさんが思っているような刃部地ではありません。」


スタークが市民の人たちをなだめていた時、基地にいる彩音から通信があった。


 「師団長、スターク師団長。魔物の生体反応が消えてません。まだ、生きてます。」


倒したはずの魔物に目をやると一か所に集まっており、1体の10m近くある巨大な人型の魔物へと姿を変えた。


 「どういうことだ?こんな魔物見たことがないぞ。」


 「俺も初めてだ。まさか坤の仕業か。」


その時、巨大な魔物は市民の人たちに向かって拳を振り下ろした。悠はとっさに市民の人を庇い、軽い打撲をしてしまった。


 「悠大丈夫か?」


 「あぁ、問題ないかすり傷だ。それより、あのデカ物をどうにかしないとな。」


魔物は目の間にいる悠とスタークを横目に再び、市民に向かって攻撃し始めた。


 「何回も攻撃させるかよ。」


 『影狼・影穴』


スタークは自身の影を広げ魔物の攻撃を自身の影から少し離れたところにある山の影へと流した。


 「サンキュースターク。助かった。」


 「いいってことよ。」


 「サンキューついでにスタークは市民の人たちの護衛に徹してくれないか。その間俺があいつを受け持つから。」


 「お前それってあいつを一人で相手するつもりか。ケガも負ってるんだから無理するな。」


 「大丈夫、そんな時間はかからないよ。見た感じ知能はあまり高くない、人型と同等かそれ以下くらいかな?動きもそんなに速くない。力重視の鈍足パワーファイターってとこかな。多分デカいだけだから一人でも大丈夫だよ。」


 「それに南部の皆様に俺の働きぶりを見てもらわないとな。」


 「わかった。気をつけろよ。」


悠は頷き、魔物前へと立った。


 「彩音、周辺に他に市民の人たちはいないか?」


 「はい、デモ活動していた人たち以外は避難済みです。幸い、基地周辺は建物も少ないので多少暴れても大丈夫ですよ。」


 「わかった。」


悠は一度深く深呼吸をして


 「行くよ、『桜』。」


魔物に向かって勢いよく走り出した。


 「スターク師団長いいんですか?あんな子供が一人で戦って。相手はでかいし強そうですよ。絶対死にますよ。」


 「心配いらないよ。悔しいがあいつは全師団の誰よりも強い。文句も付けられないほどの最強だからな。」


 「え?」


悠の戦いを目にした市民たちは皆悠の戦いに釘付けになった。悠は魔物の攻撃を剣先で捌きながら一撃一撃確実に魔物の体を切っていきダメージを与えていた。


 「流石に攻撃が重いな。でも、見た通りの鈍足で体が硬いわけでもないな。」


悠は捌くために動き続けていた足と止めた。魔物は好機を逃すまいとすかさず拳を振り下ろした。


 『桜刃流双身術 桜雲おううん


魔物の拳が地面にぶつかると大量の土煙が舞い、地響きが起きた。誰もが潰されたと思った。


 「やっぱり、1人じゃ無理だったんですよ。」


市民の一人がそういったが、スタークは全く動じていなかった。

魔物が拳をどけるとそこには悠の姿はなかった。驚いた魔物はあたりを見渡した。


 『桜刃流双身術 枝垂桜しだれざくら


真上から来るはずのない斬撃が魔物の左肩を襲った。魔物は深い傷を負い、片膝をついた。

『枝垂桜』は、落下速度を利用し体を回転しながら下方向に連続で切りつける技だ。


 「なっなんで生きてるんですか?」


 「なんでって悠は相手の攻撃を避けただけだぞ。」


 「避けた?あの攻撃をですか?」


 「あぁ。『桜雲』は相手の死角に瞬時に入り込み、まるで消えたかのように見せる回避技だ。あれだけでかい図体は死角だらけだからな。それに、相変わらず観察眼も大したものだよ。」


 「今の行動に観察眼が関係あるのですか?」


 「『桜雲』は相手の死角の入りこむ技だって説明したろ。その死角に入り込むためには相手が今、どこを見ているか何を警戒しているかどれほど見えているかとかがわかってないと効果がなかったり薄れたりするんだよ。それをあのレベルで出来てるってことは相当な観察眼と身体能力がないとできないってわけ。」


 「な、なるほど。」


切られた魔物数秒膝をついて動かなかったが、すぐさま立ち上がり怒ったかのように雄たけびを上げた。


 「お、立ったな。」


 「うるさいな、鼓膜敗れるだろうが。」


怒り狂った魔物が拳を叩きつけようと再び拳を振り上げた時


 「あぁ。もうそっちの腕で振り下ろさないほうがいいぞ。」


当然、そんな忠告を聞くはずもなく拳を振り下ろした。次の瞬間、魔物の腕がまるでおもちゃのように肩からもげた。


 「あ~あ、だから言ったのに。」

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