第1章最終話 悠の過去 南部からの応援要請

師団集合会議が開催された日の翌日。悠の過去を知るため翔らは氷室のいる第2師団の基地へとやってきていた。一方その頃、悠はある人物に呼ばれてある場所へ赴いていた。


 「会議が終わって疲れいるだろうに今日は来てもらって悪いな。第1師団長殿。」


 「いえ、総理がお呼びとあれば。」


悠に前に座っている白髪の短髪で左目に大きな切り傷がある男性の名は梅谷厳蔵うめやぜんぞう。史上最年少の45歳で内閣総理大臣に就任し、8年間支持され続けている現内閣総理大臣だ。


 「それで、本日はどのような要件でしょうか?」


 「あぁ、まずは謝らせてくれ。すまなかった。」


梅谷総理は悠に頭を深く下げた。


 「頭を上げてください!総理に謝罪されるようなことはされていません。」


 「君を無理に師団の仕事に引き戻したことと南部と中央部の君に対しても暴言や失言の数々、謝罪させてくれ。」


 「そんな。この仕事に戻って専念すると決めたのは自分の意思ですし、大臣たちの発言は当然のことですので。」


 「相変わらず謙虚だな君は。しかし、本当に良かったのか?こっちに戻ってきて。他の師団長達もすぐに引き戻さなくてもいいと言っていたが。」


 「それに全く仕事しなかったわけではないのだろう。草薙の長女に聞いたが、学校終わりとかプライベートの合間合間に仕事をこなしていたそうではないか。しばらくはそれでもよかったのだぞ。」


 「艮が学校に現れた時にある程度決めていたんです。相手も本格的に動いてきています。もちろん他の師団長が強いことは知っていますし、団員たちもすぐにやられるような軟な人たちではないことも知っています。」


 「でも、やっぱり失うのは怖いんです。俺のことを認めてくれて俺の居場所になってくれているみんなが命を懸けて戦っているのに自分だけ楽しい時間を過ごしていいのかって思ったんです。それに、相手も本格的に動いてきてます。現に、最近の魔物の出現数も増えていますし。だから俺も戦います。もう二度と失わないように。」


梅谷総理は、悠のその言葉に揺るがない意思を感じた。だが、それと同時に恐ろしくも感じた。本来は、まだ学校に通い普通の人生を送るはずの子供がまるで自分の命を軽んじるような発言をしたことに。


 「そうかい。何かあったら相談しろよ。それで、本題なんだが。」


一方、第2師団の基地では翔らが悠の過去について聞いていた。


 「あいつが『ギフト』を授かったのは今から7年前だ。年で言ったらあいつが8歳のころだな。施設で育っていたあいつのもとに急に一本の光がさした。」


 「そこからだな、悠の人生が急変したのは。」


氷室の顔が一瞬曇った。


 「氷室師団長?」


 「あぁ、すまんな。」


 「そういえば、確か『ギフト』って最初の大侵攻の後にやってきた魔物によって授与されるんですよね?なんで悠なんですかね?」


 「それは俺たちにもわからん。規則性があるかもしれないし気分かもしれない。言うて俺も閣下には1回も会ったことないしね。」


最初の大侵攻の後から人間に協力している魔物は関係者から閣下と呼ばれており、現在は『ギフト』を授与するとき以外は、総司令部の地下深くで眠りについている。


 「と話がそれたな。悠に光がさしたことを知った上層部はすぐに悠を師団長にするための訓練を開始させた。知的教育を全て吹っ飛ばしてな。」


 「!ってことは悠は義務教育を受けてないんですか?」


 「あぁ、師団長になるまでの2年間上層部は悠をいち早く前線で戦えるように育成するという大義名分を掲げて義務教育を受けさせず、怪我をしようとも風邪をひこうとも訓練は続けさせた。やがて、悠は強さの代わりに感情を失っていた。本当に見てられないくらいに。」


 「誰か指摘しなかったのですか?」


千秋が氷室に疑問をぶつけた。


 「もちろんしたさ。俺や総司令、他の師団長もな。8歳の子供がやる訓練内容じゃなかったし、前の第1師団長もゴリゴリの現役だったからな。それでも、あいつらはやめなかった。悠の『ギフト』は俺らのとは違って強力ではないからな様々なことをさせられていたよ。」


 「ですが、悠さんは義務教育を受けてないとのことでしたけど、確か筆記試験はトップでしたよね?しかもほぼ満点で。」


悠は育成学校の入学試験の筆記試験でほぼ満点を取り、その後の筆記の試験でも学年1位を取り続けており、義務教育を受けてないとは思えないほど秀才なのである。


 「確かに、悠は義務教育を受けていないが一般教養や常識は全部独学で身に着けているぞ。それも上層部のやつらの実験だったけどな。」


翔らはその事実に衝撃を受けた。


 「その時だったな、あいつが自分の武器に出会ったのは。お前たちは悠の戦闘技術しか見れなかったと思うけど、悠の武器は特別製だ。普通の人じゃ扱うどころか持つことさえできない代物だ。」


 「確かにあの時の悠はすごかった。相手の攻撃を先読みしてたみたいだったし。あれは、悠の感覚器官が鋭いからなんですよね?」


 「あぁ。でも、鋭いといっても常人離れ知れいるわけじゃないんだ。普通の人が1とするなら悠は1.4とか5くらいで人より多少いいくらいだな。それでも、悠があんな芸当ができるのは戦闘技術に加えて情報処理能力の速さのおかげだな。」


 「情報処理?」


 「そう。翔、悠が戦っている時に俺が言ったことを覚えているか?」


 「えぇ~と、感覚器官を駆使して相手も攻撃を予測するでしたっけ?」


 「正解。その攻撃を予測するっていうのに情報処理能力の速さが役立つんだ。」


翔たちはあまり理解しきれなかった。


 「あまりわかってないような顔だな。ちゃんと説明してやる。動きには予備動作があってノーモーションから急に動くことはできない。それは、翔や向日葵ならわかるな。だが、戦闘っていうのは常に棒立ちなわけじゃない。動きや戦況が常に変わり続ける中で予備動作を見逃すことはあるし、見えたとしても予備動作から攻撃までの間なんて0.1秒とかの世界だ。よっぽどの経験か反射神経がないと対応は困難だ。お前らもあるだろ。頭ではわかっててもガードが遅れたみたいなこと。」


翔と向日葵はここ辺りがあるのか静かにうなずいた。


 「だがな、悠はその予備動作を見ただけで相手の次の攻撃をだいたい5パターン先読みしてそれぞれに対策を用意、可能性の順位付けまでする。予備動作と言っても拳を振り上げるとか体を捻るとかだけじゃないぞ。ちょっとした筋肉の動きや目線、呼吸とかのほんの些細な動きも見逃さい。つまりだな、よっぽどの初見殺しの技が来ない限り相手の攻撃は悠にとって想定の範囲内ってことだ。」


 「それだけのことをほんの数秒の間に・・・。」


翔らは悠のすごさを聞いて唖然をしていた。


 「まぁ、そう落胆するな。そんなこと俺にも出来んわ。せいぜい2・3パターンくらいしか読めん。今んとこあんな芸当ができるのは師団の中で悠だけだ。そして、そんな情報処理能力と特殊な武器が悠の強さ。っていっても、普通の武器を使うだけでも相当強いけどな。」


 「あ、あの『桜』以外にどんな武器があるんですか?」


向日葵が質問した。


 「そうだな、悠の武器は全部で5つある。」


 「まずは、お前らも見た遠距離用の『絶弓 業魔』・近距離多数や受けが強い『双身刀 桜』の他にスピード勝負や小回りが利く『小太刀二刀 姫』・5つの武器中で1番破壊力がある『鉄棍 彼岸』・攻撃も防御もバランスが1番いい『日本刀 夜行』がある。これらを扱う事ができるのは悠の『ギフト』のおかげだな。」


 「また話がそれたな。悠は訓練を終え、10歳の時に師団長に就任したが当然反対する者がいた。会議にいた南部や中央部の大臣みたいにな。そこで悠がとった行動はとにかく魔物を倒すだった。」


 「みんなに認められるため、居場所を作るためその一心で魔物を倒し続けた。俺もその時期に合同で任務の時があったが。その時の悠の目はとにかく冷たくて光がない感じだったな。」


その話を聞き、翔は自分の拳を強く握りしめた。


 「そんなことがあったなんて。」


 「でも、俺らはお前らに感謝してる。」


 「え?」


 「お前らとの学校生活はよほど楽しかったんだろうな。よく俺に学校であったことを報告してくれたよ。その時の悠の目は光がともっていたよ。ありがとうな。」


会場での悠の言葉が偽りでないことを知った翔たちは胸がいっぱいになった。そして、氷室にあるお願いをした。


 「あの氷室師団長。お願いがあるのですが。」


 「?どうした。」


 「俺たちを鍛えてください。悠の隣で戦えるように。」


 「私もお願いします。守られる市民ではなく一緒に戦う団員になりたいんです。」


 「私も悠さんを遠くからでも支えられるようになりたいです。」


 「うちも。」


氷室は少しうるっと来た。ここまで悠のことを思ってくれる友人がいることに。


 「いいだろう。だが、稽古つけるのは俺の課題をクリアしてだ。」


 「課題?」


 「あぁ。まずは、翔と向日葵。お前らは1年生が終わるまでに実技順位トップ5、筆記順位トップ10に入ってもらう。千秋と京子は、翔たちと同様に筆記順位トップ10に入るほかに年末にある実技テストで9割以上の点数を出してもらう。やれるか?」


 「はい!」


一方、総理官邸では


 「本題とは何ですか?総理。」


 「あぁ、第3,第4から悠宛てに応援要請があった。」


 「え?」

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