第1章12話 批判再び 翔らの決意

坤が艮を連れて撤退した後、会議を再開し今後の師団の方針として師団員の育成に力を入れることに決定し、その場にいる全員が賛成した。ある人物たちを除いては・・


 「やはり、認めないぞ!お前みたいなガキが師団長なんて。」


再び、南部の大臣が声を上げた。


 「やはりお前みたいなガキが仕切るのはけしからん。第一、会議を仕切るどころかお前がそこに座っているだけで不愉快だ。」


 「南部の言う通りだ。君のようなガキに指示されるなんて反吐が出る。」


南部の声に便乗するように中央部も声を上げた。


 「今はそのような議題を話し合っている時間がありません。今後の師団員の育成方法を話し合うのが先です。」


 「話を逸らすな!お前みたいなガキの代わりの候補などいくらでもいるんだ。多少は戦えるみたいだが、その程度でその地位に座る資格などお前に・・」


 「いい加減にしなさい!」


南部の大臣の話を遮るように1階入り口の扉から師団総司令である草薙千代が入ってきた。


 「「く、草薙総司令!」」


 「千代さん。今来られたのですか?」


 「ごめんなさいね。ちょっと前に仕事が思いの他手間取ってしまって来るのが遅れたわ。それで、来てみたらなんで悠がこんなに言われているのかしら?」


 「どうもこうも、その人たちは悠がその地位にいることに不満があるらしいですよ。不愉快だって言って。」


氷室の説明を聞いた千代は、顔には出てないが怒っているオーラが漂っていた。


 「そうですか。南部と中央部の大臣さん。氷室さんが言っていることに間違いはないですか?」


 「え、えぇ。」


 「なぜそんなに悠を批判するのですか?」


 「そんなちょっと強いだけのガキが他の師団長の上に立っていることが不愉快です。聞けば、『ギフト』も大したことがないようではないですか。そんな奴が師団長なんて示しが付きません。」


 「私も南部の大臣と同意見です。彼よりもっと優秀で適任がいると思います。なにせまだ子供なのですから。」


 「ちょっと強いだけのガキ?不愉快?それ本気で言ってるの?」


千代の発言に会場全体の空気がピリついた。


 「確かに彼はまだ16にも満たない子供です。ですが、彼が就任してからのこの5年間ここ東部の魔物による被害は就任前より5割減少しています。」


 「!そんなわけありません!それはきっと第2の氷室による手柄でしょう。」


 「残念ながら俺じゃないですよ。俺だけの力じゃここまで減らせなかった。それに5年前のことを思い出してくださいよ。」


 「5年前?あぁ、前の第1師団長が殉職した大侵攻のことか。」


今から5年前、東部におよそ3万もの魔物が一斉に襲来した。だが、この侵攻による被害は数名の団員の負傷と師団長の殉職、多少の建物の破壊で済んだ。これほどまでの大規模な侵攻であるにもかかわらず、少ない犠牲で済んだことから『奇跡の侵攻』と言われている。


 「その侵攻が何なのだ。」


 「その侵攻で俺たち第2と当時の第1の戦闘員が倒したのは1万5千体。残りの半分は悠1人で倒しましたよ。しかも、ほとんど無傷で。」


 「!なんだと。たった1人でそんな大勢の魔物を・・・いや!信じないぞ。そんなことできるはずはない。まやかしを言うんじゃない。ちょっと人より武器が使えるだけのガキにそんなことが・・」


 「南部と中央部の大臣さん。あなたたちも前線に立てばわかりますか?普通の人が送るはずだった生活を捨てて、手に入るはずの当たり前や幸せをも捨てて、来る日も来る日も血反吐を吐きながらも怪我をしようが病気になろうがひたすら戦い続けたらわかるかしら。」


総司令の威圧感ある発言に南部の大臣は少し黙り込み


 「しかし、総司令・・」


その時


 「ねぇ、そこのクソブスハゲダルマ。さっきから聞いてたけどいつまで私のご主人を馬鹿にするつもりだい。」


悠の後ろから急に桜柄の入った白色の浴衣を薄い紫の帯で締めており左目にモノクルをつけた。腰まで伸びた暗め青みがかったロングヘアーに下の方を桜の装飾が付いたヘアゴムで結っている長身の女性が出てきた。


 「おい、誰だその女。急に現れてたと思ったら失礼なこと言いおって。」


 「彼女は俺の武器の1つで、先程の戦いで使っていた双身刀の『桜』です。」


悠の後ろに現れた女性を悠は自分の武器であることを告げた。


 「武器だと?ふざけるな!そんなわけないだろうが。」


 「ねぇご主人、やっぱりあいつやってもいい?あいつ、クソブスハゲダルマのくせにご主人を馬鹿にして1つ1つの発言が癇に障るわ。指から順に死なない程度に削ぎ落してやるわ。」


 「だめだよ。当然の疑問だ。初めて見たんだから。」


悠は椅子から立ち上がって桜に手を差し伸べた。


 「こいつは正真正銘俺の武器、『桜』です。おいで。」


悠の言葉に答えるように和服を着た女性は悠の手を取って、艮との戦いで使っていた双身刀へと姿を変えた。2階席にいた大臣たちが驚いている中、


 「ご理解いただけましたか?俺の武器は特別製で人間の形に変わることができるのです。ありがとう。」


双身刀は和服の女性の姿に戻った。批判していた南部と中央部の大臣はその場で腰を抜かし座り込んだ。


 「もう大丈夫そうですね、じゃあ、会議を続けよう。千代さんの意見も聞かせてください。」


 「えぇ、わかったわ。」


 「では、今後の師団員の育成から。」


会議は日が落ちても続いていた。

一方その頃、翔たちは艮襲撃後から会議の参加せず、途方に暮れていた。


 「まさか悠が第1の師団長だったなんてね。気づかなかったわ。」


 「そうですね。そんな素振り見せてこなかったですものね。確かに、実技は優秀でしたが、あそこまで強いとは思いませんでした。」


 「翔、ショックなのはわかるけどいつまでも下を向いてるんじゃないわよ。」


 「そうだよ翔っち、寂しいかもしれないけど。」


翔は振り絞った声で


 「違う・・。」


 「え?」


 「違うんだ。確かに言ってくれなかったことは悲しいよ。でも、悠のことをちゃんと見れなかったあいつに手を差し伸べれなかった。そのことが悔しいんだ。」


 「翔・・」


 「あいつが学校に来なくなった日の前日に俺は会ってたんだ。その日の別れ際、悠はさみしそうな顔をしていた。」


 「俺は、あいつの本音が知りたい。あいつのことをちゃんと理解してあげたい。」


 「それについては私たちも同意見だよ。翔、明日第2に行こう。氷室師団長も悠の過去を教えてくれるって言ってたし。」


 「あぁ、行こう。姉崎さんと三枝さんはどうする?」


 「もちろん行くに決まっているっしょ。悠ちんとはめっちゃ話したってわけじゃないけど普通に友達だし。」


 「わ、私ももちろん行きます。悠さんには合同訓練からお世話になってますし。少しでも悠さんのことをわかりたいです。」


 「よし。明日の朝第2師団の基地の前に集合で。」


 「了解。」


翌日・・・


翔らは氷室師団長がいる第2師団の基地へと向かった。基地へと着いた翔らは手続きを済ませ、基地の中へと入っていった。


 「おう、早速来たなお前ら。」


氷室が翔たちを出迎えた。


 「氷室師団長が直々にお出迎えですか?会議は終わったのですか?」


 「あぁ、昨日の夜中にな。」


翔たちを出迎えた氷室の後ろから茶髪の髪を左側で結っている女性が走ってきた。


 「師団長。出迎えは私がやるっていつも言っているじゃないですか。」


 「なんだ寧々か。俺の客だからいいだろ。」


 「良くはないです。もぉ~ごめんなさい、挨拶が遅れたわね。私は、第2師団副団長兼師団長秘書の綾辻寧々あやつじねねって言います。」


 「こちらにどうぞ。部屋に着くまで少し見学していって。」


 「ありがとうございます。」


寧々に設備の説明と案内をされ翔たちは基地を少し見学していった。


 「すごい数の訓練場ですね。それ以外の設備もすごい。」


 「まぁね。訓練場の数だけで20以上はあるしその他設備の最新鋭の物だからね。」


 「本当に寧々は細かいな。悠を話すときアイドルに会ったオタクみたいな反応して緊張するのに。」


 「だって、まだ若くて普段は穏やかな感じなのに戦いとなれば一気に凛々しくなってそんなの推すしか・・・って今はいいじゃないですかそのことは。もう部屋に着きますよ。」


翔らはある部屋に通された。


 「ここなら誰かに聞かれることはありませんからそれでは私はこれで。」


 「さてと、聞く覚悟はできたってことでいいんだな君たち。」


 「はい、そのためにここに来ました。」


 「わかった、なら話してやるよ。あいつの過去をな。」

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