第1章11話 坤登場! 会議再開

悠と艮の戦いは悠が制して艮の身を拘束しようとした時、発生するはずのない黒い霧が発生し新たな人語を話す人獣型が現れた。


 「ちょっと艮ちゃん。なんであなたが倒れてるのよ。師団長何人か殺しに来たんでしょ?」


 「うるさいよ坤。傷に響くだろ、声量下げろ。」


 「何よぉ~予定時間になっても艮ちゃんが帰ってこないからせっかく心配してここまで迎えに来てあげたのに。そんな言い方ないじゃない。もぉ~、で?艮ちゃんをこんなに傷付けたのはだぁれ?」


先ほどまでオカマ口調であった坤だったが、急に低くドスのきいた声で問い詰めた。


 「俺だよ。お前が艮が言っていた人間をロボットに変えたり魔物を改造したりする能力を持った同僚か?」


坤は悠の方を睨みつけ


 「そうあなたが艮ちゃんを。一応初めましてだし自己紹介しておきましょうかね。私は、陸王様の眷属【四門】が一人、『人門』の坤よ。さっきのあなたの質問の答えはYesよ。私が人間たちをロボットに変えたのよ。それが私の能力だし。私は触れた生物を自分の思うがままに改造できるの。まぁ、生物だけで無機物は無理だけど。」


 「聞いた通りのマッドサイエンティストだな。それで?お前も俺らのことを殺しに来たのか?」


 「違うわよ。私は艮ちゃんのお迎え。戦いに来たわけではないわ。あなたたち強そうだし今戦っても無事じゃすまなそうだし今戦うのは得策ではないわ。現に好戦的な艮ちゃんもやられているわけだし。よいしょ。それじゃあ帰らせてもらうわね。」


坤は艮を担ぎ足元に2体がギリギリ通れるくらいの黒い霧を発生させた。


 「まさか、このまま逃げると思ってなかろうな。逃がさんぞ。」


 「ストップ。マキシム爺さん。」


悠は、前に出ようとしたマキシムを手で止めた。


 「な、なんで止めるんじゃ。悠。」


 「それ以上近づいたら危ないよ。」


 「賢い子。それじゃあお言葉に甘えて帰らせてもらうわね。またいつか。」


 「おい悠、次は負けないぞ。絶対負かしてやる。」


そのまま逃走した。


 「悠、逃がして良かったのか?かなり厄介なやつっぽかったぞ。」


 「まぁ、艮はかなり重傷だったしすぐに攻めてくるってことはないだろ。それに、多分坤のスカートの中に爆弾か何か入ってたよ。無理に深追いしてたらこの場所は粉々になってたかもしれないからこれが最善策だよ。」


 「まじか。よくわかったな。」


 「あいつが履いていたスカートの中の太ももに当たる部分に不自然なふくらみがあったからね。あいつの能力を加味すると、人間の一部を小型爆弾に改造したものだろうな。さて、ちょっと時間をくっちゃったから片付けてすぐに会議を再開しよう。」


 「彩音、団員たちに準備の指示を頼む。1時間後に再開だ。」


 「かしこまりました。」


師団員が準備を進めている中、翔たちが別室にいた悠のもとに赴いていた。


 「お前が第1師団長だったんだな。悠。」


 「あぁ、言えなくて悪かったな。」


 「どうして言ってくれなかった?俺らが弱いからか、頼りないからか。なぁ悠!」


悠は小さく首を横に振り


 「違うよ。俺が弱いからだ。俺に覚悟がないから言えなかった。納得できないかもしれないが理解はしてくれ。」


 「お前はどうなんだよ!どうしたいんだよ!頼むから本音を言ってくれ。」


悠は後ろを振り向き


 「これは俺がどうしたいって話じゃないんだ、ごめんな。翔たちとの学校生活は楽しかったよ。でも、俺にそっちの世界は眩しすぎた。」


悠はそのまま会場へと向かった。翔はどんどん遠のく悠の背中を見て何とも言えない気持ちを抱いた。


 「悪いが理解してやってくれ。」


 「氷室師団長。」


立ち呆けていた翔に涼介が話しかけてきた。


 「あいつは今、相当な覚悟のもとであそこに立ってんだ。その覚悟は生半可なもんじゃない。正直な話俺も悠にはもう少し間、せめて学校卒業までは学生らしい生活を送ってほしかった。他の師団長も同じ気持ちだったさ。まだ16にも満たない子供の背中に背負わせるもんじゃないと。」


 「でもな、敵もどんどん強力になっていく。情けないのはわかっているがあいつの力が必要だ。だから理解してやってくれ。」


翔は、その話を聞いて何も言い返せず拳を強く握りしめた。スタークが氷室を呼びに来た。


 「涼介、時間だ。悠が呼んでる。」


 「スターク、わかった、すぐ行く。」


 「あっそうそう、お前ら。悠のこと知る覚悟ができたら第2師団の基地に来な。教えてやる。」


 「はい・・・ありがとうございます。」


スタークと涼介は会議会場へ向かった。


 「良かったのか?悠のことを勝手に教えて。」


 「どうだろうな。本当は悠自身で言ったほうがいいんだろうが。どうにもあいつらはほっとけなくてな。」


 「相変わらず、世話焼きだな。妹は元気か?」


 「おっ聞くか。今度酒の席で熱弁してやるよ。」


 「手短にな。」


会場に着いたスタークと涼介は各自の席に座った。


 「全員そろったな。では、会議を始める。」


艮襲撃により、会議開始が遅れたが無事に会議が再開された。


 「まずは、各地域の近況報告からだ。俺ら東部から報告する。彩音。」


 「はい。」


悠の後ろにバックスクリーンが現れ、会議資料が映し出された。


 「第2と協力して作成をした魔物の襲撃数と種類をグラフにしたものだ。東部では近年人型と獣型との併用が多いな。数もさほど多くはないが、より市民を狙うようになっている。」


 「そうだな。禁止区域に出現してもすぐに市街地へ行くようになっている。」


 「他の地域はどうだ?スターク。」


悠はスタークに話を振った。


 「そうだな、こっちも同じような感じだ。それも獣型特有の狩るような感じじゃなくて連れ去るという方があってる気がする。」


 「第4も同じ感じです。人型の持つ武器も捕獲用の麻酔銃が多い傾向です。」


スタークと共に南部を守る第4師団長のソフィア・スミスは白髪が特徴の女性で悠に続いて若い師団長でである。約1年前に就任し、実力も申し分ない。


 「そうか、シーラちゃんのほうはどう?」


 「そうさね、大体同じ感じよ。でもこっちは気候のこともあるから夜に少数でこっそりってことが増えたわね。」


マキシムと共に北部を守る第6師団長のパブロワ・シーラはマキシムと同様師団設立時から師団長を務めている。師団全体のお母さん的存在で怒らせると誰も手が付けられない。


 「そうじゃな、わしの管轄もそうじゃ。昼が極端に少なくなって夜の襲撃が増えたわい。」


 「成程な。李のとこはどうだ?」


 「そうネ。昼と夜の差ハ北部ほど激しくないガ、目立った襲撃ガ少ないネ。」


 「兄さんの言う通りです。出現場所も裏路地などが増えました。」


李と共に中央部を守る第8師団長林杏リンシンは李の双子の兄妹だ。兄妹それぞれが武術の達人であり『最強の兄妹』として名をはせている。


 「アエクたちの方は?」


 「こっちもよ、他の団と一緒。攫うってほうに力を注いでる感じがするわ。」


 「そうね、しかも攫おうとするのが子供が多いのよ。優先的に狙っている気がするのよね。」


西部を守る第9師団長アクエ・ヴェセリーと第10師団長エマ・シモンは、両者とも女性の師団長だ。


 「やっぱり、さっき現れた坤が命令している可能性があるな。見た感じ実験大好き野郎みたいだったし。」


 「やっぱり、人間を集めているのは手駒を増やすためかしら?でも、改造した人間って統率きくのかしら?暴走しそうだけど。」


 「その辺は多分抜かりないと思うよ。一応、俺ロボットに改造された人間と戦ったよ。映像もあるから一旦流すね。彩音お願い。」


 「はい。」


バックスクリーンに悠が合同訓練の時にコウモリ型と戦った映像が流された。


 「とりあえず、戦ってみた感想としては元の人格は完全になかったな。操られるというより命令に従っているといったほうが正しいかな。」


 「なるほどな。確かにその方が操るより臨機応変な動きがしやすいな。」


 「それより、相手の目的よ。それがわからないのに対策は難しいわ。」


アエクがそう切り出したが、手掛かりが少なく答えが出ないでいた。すると、マキシムが


 「悠坊や、分からないことを長々と考えている時間はないぞ。」


 「マキシム爺さん・・。」


 「敵はこうしている間にも相手さんは力をつけている。何人もの人が改造されているかもしれない。じゃあ今やることはこっちも力をつけることじゃ。1人でも助けるために。」


 「そうだね。ありがとうマキシム爺さん。」


 「これからの方針として団員の育成により力を入れることとする。反対の者はいるか?」


その場にいる全員が賛成した。ある人物を除いては・・


 「やはり、認めないぞ!お前みたいな小僧が師団長なんて。」

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