第1章9話 師団集合会議の開催 第1師団長の正体

悠が学校に来なくなって2か月がたった。

翔らが教官に理由を聞いてもいつも『家庭の事情』と言ってはぐらかされてしまう。しかし、翔たちは悠が教官の言うように『家庭の事情』で学校に来ないようになったとは思っていなかった。なぜなら、悠の母親は悠を産んですぐに亡くなり、父親は最初の侵攻より前から行方不明であり、その他の親戚も侵攻の時に亡くなっているため家庭の事情は考えにくい。

翔らは、教官の説明に納得いかないままもやもやしながら学生生活を送っていた。

そんな中、師団集合会議が開催される日が訪れた。翔は悠のもらったチケットをもらって向日葵と千秋・京子を誘って会場に向かった。会場は2階から1階が見下ろせるようになっている構造で1階の真ん中に大きなテーブルがあり、そこには、各師団長9人が座っていた。そして、それぞれ後ろには副師団長が1人ずつ立っていた。


 「あれが各師団の師団長と副師団長。見ただけで強いことがわかるな。」


 「そうですね。でも、やっぱり第1師団長だけいませんね。副師団長も。」


 「確かにこういう場にも出ないのかな?」


翔たちは用意された席に座り、会議が始まるのを待った。


 「でも、当たり前だけど見たことある人たちばっかりだね。」


 「あぁ、ここにいる10人が全師団員の中でトップ10の実力者たち。氷室師団長の『ギフト』が何なのか気になるな。」


 「飛行能力とか念力とかありそう。」


 「氷室師団長の氷雪系の反対の火を操るとかもありそうですね。」


翔たちが着席してから20分後、会議開始時間となると、1階の後方の扉から1人の女性が会場に入ってきた。


 「皆さんお待たせしました。開始時間になりましたのでこれより会議を開始致します。ですが、その前に1つ私ら第1師団からお知らせがあります。」


女性がそういうと2階席にいた各地域の大臣たちがざわつきだした。


 「我が第1師団の師団長はこれまでは諸事情により表立った活動は控えていましたが、相手も本格的に動き出したので本日から本格的に参加します。」


 「お~あの第1の師団長が。」


 「いったいどんな奴なんだ。あの斉記の後釜だからさぞかし強いのだろうな。」


 「それでは師団長から一言ご挨拶があります。」


後ろの扉から背中に『壱』と書いた黒色の羽織に紺色の着物姿で腰に刀を1本携えて狐のお面をつけた人物が入ってきた。入ってきた人物は、身長は170㎝くらいのごつすぎず細すぎず平均的な体型をしており右手の人差し指には指輪をしていた。


 「翔、第1師団長ってもしかして。」


 「あぁ、多分あいつだろう・・・」


翔と向日葵は以前から第1師団長に対しての心当たりがあったが、第1師団長の姿を見て確信に変わった。

第1師団長はお面を外して、自己紹介と挨拶を始めた。


 「皆様お初にお目にかかります。第1師団長を務めています。夜岸悠と申します。」


 「「やっぱり。」」


 「少し前まではまだ学生という身でしたので表立った活動を抑えていましたが、敵も本格的に動いてきたのでこちらの仕事に専念しようと考えた次第です。私は、まだ15歳です。不安に思うかもしれませんが、これからも身を粉にして努めてまいりますので何卒宜しくお願いいたします。」


 「ふざけるな!」


悠が挨拶を終えると、悠を出迎える拍手の前に2階席から悠を批判する声が上がった。声を上げたのは中央部と南部の大臣だった。


 「そんなガキが第1師団長?ふざけるな!こっちは、お遊びに付き合ってる時間はないんだ。」


 「中央部の大臣の言う通りだ。おい!李、スターク。お前たちそこのガキをつまみ出せ!」


しかし、2人とも即座に


 「無理。」


と答えた。


李梓豪リ・ズーハオは第7師団長、スターク・デイビスは第3師団長で二人とも戦闘能力はずば抜けて高く、トップクラスに強い師団長だ。


 「なぜだ。お前たちの強さならそのガキを簡単に倒せるだろう。」


 「だから無理ですって。悠はこの若さでここにいる全師団長の誰よりも強いんですから。」


 「そうそう、誰モ悠に1度モ勝てタことナイ。」


 「なんだと!そんなわけないだろ。わかった『ギフト』だ。『ギフト』がかなり強力なんだろ。」


中央部の大臣の言葉に師団長全員がため息をついた。


 「悠の『ギフト』が強力っていうなら俺たちの『ギフト』チートだな。」


 「間違いないのう。悠坊の『ギフト』はとても強力とは言えんのう。」


スタークに続いて返したのは第5師団長のアドロフ・マキシムだ。彼は師団長最高齢の85歳で見た目はよぼよぼのおじいちゃんだが、師団結成時から今現在まで現役で活躍している。


 「オイガキ!お前の『ギフト』は何だ。」


南部の大臣が悠に向かって指をさして怒鳴りつけた。


 「自分の『ギフト』ですか?自分の『ギフト』は【武器使い】ウェポンマスターと言います。私が触れたありとあらゆる武器の使い方を一瞬で理解できるようになる能力です。」


 「は?それだけか?そんなわけないではないか!お前嘘ついているだろう!そんな弱い『ギフト』で他の師団長に勝てるはずない。それに、『ギフト』とは人智を超えた力。そんな能力が人智を超えた力であるとは思えん!」


 「『ギフト』だけで言ったら確かに悠は誰にも勝てない。だがな、悠は異常なほどの訓練量と特殊な武器によって今の地位にいるんだ。今ここに座っている誰ひとり何の不満もねえよ。」


 「ありがとう、スターク。」


会議を始めようと悠が自分の席に向かう途中、会場内に警報が鳴り響いた。


 「黒い霧発生!住民の避難を開始します。」


 「彩音、敵の数とここからの距離を教えてくれ。」


悠は、第1師団副師団長兼師団長秘書である涼風彩音すずかぜあやねに指示を出した。


 「はい。敵の数は50体そのほとんどが人獣型です。距離は約20キロ先方角は3時の方向です。地図にマークしておきますね。」


 「あそこか。ありがとう。避難状況は?」


 「出現場所は関係者以外立ち入り禁止区域に近い場所でほとんど住民がいないため約2分後に完了します。」


 「了解。近くに団員がいるなら少し離れるように伝えといて。」


 「かしこまりました。」


 「何をしている!早く現地へ行かんか。被害が大きくなるぞ。」


 「悠なら大丈夫ですよ。」


 「え?」


悠は右手に着けている指輪に口づけをした。


 「おいで『業魔ごうま』。」


悠が名前を呼ぶと、呼びかけに答えるように指輪から和弓と片手の手袋・腰に巻くポーチが出てきた。


 「なんだあれは?弓のくせに矢がない。」


 「まぁ見たらわかりますよ。」


悠は腰についてるポーチからBB弾のようなものを一握り分取り出し、頭上へ投げると、BB弾のようなものは矢の形の変わった。


 「どうなっているんだ!BB弾が矢に!」


 「悠の武器の一つ≪絶弓・業魔≫あれは使用者が触れた生物以外のものを全て矢へと変える。そして・・・」


無数の矢を作った悠はそのまま弓を引いた。


 「おい待て!そのまま打ったら建物が壊れるだろうが。」


悠はそんな言葉がまるで聞こえてないかのように弓を放った。


 『万生豪雨ばんせいごうう


放った矢は会場の壁を壊すことなくすり抜け、魔物のもとへ一直線にむかった。


 「業魔で放った矢は使用者が集中状態でいる限り、目で確認した対象のみに当たる必中の矢となる。」


魔物のもとへ向かった矢はすべて寸分の狂いなく魔物の心臓部分に命中し魔物を殲滅した。


 「あれだけいた魔物をたったの一撃で。しかも、人獣型を。」


 「お疲れ業魔。」


全滅を確認した悠は弓をお指輪に直した。


 「あれ~?師団長がみんないる。何人かはあっちに行ってるち思ったのに。なんでだ?」


悠たちが声が聞こえたほうを振り返ると、そこには陸王幹部の艮が立っていた。


 「あっ悠だ。なんか雰囲気変わったな。どうだ?強くなったか?」


 「艮。わざわざこんなところまできて何しに来た?」


 「陸王の旦那の指示でな。今日ここに来れば師団長全員と大臣たちがいっぱいいるから師団長と大臣たちを何人か殺して来いって言われたから。殺しに来た。」


艮は満面の笑みを浮かべていた。


 「俺らを殺す?だいぶ舐めてやがるな。悠、ここは俺にやらせてくれ。返り討ちにしてやる。」


悠がスタークの顔を見るとかなり切れているようで血管が浮かび上がっているほどだった。スタークが艮を睨みながら前に出ようとしたとき、悠はスタークの体の前に手を出して止めた。


 「いや、スタークここは譲ってくれ。ここでみんなの『ギフト』をばらすわけにはいかない。俺の『ギフト』ならばれても痛くない。」


 「だが・・・。」


 「大丈夫。絶対に負けないから。」


スタークは軽く頷いた。


 「わかったよ。負けんなよ。お前を負かすのは俺だからな。」


 「いや、俺ネ。」


 「わしじゃよ。」


後ろから李とマキシムが食い気味に言い合った。


 「おう、行ってくる。」


艮は黒い霧をいくつか発生させた。


 「話は済んだか悠。始めようか。」


 「あぁ、待たせたな。やろうか。」

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