第1章3話 第1師団との戦闘訓練
訓練が開始されてから約1か月がたった。
訓練の内容も基本的な体力作りから実践的な模擬戦が増えていった。今日の訓練内容は、いつもの訓練内容とは異なり第1師団の団員が特別に実践練習の相手になってくれるというものだ。今回のこの訓練を経て自分がこれから団員になった時にどのように戦っていくかの土台を決めていく。
師団の戦闘員の戦闘スタイルには大まかに3種類に分類される。ガントレットやメリケンサック、暗器などを身に着け、体術を駆使して戦う超至近距離タイプ・刀や薙刀などの近接武器を使って戦う近距離タイプ・銃を使った狙撃で味方のサポートや戦闘を行う中遠距離タイプの3種類である。
訓練開始時、普通科の1年生全員はグラウンドに集められてた。
「おはよう。100名の普通科1年の諸君、本日の訓練の全体的な指示を担当する第1師団副団長の
1人の師団員が1歩前に出た。その師団員は、筋骨隆々で髪型はオールバック。180㎝以上はあろう大男で正に一昔前の日本男児のような貌であった。副師団長の横には、団員であろう男女が5人立っていた。
「本日、普通科1年の諸君には一通りの戦闘スタイルを実践的に体験してもらう。それぞれのクラスに1人ずつ団員をつける。その団員が君たちの相手をしてくれる。第1師団の中でも経験も豊富で実力もある。遠慮なくかかっていきなさい。」
「それではまず、1・2組が超至近距タイプ、3・4組が近距離タイプ・5組が中遠距離タイプをやってもらう。お前たち、後は頼んだ。」
新田副団長の合図の後、団員たちは生徒たちを誘導し始めた。翔と悠ら1組は団員についていき、広めのグラウンドにやってきた。
「はいでは、本日1組を担当する第1師団新田隊隊員の
師団の戦闘員は、基本的に隊単位で行動し、討伐数や地域貢献度など活躍が認められると自身の隊を結成することができる。中でも新田隊は、第1師団副師団長新田荒太が率いる戦線の最前線で魔物の討伐を行う各々が討伐数4桁越えの魔物討伐のエキスパート集団である。
萩原という男性は、身長は170㎝未満でさほど高くなく筋肉も薄く痩せ型な体型をしていた。しかし、萩原も新田隊であり、討伐数は1200越えの第1師団の中でも屈指の実力者である。
「1つの戦闘スタイルで時間は20分とのことだったので1回につき5分で5人ずつ来てください。私からは一切攻撃を致しません。私に一撃与えられるように頑張ってくだい。」
萩原が提示してきた条件は明らかに翔たちを舐めているといわれても仕方がないような条件だった。だが、ここにいる誰もがこの条件は舐めているのでなく妥当な条件であると判断した。それほど今ここにいる萩原と自分たちとの力の差があることを自覚していた。
最初の5人が出て戦闘訓練が始まった。1組目・2組目ともに誰も一撃を与えられないまま、悠の番がやってきた。悠はかなり善戦して当たりそうになったがギリギリのところで攻撃をいなされてしまった。最終4組目の翔も善戦し、萩原の顔に翔の蹴りがかすったところで時間がたった。
「いや~、まさか掠るとは思ってなかったよ。みんななかなか体術のレベルは高いね。じゃあ、次は近距離タイプの訓練だね。形式はさっきと一緒で、刀とか薙刀とかいろんな武器が置いてあるから好きなのを使ってね。武器は訓練用でゴム製になっているから体に当たっても大丈夫だよ。」
正直、みんなかなり疲弊していたが萩原はまだ全然元気だった。先程20分間20人分いなし続けた人とは思えなかった。
訓練の休憩時間に1人のクラスメイトが萩原にある質問をした。
「あの~第1師団ってどんな訓練をしているのですか?」
その質問に萩原は優しく答えた。
「基本的にはここの訓練と何ら変わりないよ。戦闘員同士の組手だったり基本的な体力づくりだったり、後は隊員同士での連携確認とかかな。訓練内容はあまり変わらないけど少しハードになっているだけって感じかな。まぁ大きな違いはたまにうちの師団長が相手になってくれることかな。」
萩原の答えを聞いて他のクラスメイトが続けて、
「師団長ってどんな人なんですか。」
「それについてはごめんね。師団長については口外禁止なんだ。」
「そうだな。1つ言えるのは全師団員、全師団長を含めたの中でトップクラスで強いってことだね。そんな人が相手をしてくれるんだから自然と力はつくよね。討伐数もダントツでトップだし。」
「因みに師団長と副師団長の討伐数って聞いてもいいですか?」
「う~ん、まぁ討伐数は大丈夫か。副師団長の討伐数はもうすぐで1万に到達するって言ってたな。師団長は、正確な数字はわからないけど少なくとも副師団長の10倍以上は言ってたかな。」
「10万体以上って。強すぎだろ。」
移動中にいろんなことを聞きながらその日の訓練は全て終了した。残念ながら誰ひとりとして萩原に一撃を入れることはできなかった。
翔が今日も悠と向日葵と帰ろうとしたとき、悠が
「ごめん、今日はこの後行くところがあるから一緒に帰れない。先に帰るね。」
「おうわかった。気を付けて帰れよ。」
「うん、お疲れ。」
翔は向日葵と帰りながら今日あったことを話していた。
「俺らの所に着いた萩原さん。めっちゃ強かった。何とか顔は掠ったけどそのあとの攻撃が全く当たらなかった。向日葵のところはどうだった?」
「めっちゃ強かった。こっちは掠るどころか一撃も入れられなかった。でも、相手女性だったけどあんなに強くなれるって知れてよかった。」
そんなことを話していると、近くで警報が鳴った。翔たちが後ろを振り返ると、黒い霧が発生していた。幸い、翔たちが今いるところは団員と育成学校の生徒以外が立ち入り禁止の区域であるため市民の避難の心配はしなくてもよかった。しかし、思いのほか近くで発生しており、魔物が出てくるまでに逃げ切れるか怪しかった。
「向日葵、走るぞ。とにかく距離をとって、団員の人が来るまで逃げるぞ。市街地だけには行かないようにな。」
「わかった。」
翔たちはすかさず走り出したが、魔物もすぐさま霧から出てきてしまった。
「よりによって人型かよ。なんか武器も持ってるしあれは銃?ライフルか?獣型もいる。あの獣何かわかる?」
「多分、チーター。このままの速度だと追いつかれる。」
「まじか。」
チーター型は翔たちを認識した瞬間、翔たちに向かって一直線に向かってきた。
「曲がるぞ。路地とか使ってジクザクに走ってチーター型がトップスピードにならないように逃げるぞ。直線で走り続けなきゃ逃げ切れる。」
翔たちが角を曲がろうとした瞬間、翔の体が痺れたかのように急に動かなりその場に倒れてしまった。
「翔!まさかあの銃ライフルじゃなくて麻酔銃?」
向日葵が人型に目を向けると銃口をこちらに向けていた。
「まずい追い付かれる。翔、捕まって。逃げるよ。」
「俺を抱えた状態であいつらから逃げるのは無理だ。」
「だからってここで死ぬわけにはいかないでしょ。」
チーター型が翔たちの目前まで来たところで、何かがチーター型の体を打ち抜いた。向日葵がチーター型を打ち抜いたものをよく見ると、和弓の矢だった。しかも、その矢全てがチーター型の心臓部分を寸分の狂いもなく射貫いていた。
その後、すぐに第1師団の新田隊が到着し、見事な連携で人型2体を討伐した。
「荒太さんこっち終わりました。君は訓練にいた子だね。けがはない?大丈夫?」
「はい、麻酔銃で撃たれて痺れているだけなので。」
現地を調査している団員に向日葵が
「あのこの矢を打ったのはここいる誰かですか?」
団員の1人がすぐに答えた。
「いや、これは師団長だね。相変わらずいい腕してるよ。ですよね荒太さん。」
「あぁそうだろうな。和弓の矢を寸分の狂いもなく心臓部分にだけを打ち抜けるのは師団長だけだ。多分もう次の仕事に行ってるだろうな。」
翔と向日葵は一目見たかったと少し惜しい気持ちになっていた。
「それはそうと、ちょっと状況を聞きたいからいくつか質問しても大丈夫?そんなに時間もかからないからさ。」
「はい俺は大丈夫です。向日葵は?」
「私も大丈夫です。」
いくつか質問に答え、もう遅いからと萩原に2人とも家まで送ってもらった。
「それじゃあ、ゆっくり休むんだぞ。明日には自分の戦闘スタイルが発表されるんだから。」
「はい、今日はありがとうございました。」
家に着いた翔は、疲れていたのかいつも行っているおじいちゃんとのトレーニングを行わずすぐに自室へ戻り眠りについた。
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