第1章2話 崖っぷち 登場!氷室師団長

学校終わりに帰宅しようとした時に町中で魔物が襲来し、市民の避難誘導をしていた翔ら。しかし、避難誘導中にハイエナ型の魔物に囲まれてしまい、一斉に襲い掛かってきた。

翔は、生身のまま避難している市民たちを身を挺して守ろうと襲い掛かってきたハイエナ型の1匹に向かって殴りかかろうとした。


 「翔やめろ!武器もないお前じゃ勝てないぞ。」


翔が今にも殴りかかろうとしたとき、1人の男がハイエナ型を切り伏せた。


 「やめな坊主。市民を守ろうとする心意気は立派だがな、考えなしに飛び込むのは感心しないね。すぐ終わるから下がってな。説教はこいつらを倒した後でな。」


 「は、はい。」


男は周辺を囲んでいたハイエナ型を次から次へと切り伏せていき、5分もかからずに数十匹はいたであろうハイエナ型を全て倒し切った。

その男は、推定190cmはあろう日本人離れした長身に耳下まで伸びている黒髪。背中には『弐』という文字の入った紺色の羽織を肩にかけた黒スーツ姿。手には魔物の血によって真っ赤に染まった氷でできた剣を持っていた。


 「悠、あの人ってもしかして。」


 「あぁ、この世に10人しかいないSRMG師団の師団長で、ここ東部を守護する第2師団師団長。【ニブルヘイム】の『ギフト』を与えられた氷室涼介ひむろりょうすけ師団長だ。」


『ギフト』。それは師団長にだけに与えられる人類が到底到達する事ができない人智を超えた力。15年前の大侵攻後から人間側に協力している魔物によって贈与される。人によって贈与される『ギフト』の能力は異なり、贈与されたからと言ってすぐに使えるようになるわけではない。扱えるようになるまで血の滲む様な特訓をしなくてはならない。

氷室師団長が贈与された『ギフト』の名は【ニブルヘイム】。触れたものを凍らせたり氷の武器を作り出したりできる能力。効果範囲はかなり広く、氷室を中心に半径100mは余裕で凍らすことができ、人的被害を考えないのであれば町1つ分は凍らせられる。さらには、複雑な冷気操作も可能であり冷気を操り対象者の内側から氷漬けにすることもできる。


 「すげぇ。あれだけいたハイエナ型がほんの一瞬で全滅。これが師団長の力。」


その場にいた全員が魔物を一瞬で倒した師団長の力に呆気にとられていると


 「お前ら、早く避難誘導終わらせろ~。まだ近くに魔物が潜んでいるかもしれないから。」


氷室の言葉に思い出したかのように避難誘導を再開させた。避難が浣腸した後、氷室は翔を呼び出した。


 「あっそうそう、さっき魔物に突っ込んだ坊主。ちょっと来い。」


 「はい。」


翔はすぐに氷室のもとへ向かった。


 「坊主、名前は?」


 「月風翔です。」


 「翔か。」


氷室は手を上へ上げた。翔は勝手な行動に殴られると思い、覚悟を決め目をつむった。だが、その手は頭に優しく置かれた。


 「さっきも言ったが考えなしに飛び込むのは感心しない。あの行動は自分の命を軽んじているともいえる行動だったからな。だが、自分の身が危険だとわかっていてもすぐに行動に移すことができる奴なんかはなかなかいない。市民を守ろうとしたのはよくやった。」


翔は安堵の息を漏らした。同時に師団長の力を見れて身近にこんな強い人がいるのかとワクワクしていた。氷室の説教が終わり少ししたら、遠くから団員であろう人が氷室に近づいて


 「師団長、魔物は全て殲滅しました。このあたりに魔物はいません。」


 「おう、わかった。先に帰って休んでな。ケガしてるやつがいたら治療受けるように言っとけ。」


 「さてと、俺も一応このあたり調べてから帰るわ。それじゃあ坊主ども、ちゃんと飯食ってちゃんと寝て驕らず鍛えろよ。」


翔らは市民の人たちに怪我がないかの確認と魔物が消えたことを伝え、自分たちの家へと帰った。帰りの道中、翔と悠は向日葵と合流し今日のことについて語っていた。


 「まじで!あの氷室師団長にあったの?すごっ。」


 「だろ、マジで強かった。ほんの一瞬で大量にいた魔物を切り伏せるんだよ。俺もいつかあんな風に魔物を倒せるようになりてぇなぁ。なぁ悠。」


 「あぁ、流石の強さだったよな。」


話している途中に向日葵は、悠の右手の人差し指に光る指輪が気になって聞くことにした。


 「ねぇ悠?ずっと気になってたんだけどなんでいつも右手の人差し指に指輪をつけてるの?見た感じおしゃれ指輪じゃなさそうだし、宝石とかもついてないしつけてる指的に結婚指輪でもなさそうだし。」


悠は指輪を見つめながら答えた。


 「あぁこれ?簡単に言えば、覚悟の証だよ。戦うためのね。」


 「まぁ、大事な人からもらったからつけてるっていうのが大半だけどね。」


翔がにやにやしながら


 「指輪をくれたのは女性か?」


 「まぁ。女性だけど。」


 「もしかして彼女か?まさかリア充だったとはな。この野郎。」


 「違うよ。俺、生まれてこの方彼女なんていたことないしね。指輪をくれたのは前にお世話になった人だよ。」


その話を聞いて、向日葵は翔たちにギリギリ聞こえないくらいの声で何かをつぶやき、安堵の息を漏らした。


 「なんだ、彼女いないんだ..。よかった。」


 「向日葵何か言ったか?」


翔が向日葵の顔を覗きながら言った。


 「ううん、何もないよ。今日はいろいろあって疲れたなぁって。」


 「まぁそうだよな。普通通りの授業と訓練に魔物が来て避難誘導までしたもんな。向日葵も疲れてるみたいだし今日はもう遅いから、この辺で解散するか。」


 「そうだな。明日も訓練あるし。」


 「そうね、もう眠いわ。」


翔たちはその場でそれぞれ帰路についた。翔が家の前に着くとちょうど帰ってきた母と鉢合わせした。


 「あら、翔お帰り。今日は遅かったね。補習か自主練でもしてたの?」


 「補習も自主練もしてないよ。放課後に街に魔物が現れたから避難誘導してたの。」


 「そうなの?気づかなかった。大変だったのね。ご飯今から作るからちょっと時間かかるけど早めに食べたい?」


 「母さん。道場って開いてる?開いてたら使いたいんだけど。」


 「道場?えぇっと、この時間ならまだじいちゃんが使ってると思うわよ。」


 「わかった。じゃあ道場でトレーニングしてからご飯食べる。」


 「了解。怪我だけしないようにね。」


 「うん。」


母はそのままキッチンへ、翔は一度自室へ戻って道着に着替えてから自宅の裏にある道場へ向かった。


 「なんじゃ翔。今日も来たのか。」


翔が道場に着くと、翔のおじいちゃんが上半身裸で大量の汗をかきながら150㎏の重りを担いでスクワットをしていた。


 「うん。まだじいちゃんに勝ててないし。今日こそ勝つ。」


 「なかなかいい目じゃな。よかろう。かかってきなさい。」


おじいちゃんは道着を着直し、翔と組手を始めた。組手開始から1時間、翔は投げられては起き上がり攻撃をすれば防がれ反撃を受けるを繰り返し、未だに一撃を与えられていなかった。


 「ほらどうした翔。蹲っていては勝てないぞ。」


 「わかってるよ。」


その後、もう1時間ぶっ続けで組手をしていたが一撃も与えることができず、最後には翔がおじいちゃんに裸締めで締め落とされて組手は終了した。


 「はぁはぁ、また落とされた。」


 「まだまだ青二才に負けるわけにはいかんからな。それにしても翔。今日の動きはなかなか良かったんじゃないか。危ない場面が何回かあったぞ。」


 「やっぱり!今日あった氷室師団長の動きを参考してみたんだっけど。」


 「ほぉ~そうなのか。」


その後、翔とおじいちゃんはストレッチをしながら今日の反省点を洗い出していた。


 「とまぁ、今日の翔の反省点はこのくらいかのぉ。」


 「うっ、前回よりは減ったけどまだいっぱいあるなぁ。攻撃後の隙の大きさに相手の動きを目で追ってしまう点。」


 「当然じゃよ。動きがよくなったとはいえまだまだひよっこ。魔物とやりあうなら今言ったことをできないとすぐに戦線離脱するはめになる。まぁ、せっかく育成学校に入学できたんじゃからゆっくり力をつけるがよい。」


 「うん。力をつける。卒業するまでに絶対じいちゃんを倒すから。」


 「青二才が気長に待っておるぞ。」


かけるとおじいちゃんが反省会をしていると道場に母がやってきた。


 「翔~お父さん~まだトレーニングしてるの?ってすごい汗。そのままじゃ気持ち悪いでしょ。早くお風呂入ってしまいなさい。もう少しでご飯できるから。」


 「今日のご飯はなんじゃ?」


 「今日はお父さんのリクエストのタケノコの炊き込みご飯と煮魚よ。翔にはプラスで唐揚げもあるわよ。」


 「だそうじゃ。ほら行こうか。」


 「うん。」


翔はお風呂に入った後、夕食を堪能して自室へと帰っていった。自室へと戻った翔は、撮っていた祖父との組手の映像を見ながら動きの研究に没頭した。

翔が道場へ向かう頃とほとんど同時刻、悠は自宅へ帰らずある場所へ向かっていた。

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