第14話
今日の六時間目も勿忘祭の会議として時間は使われる。
というか今使われている。
でもっても、険悪な空気が漂う。
やっぱり。そりゃそうよな、と達観しながらこの状況を眺める。
「はぁー、つまんな」
「だよねー」
「それなー」
教室の真ん中を陣取る朝日一行は教壇に立つ村山を睨む。
明確な敵意がその瞳の奥にはある。
朝日はわかる。昨日からこの態度だったから。むしろ急に軟化した方が怖い。だからこれで良い。こうあるべき。
取り巻きまでこうなっているのが意味わかんない。いや、意味はわかるか。どうせ朝日がなにか唆したのだろう。
でも彼女たちの瞳には敵意がある。
取ってつけたようなハリボテではない。
はっきりとした敵意。
一晩で抱けるようなものではない。朝日が工作したくらいで作れるようなものでもない。
「なんだこれ……」
思わず呟いてしまう。
でもそのくらいに意味がわからなかった。
「つまんねぇー? お前らの脳みそが幼稚だからだろ」
「そうだそうだ! お前らが馬鹿なんだよ」
「ばーかばーか」
一人明らかに頭の悪そうな奴がいたが、村山は村山で徹底抗戦の構えを見せる。
「もっと面白い話を書いてからそこに立って欲しいんだけど」
「それなー」
「この面白さがわからねぇーってことはやっぱり頭悪いんだな」
「ばかばかばかばか」
「おめぇーは黙ってろ」
売り言葉に買い言葉。
酷い惨状だ。
とても学校行事の話し合いをしている空気感ではない。
こんなのただの喧嘩だ。
ちなみにリアれての第一巻もここまでヒートアップしていない。リアれての第一巻は喧嘩しかけたところで、白鷹が動き始めて、それが気に食わなかった朝日が白鷹を虐める……という展開。その中で白鷹は寧々や鈴と仲良くなっていく。
なにがどうなっているのかはわからないが、現状既に物語は私の知っている進行方向とは違う方向に向かって走っているのだろう。もしくは違う経路を使っているのか。
まぁどちらにせよ知らん、という事実は変わらない。
「アンタが脚本から降りるなら劇に協力してあげるわ」
「いらねぇーよ。お前らなんかいなくたって成功させられっからな」
「へー、そー。ふーん」
「当たり前だろ。なめんなよ」
バンっと教卓を叩く。
朝日の近くにいる女性陣は顔を見合せて大笑い。その笑い声の波を割るように朝日は口を開いた。
「ぷーくすくすくす。男だけで演劇成功させられるの? 無理でしょ」
「無理無理」
「ありえないよねー」
「なに考えてんだろ」
と、朝日の煽りに乗っかる。
「男なめんな」
「あー、こわこわ。ちょーこわい」
悪役設定しただけのことはある。話の持っていき方が上手だ。
男子と女子という構図を見事に作り上げた。
私含めたこの言い争いに未参加であった女子も半強制的に朝日陣営に足を踏み入れることになる。私たちに拒否権なんてものはない。
仮に男子陣に味方しようものなら「ビッチ」「ヤリマン」「媚び売り」と散々言われるのが目に見える。
もうほんと……誰だよこんな面倒なキャラクター作ったの。わー、私じゃん。泣きそう。
「恐喝するような人の脚本で演技なんてできないよねー」
「ねー」
こうして女子間で男が悪いという印象を抱かせる。村山側は敵であると植え付ける。
事前知識がなければ私もまんまと朝日の味方をしていたような気がする。危なかった。
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