第7話
人脈構成。
本来ならばクラスメイト全員と早急に繋がりを作るべきなのだろう。
それが理想、というのは誰に言われなくとも理解している。
理解していても実行できるか否か。それは全く別問題だ。
やりたくてもできないことなんてこの世の中山のように存在する。どういう作品が市場は求めていて、売れるかというのを頭の中ではわかっていても、実際筆をとった時に書けるわけじゃないのと同じ。そりゃ私だって異世界転生物を書きたかった。でも編集さんに「先生は絶望的に戦闘描写が下手なのでラブコメ書きましょう。恋愛に主きをおいた異世界転生物なら書いても良いですよ」と言われる始末。まぁ良いや。私のことなんてどうだって良い。とにかくそういうこと。
理想と現実は似たようなもので全くの別物なのだ。
今回の場合は時間的制約が私を襲う。
例えば時間を止めるような特殊能力を持っているのであれば、理想を手にすることはできる。だが当然ながらそんな能力は持ち合わせていない。当たり前。
その制約の中でできることをする。確実性を持たせる。
これらを考えるとリアれての主要キャラクターに声をかけて、チマチマと人脈を広げていく。それが大事なのかなぁと思うわけだ。
もしかしたら的外れなのかもしれないけど。
こればっかりは蓋を開けてみないとわからん。
ただ私は間違っていないと思っているし、思いたい。
「それはそれとして……」
実はこれは些細な問題。
今、私はとんでもなく大きな問題に直面しているのだった。
それはそう。命に関わるほどの大きな問題。
「どうするか……ほんと、どうしよ」
駅のロータリーを右往左往する。
時折足を止めて、うーんと悩む仕草をしてからまた右往左往。
傍から見れば完全に怪しい人だ。
隣を通り過ぎる親子連れは子供の目を隠したり「見ちゃいけません」とか言われてるし。
完全にヤバい人。
簡単にヤバいとか使うなって言われるけど、こればかりはヤバいという表現以外見当たらない。
でもこうなるのも詮無きこと。
だって、私の家どこなのかわからないんだもん!
帰る家があるのか否かすらわからない。
学校に突然放り込まれたのだからしょうがない。知っているはずがないのだ。そもそも未だに私のフルネームすらわからないのに。
右往左往していたってなにも解決しない。
それはわかっている。わかっているのだが、じっと立ち止まって考える。
落ち着いていられるほど冷静でもない。
このままだと野宿確定。
側が男であるのならまだしも、女だ。しかもやけに可愛いし。
割と本気で襲われたりするんじゃないかと思う。
「なにしてんの?」
つんつんと肩を突っつかれる。
突然声をかけられてビクッと肩を震わして、恐る恐るその声のする方へ顔を向けた。
そこに立っていたのは鈴。
ポニーテールを揺らし、不思議そうにこちらを見つめる。
「南陽さん……!」
歓喜あまって抱きつこうとするが、するっと避けられた。
「なんで避けるの」
「突然抱きつかれそうになったら避けるのは当たり前では? ぼーえー本能だよ」
「それもそっか」
三秒で言いくるめられる。
「で、それよりもなにしてんの? ほんとに」
「うーん、トレーニング?」
「駅前でうろちょろするのがトレーニング?」
「ほ、ほら。足腰鍛えようかなって」
「絶対ランニングした方が効果的でしょ」
「それじゃあ疲れるし」
「疲れるってことは効果あるってことでは?」
「疲れずに効果感じたいんだよ」
「んな、無理難題だー」
「そうかな」
「そうだよ。じゃなくて! なにしてんの。ほんとに」
誤魔化せた! と、思ったがそんなに甘くないらしい。
えー、鈴はかなりちょろいしいけるかなーと思ったんだけど。
「ねぇ、三川さん。なにか物凄く失礼なこと考えてるでしょ。こう見えてけっこー人の表情みてんだよ、私」
簡単に見透かされて、萎縮する。
「気のせいじゃない?」
と、笑って無理矢理誤魔化す。
「まぁ良いかー」
「なにが?」
「三川さんが言わないってことはさー、言いたくないようなことなんだよね」
なんの話かと思ったが、脱線したものを元に戻したらしい。
「ほんとーはどーしたのか気になるけど、無理してまで聞き出そーとは思わないから。互いにふこーになるだけだし、それじゃあ」
「う、うん」
頷きつつ考える。
本当にそれで良いのか、と。
家がないんですとか、帰る場所がわからないんです……なんて言えるはずがない。かと言って、誤魔化し通して鈴とサヨナラバイバイしたとしよう。
そのあと私はどうすれば良いのか。
本格的に野宿が確定してしまう。
うー、それだけは避けたい。
ならやっぱり鈴に縋るべきなのではないだろうか。事情も話せる限りのことは話してさ。
私の知っている鈴であるのなら、これを話したところで怪奇の目……は向けるかもしれないけど、軽蔑したり、頭おかしい子扱いしたりするようなことはしない。多分真摯に受け止めてくれる。まぁ願望混じりではあるが。
というか、そもそも、だ。
私が今回避したいのは野宿。それを回避するために、事情をぺらぺら喋る必要ってあるのだろうか。
いいや、ない。
それとなく嘘を吐けば良いだけ。そんなに難しい話ではないのだ。
「親と喧嘩した」
迫真の演技。
「喧嘩?」
「うん、喧嘩」
「なるほどねー」
咄嗟に出てきた嘘。
もう口にしてしまった以上引き返すことはできない。
突き進むだけ。
嘘に嘘を重ねる。ここまで来たら怖いものなんてなにもない。この先に待つのが破綻なのだとしても。知ったことか! 今生きる。それが大切。
というわけで、適当に事情を説明もとい作り上げた。
腐ってもクリエイターだ。
それとなく話を作り上げるというスキルは一般人に比べて高いと自負している。
「なるほど」
真面目な顔して聞き入れた鈴はうんうんと頷く。
見知らぬ両親へ。ごめんなさい。悪者にしちゃいました。
「それならさ、ウチ来る?」
「え、良いの?」
「あんまり広くないし、歓迎できるようななにかがあるわけじゃないけど。でもこのままだと三川さん外で一人でしょ?」
「そうなるかなー。家に帰るつもりはないし」
「それならどうかなって……。あ、あれだよ。もちろん無理にとは言わないからね! 嫌なら嫌って断ってくれてかまわないから!」
私が黙っていたからか、慌てながら逃げ道を作ってくれた。
もっともその逃げ道を使う気はない。
むしろ彼女の提案は私にとって好都合。なんならそれを狙っていたまである。
「お願いしたいかな」
「うん、良いよ」
えへへ、と鈴は笑う。
こうして私はなんとか宿を手に入れることができた。
問題の先延ばしでしかないような気もするが。まぁ家を見つけるまで猶予ができたと思って、必死に探していこうと思います。
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