第6話
帰りがけに白鷹を見つけた。
一巻の序盤。主人公はまだ孤独なタイミング。
だから主人公オーラは一切出ていない。
包み隠さずに目の前のオーラを説明するのなら、陰キャである。
しかも結構レベルの高めな陰キャ。髪の毛はセットしてないし、猫背だし、目線は常に地面を向けられているしの欲張り三点セット。
なんでコイツが陽キャの権化みたいな村山と親友なんだよって感じ。
まぁそう設定したのは私なんだけど。
執筆当時はもちろん、マンガ化やアニメ化した時でさえ違和感として覚えることはなかったんだけど。現実となった瞬間に違和感は溢れ出る。
「白鷹くん! こん……ばんは!」
今の時間って微妙だよね。午後五時。だけど太陽は沈んで暗い。こんにちはかこんばんはかで一時間くらいは悩める。時間の無駄なのでこんばんはで決め打っちゃったけど。
「こんばんは……。誰?」
怯えたような眼差しを向けられたと思えば、明らかに距離をとられる。
どうやら警戒されているらしい。
一応制服をアピールして、身内ですよと遠回しに伝えておく。怪しいものじゃないですよーってね。
まじまじと見つめられる。
足元からつーっと舐めるようにてっぺんまで凝視。
そんなに熱い視線を浴びせられると流石の私もか恥ずかしくなってくる。
もじもじしていると怪訝そうな眼差しに切り替わる。あ、警戒された。
「怪しいものじゃないよ。私は三川……えーっと、三川! 白鷹のクラスメイトの三川!」
なんということだろうか。
苗字しか知らない。
間抜けすぎる。
と、今更気付いたところでどうしようもない。適当な名前を貼っつけたとしても、遅くとも数日後にはバレてしまう。
わざわざ危険な荒野を歩くような真似はしない。
だから苗字だけでゴリ押しを試みる。これはこれでどうなんだろうかと悩んだりもするけど。変な名前を勝手に付けるのに比べればマシだろう。多分。
「いたっけな、そんな人」
「いたよ、てか、いるよここに!」
ほらほら、と指を差す。とんとんと鼻の頭を叩く。
眉間に皺を寄せ、ぐぐぐとこちらに顔を寄せる。
なにかの拍子に動いたら額と額がぶつかりそうな距離感。
それでも白鷹は気にしない。主人公らしさ全開と言えるだろう。誰だよ、こんな悪い意味で鈍感な設定組み込んだの。あ、私か。
「記憶ない……やっぱり怪しい人。犯罪者。もしかして俺の命を狙う殺し屋かも」
話が飛躍しすぎている。
この主人公君、思考回路が結構私に似ている。執筆時はそこまで気にしていなかったが、一人称視点で物語を書き進めていたということもあって、どうも主人公と作者の思考回路は似たりよったりになってしまっているのだろう。
解せない。本当に解せないけど。
でも逆に考えてみよう。
私と思考回路が似ているのであれば、私が言われて嫌なことはこいつも面白くはないはず。
「厨二病かよ」
だからチクリと刺す。これは作戦とかではない。完全なる私怨。ウザイからね。仕方ないよね。
「なっ……」
殴られたかのように言葉を失う。
言葉が綺麗に刺さったようだ。
もうこんなの実質私のコピー品じゃん。男版の私である。
なんか嫌だな。
「どうせ人の名前を覚えないのがカッコイイとか思ってるんでしょ」
「いや、そんなことはないし。大体……三川さんのこと覚えてるから」
生ぬるい挑発にどかんと乗っかってくる。ちょろい。
「さっき覚えてないって言ってたような」
わかりやすい煽りをしてみる。
「それはー、そう、気のせい、気のせいだから」
「へー、そう」
ぶつっと回線が途切れたかのようにどうでも良くなったので適当な返事をした。
「で、そのクラスメイトの三川さんは俺になんの用?」
校門を出たところで足を止めて尋ねてくる。
「そうだった」
弄るのが楽しくて主目的をすっかり忘れていた。
「クラスについて聞こうと思ってたんだよね」
「ふーんクラスについて?」
「そう。雰囲気最悪でしょ今」
「まぁそうだね。酷いよね、あれ」
「それについてどう思ってるのかなって」
かしこまって尋ねるとどうも取材っぽくなってしまう。
軌道修正を試みたが、より一層取材っぽくなってしまって諦めた。
「それについてって言われても。酷いよなーって思うくらい」
「酷いって具体的には?」
「具体的に……。身勝手とか」
「誰が」
「うーん、輝も朝日さんも自分勝手ではあると思うよ。心情的には輝を全力で擁護してあげたいけど」
「けど?」
「教室での問答は売り言葉に買い言葉だったよなーって。今改めて考えてみても思う。あ、あと……」
白鷹は曲げていた背筋をピンッと伸ばし、つーっと視線を逸らす。
「顔近い」
両手をあげながら、ぐへへと気持ち悪い笑い声を出しつつ、私から距離をとる。行動と声があまりにもミスマッチ。
「ごめん、つい」
こちらも周囲が見えなくなっていた。
鬼気迫る……というつもりはなかったけど、白鷹視点はそう見えていたのかもしれない。
これは素直に反省すべき点だ。
でも目の前に自分の作ったキャラクターがいるとどうしても興奮してしまう気持ちも理解して欲しい。もっとも本人に伝えることはできないので、自分の心の中で消化するしかないのだが。悲しい。
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