第4話

 六時間目。

 この五十分は勿忘祭のための時間である。

 担任らしき人物に「有効に使えよー」と言われ、その教師は足早に教室を後にした。教室にぽつんと残された私たちは渋々ではあるものの、話を進めていく。


 「ってわけでー、オレが脚本を書いてくわけだが。とりあえず仮案を簡単に書いたんで、目通しておいてくれ。頼むわ」


 教壇に立ち滔々と喋って、スマホを触り、データを送信する。凄い。現代的。

 私の持っていたスマホもぶるりと震えた。

 良かった。ハブられるのかなと思ったが、一応クラスのグループには入っていたらしい。


 「あんさー、これ前と変わってなくない?」


 こつんとスマホを机上においた朝日は不満たらたらだ。

 誰がどう見てもわかる。圧倒的不機嫌。

 直感的にコイツを怒らせたらまずいと理解できる。故にクラス内の雰囲気はひりつく。一触即発。燃料があれば燃えてしまう、とみんな理解しているから慎重になる。慎重になるというな触れない。触れたら爆発するのが明白だから。触らないのが賢明な判断だとも思う。


 「なんで変える必要があんだよ」


 この空気感をものともせずに村山は果敢に突っ込む。怖いもの知らずも良いところだ。少なくとも私には真似出来ない。というか、したくないね、真似。


 「私がいやだからに決まってんじゃん」

 「んだそれ、めちゃくちゃ私情じゃねぇーか」

 「いやなのに無理矢理やらせようとしちゃうんだー。ふーん、へー」

 「三十何人の意見を一人一人配慮してたらなーんにもできねぇーだろーが。あほか」

 「配慮するのが仕事なんじゃないわけ?」

 「物語を作るのが仕事。演劇用にストーリーを組み立て直すのが仕事。配慮すんのはかんけぇーねぇーよ」


 村山と朝日の間で火花を散らす。

 クラス全体は身構える。

 だが私はのうのうとしていた。

 理由はシンプル。

 こういう展開になることを知っていたから。

 なんならこういう展開を描いた張本人である。変に仲良しこよしされる方がこちらとしては困ってしまう。

 知らない展開になるほど怖いものはない。この後どうなるかわかっているというアドバンテージを失うことになるから。それだけは本当に勘弁。


 「とにかくあたしはやらない。そのまんまなら女子はやらないから」

 「あーそーかよ。言っとけ。おい、男子! これ草案じゃなくて確定だからな。読み込んどけよ。誤字脱字あったら台本作成前までに報告してくれ」

 「ふんっ」


 村山は男子に向かって指示を出し、朝日は機嫌悪そうに廊下へ消えていく。それを見て取り巻きたちは「わーっ、ちょっと待って!」と騒ぎながら慌ててパタパタと走り、追いかけた。

 ここからさらにもう一波乱あるわけだが、私にはそこまで関係のないことなので、のんびりと登場人物たちを愛でることにしますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る