第27話 【流星姫】

 意地と意地のぶつかり合い。こいつの心情なんてどうでもいいが、勝手に格付けさせてもらう。


「ぶっ飛べ————!」


 赤き龍の全身を、俺の銀炎が襲う。聖なる炎と燎原之炎。A級に上がり、魔力量が上がり、ついでにテンションも上がった今の俺は、チャージなんてしなくても【燎原之炎】の効果を出せるし、なんなら聖なる炎も同時使用できるようになった。もちろんチャージしたほうが威力は高いが。


 あらゆる守りを突破する【燎原之炎】銀の炎。あらゆる能力を高める【完全燃焼】と【聖なる炎】二つの金の炎。これらを使い熟せるようになった今の俺なら、こんな赤いだけの龍、正面から吹き飛ばせる——!


「■■■■■■■■■■ァァ!!!!!!」


 怒り、叫びながら悶える巨龍。堅牢な鱗の装甲なんて関係なく、存在そのものを燃やし尽くす炎が、ヴァルグニールの全身で煌く。いくら炎に強い赤龍でも、この炎は無視できない。


 現れた時に開けた大地の大穴に帰ろうとするが、


「――――【流星姫】スターライト


 そこにはもう未来がいる。


 ただブレスを避けるために跳んだわけではない。目標も本心も共有した今の俺たちは以心伝心。目線一つあれば、連携ぐらい簡単に取れる——!


「フッ————!!」


 炎に染まった地獄の世界を、一等星が駆け抜ける。


 太陽と月に嫌われた星の愛し子は、時を超えたかのような速度で赤龍を切り付け、その道筋に大量の血が空を舞う。


 反撃する赤龍の攻撃はすべて後手に回り、彼女を捉えることはできない。腕を、翼を、足を動かす度に風を吹き飛ばす音が世界をごうごうと響く。しかし、すべては空を切る。空振りによって壊される大地からは溶岩が吹き荒れ、もはやその戦いは神話のようだった。


:でっかはっやつっよあっつこっわ

:未来ちゃん強すぎだろ!

:S級なんて敵じゃない!

:デカいだけのドラゴンなんてぶっ飛ばせ!

:星魔法ってこんなことできんのかよ……

:使い手少なすぎて星落とす以外あんま分かってないとはいえ、光の速さ……?

:早すぎてただ光ってることしかわからん


 未来が通った後には光が残り、星座を描いているかのような軌跡が宙に現れる。


「逃がさない————!」


 一閃、二閃、三閃。


 剣が斬りつけた部位に残る魔力光が、どんどんと空へ昇っていく。


 吹き出る赤い血とともに天へ昇る星のような輝きは、鮮烈な美しさを持っている。


 一方、ヴァルグニールの赤い鱗は、あちこちが剥がれ落ち、露出した肉は焦げ付き、そこかしこから血と溶岩が溢れ出していた。強大さを誇った翼も、切り裂かれ、無残に垂れ下がっている。


 空を飛ぶ時間なんてどこにもない。強大さを示す翼はもはや、ただの重りになっている。


「■■■■■■■■……」


 呪いの影響のない、ハンデを持たない未来が、天へと右手を突き上げる。


 その瞬間、未来がこれまで使ってきた星の魔力が巨大な球となって

集結する。龍の巨躯に決して負けないほどのそれは、赤龍の体へ大きな影を落とし——、


「時間がないの、さようなら」


 【赤龍ヴァルグニール】を飲み込んだ。


 


 経っていた周囲の地形すべてを巻き込み、大地が崩壊する。瀕死の赤龍から感じ取れる魔力は最初のころより明らかに小さい。


 しかし、それでもこいつはS級だった。龍としての誇りだろうか、強い意志を感じる瞳が、吹き飛び沈んでいく大地の上でもこちらを睨みつけている。

 

 飛べないほどボロボロに切り裂かれ、焦げ付いた赤の翼。ただ地の底へ落ちていくだけの魔物の王。これで、この層は終わりだ。


 そう思った瞬間————、


 最後の雄たけびを上げたヴァルグニールは、翼ではなく四本の脚で跳躍し、こちらへと迫る————!


「■■■■■■■■ァァァア!!」


「最期の抵抗……来い、力勝負だ」


 超速で迫る巨体を、真っ向から迎え撃つ。


 【完全燃焼】を使用し、俺も最速でトドメを狙う。


「食らえ——―!」


 焦げ付いた右腕に纏う赤炎と、俺の金炎が衝突する。


 【酒吞童子】よりも力だけで言えば遥かに重い一撃。


 しかし、今の俺たちは、あの時よりさらに強い——!

 

 それを確信し、赤龍の攻撃を押しとどめる。その刹那——、


「【月光一閃】!」


 読み通り、未来の追撃が無防備なヴァルグニールへ致命傷を与える。


 それがダメ押しとなって、【赤龍ヴァルグニール】は、力を失い落ちていく。


 割れ切った大地に空いた大きな溝へと墜落し、光となって消えゆく姿を見届けた俺たちは、消耗を抑えてこの層を突破した。




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