第24話 呪い
「誰にも頼れなくなった私を、もう一度信頼させてくれたあなたが好き。自分が危なくても私を信じて、一ミリも疑わずに背中を預けてくれるあなたが好き」
俺の頬に手を添えて、
「些細なことで子供みたいに笑うあなたが好き。いつも優しく気遣ってくれるあなたが好き」
囁くように、穏やかに、
「私にこの気持ちをくれたあなたが好き。いつも眠ることが嫌で嫌で、怖くて仕方なかった私が、明日を楽しみに思えるようになったのは、あなたのおかげなの。明日も会えるのかなって思うと、一日の終わりのはずの睡眠が、新しい一日の準備みたいに思えて、嬉しくなったの」
落ち着いた声が、心の奥まで響いていく。
「五年前から一度も私には縁がない太陽だったけど、わかった。あなたが私の太陽だったんだね。あったかい気持ちをたくさんくれて……前を向けるようにしてくれて……ほんとに、ありがとう。大好きだよ」
そのあまりにも大きな好意の言葉を、ただ聞くことしかできない。
別れの言葉みたいに。
「そんなあなたが一人で戦うのを、ここで見てろっていうの? 二人でも苦戦してきたダンジョンのその奥で、たった一人で戦うところを。そんなの嫌だ……!」
もう会えないみたいに。
「呪いのことが知られたら、絶対に私を助けるために無理をするってわかってる。私のせいでレオが死ぬなんて絶対に嫌だ。だから、私のことなんて忘れて……元通り、楽しそうに配信するところを見せて? 私は、あなたがくれた小さな希望を大事に抱えて、最期の時まで見守ってるから……」
最後の言葉みたいに、言葉を紡ぐ。
「だから……もう会わないで。来ないで……? 一人で頑張るから。私、嘘ついてたんだけど、実はレオより一つ年上なんだ。お姉ちゃんだから、一人で黒龍くらい倒せるから。だから、私のことなんて忘れて、幸せになって……? 愛花ちゃんだっけ……? あんな可愛い子がいるんだから……大丈夫だよね?」
だんだんと支離滅裂になっていく未来の言葉を受け止める。
そんな願い、受け入れられるわけがない。せっかくできた仲間が苦しんでいるのに、難しいから、ほとんど不可能だからと諦めて、未来のことを忘れる事なんて絶対にできない。
こんな俺のことを好きだと言ってくれる相手なら、なおさら、絶対に。
誰も信じられなくなった未来は、俺を信じてくれたと言っているが、まだ完全には信じてくれていない。俺一人では【千呪の黒龍】は倒せないと、諦めているから。まだ、過去の絶望に囚われているから。
「未来。俺は他人じゃないんだろ? じゃあ、助けてって言ってくれよ」
「…………ぇ」
「実は俺さ……誰かを好きになるとか……情けないけど考えられないんだ。考えようとすると、心が勝手に反発してくるんだ。厄介なことに」
五年前のダンジョン災害で、呪われていたのは、俺も同じ。
「五年前に守りたい相手を守れなかったとき、俺には……誰かを幸せにすることなんてできないって痛感させられたから。だから、俺は今回【千呪の黒龍】を倒して……未来の呪いを解いて————俺の呪いを解きたい。ちゃんと答えを出すためにも」
優しくて、料理が上手で、可愛くて、ちょっと意地悪で甘えん坊な幼馴染。あいつをこの手で守れなかったあの日から、どこかで自分を縛り付けている。
どこまでも自分を否定してくる過去の自分の呪い。
お前は主人公ではない。お前にはそんな資格がない。お前は何も守れない。
未来を、愛花を魅力的に感じる度に、どこかからそんな声が聞こえてくる。
その呪いを解くために俺は、ダンジョンで強くなって……有名になって、自分が二人に見合うような人間であると、守れる人間になったと、自分自身に示したい。
「だから俺は、【千呪の黒龍】を倒すよ。————俺を、信じてくれ」
だからここで、証明する。
「せっかくだから、その可愛い声で助けて、って言われた方が嬉しいな。モチベが上がってさっくり倒せるかもしれないぞ?」
「本当に、いいの……?」
「最後まで戦うのは、止めないんだろ?」
「うん……。レオに頼ってここで祈ってるなんて、絶対にできない」
「じゃあ、二人でなんとかしてあの化け物を倒そうぜ。もし……もし、未来が途中で眠りに囚われても、俺が絶対に何とかするから。何があっても救い出すから」
「助けてって、言っていいの……?」
「ああ」
「信じて、いいの……?」
「もちろん」
「諦めなくていいの……?」
「少なくとも、俺がS級になるまでは仲間でいてもらわないと困る」
未来は、潤んだ瞳から雫を落とし、縋るように抱き着いてくる。
「助けて……レオ。私、まだ生きたい……あなたと、もっと一緒にいたい……!」
「わかった。絶対に助けるよ。未来が好きになった男は、世界一かっこいいって証明してやる」
「……うん!」
時間はあまりにも少ない。ダンジョンに潜れば潜るほど、未来の時間も短くなる。今のペースでは一層ずつしか攻略できない。単純計算で、あと四回。最短で四日。そんなに時間をかけていられない。
階層が深くなればなるほど呪いが強まる世界。未来の症状も下へ行くほど悪化すると考えれば、もっと、もっと強くならなければならない。
生き急いで、全力で戦い続けて、世界最速の記録を取ってきたこれまでより、さらにハイペースで強くならなければならない。それでも、やり遂げてみせる。
決意を新たにしたその時、病室の扉がゆっくりと開き——、
「全部聞いちゃった……あはは」
現れたのは、秋宮さんではなく、愛花だった。
————
ダンジョン配信で有名になって(強くなって自分の呪いを解いて)美少女(……)と結婚したい!
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