第20話 瘴気と勝機と決着と

 閃いた。


 活路が見えたかもしれない。


 七層までの探索、夜という状況での戦い、【雷鳴の獅子王】との死闘。これまでの戦闘を思い出し、あることに思い当たる。


 夜のダンジョンはなぜ危険なのか。


 暗さ故、魔物を視認しづらいから。それも理由の一つだろう。だが、魔物が凶暴化し、通常時よりも遥かに強くなってしまうことが、何よりも重要な問題だった。


 ここまで夜のダンジョン攻略を続けてきて、疑問があった。それは、なぜどの層でも月が出ているのか、ということ。過去の夜配信をいくつか見たことがあるが、そのすべての映像でも、空には月が出ていた。


 そして、今相対する【酒吞童子】は、月に照らされると、更に強くなる。

 

 これらの状況から考えるに、もしかしたら、魔物を強くするのは、月なのかもしれない。【酒吞童子】を倒すことで頭がいっぱいになり、視野狭窄に陥っていた。


 しかし、


 ――――月明かりが邪魔なら…………、


「はああああああああああああああ!」


「何だ……!?」


 月ごと太陽で隠せばいい————! 


「燃え上がれ————!」


 チャージしていた【燎原之炎】による炎。それは、こいつを殺し切るために使うわけにはいかない。


 第一層で使った、空に炎を打ち上げ、光源とする作戦。A級となってより多くなった俺のバカ魔力、大半を使い、あの日打ち上げた太陽よりも強大で、黄金を宿した炎を、禍々しい月の浮かぶ方へぶっ飛ばす。


「な——っ、なんだこの魔力は――!」


「やっぱり、当たりか!」


:効いてるぞ!

:【聖なる炎】最強! 【聖なる炎】最強!

:神秘的だぁ……

:勝てるぞ!!!!


 しかし、その太陽の維持に俺の集中力はかなり割かれてしまう。ただ光として在ればよかった第一層とは違い、現在は【聖なる炎】としての効力を保つ必要がある。魔力操作が苦手な俺では、体から離れた場所の魔力を制御しながら全力で戦闘することは、今はまだできない。


 両手を使って何とか魔力を込め続けている俺を、纏っていた瘴気のベールを剥がれ、弱体化した【酒吞童子】が嗤う。


「気持ち悪いことをしたと思ったが、お前は動けないようだな。愚か者、いい発想だったぞ、死ね」


 これを維持しなければ、勝機はない。


 これを維持すれば、【酒吞童子】の剛腕を防げない。


 二つに一つ。どちらを選んでも、俺に未来はない。


「愚か者はどっちかな」


 ——————俺に、仲間未来がいなければ。 


 明らかに俺との一対一に集中を割いている【酒吞童子】に対し、俺は虎視眈々と勝ち筋を探し続けていた。そして、俺が太陽を打ち上げたことで、未来を蝕んでいた呪いを克服できていることに気づいた。


 迫り来る【酒吞童子】。俺が体を動かす必要はない。赤く発光していた肉体は、金炎に照らされ、自身の体から放っていた輝きはどこにもない。その鬼の攻撃を、金に輝く銀髪の少女が押し返す。


「【魔の祝福】【星光の煌き】【限界突破】【流星姫】スターライト…………ふんっ! 私も、いるんだから——————!」


「なっ———!? 貴様、お荷物だった分際で……!」  


「呪いがなかったら……、あなたくらい、私たちの敵じゃない!」


 聖なる太陽とも呼べる、この魔法は、仲間を守り、敵対者を浄化する作用を持つ炎の効果が、極限まで高まっている。黄金と星光が混ざり合い、神聖なオーラを纏う未来が、敵を切り付けていく。


 あれほどまでに俺が苦戦していた【酒吞童子】が、どんどん押されていく。


 振るわれるすべての攻撃を、知っていたかのように完璧に対処し、【酒吞童子】の体がどんどん傷ついていく。今の未来の前には、硬い筋肉の鎧すらも意味をなさず、ついには、その右腕を切り落とした。


「ぐぁああああああああ!」


「これでとどめ————!」


 苦しみ喘ぐ鬼へと、未来が踏み込む。決め切ろうと首を狙う一閃。


 その時、【酒吞童子】の口元が歪み、邪悪な笑みが浮かんだ。


「間抜けっ!」


 切り落とされたはずの腕を即座に再生し意識外からの反撃を狙う【酒吞童子】。


 危ない、と声を出そうとしたとき、


「そっちがね————!」


 その腕はまた切り落とされていた。


「ぐ…………っ」


 圧倒。これがフルパワーの未来。今までは遠距離で半端ない威力の魔法を使う魔法使いタイプで、近接はあまり得意ではないのかと思っていた。


 しかし、どっちも行ける万能タイプなのかもしれない。


「この炎があれば、私は何の制限もないんだ。ごめんね。あなたにはもう、何があっても負けない」


「舐めるな……! 俺の再生力に終わりはない。この忌々しい太陽が消えれば、お前たちは終わりだ!」


 満身創痍ながらも、俺たちの消耗を狙う赤い瞳は死んでいない。持久戦に持ち込まれれば、実際俺たちは厳しいだろう。


「そうかもね」


 聖なる太陽と並行してチャージした【燎原之炎】。そのチャージ時間は過去最長。残っていた全魔力を費やし、俺の剣に集約した白銀の炎ならば、再生する暇すら与えず、こいつを灰に出来る——!


 一瞬、未来と目を合わせ頷き合う。


「【星光一閃】!」


 逃げようとする【酒吞童子】を速さで上回る未来が、その足を切り付ける。弱体化し、未来の攻撃を避けきれなかった【酒吞童子】は姿勢を立て直しながら、傷を再生し始める。


 再生中の動きの鈍さに加えて、このチャンス。逃すわけにはいかない————!


「終わりだ、【酒吞童子】!」


 聖なる太陽へ割いていた制御を放棄し、この鬼への一撃に全集中する。上段に構えた剣が纏う炎は天へと届きそうなほど。


 これで、燃やし尽くす――――!


「はあああああああああああああああ!!!!」


「くっ——————がぁああああああああああ!!!!」


 回避など出来ないほど広範囲を燃やし尽くす白銀の炎が、【酒吞童子】を灰に帰す。さらに、吹っ飛んだ【酒吞童子】の肉体が存在するかもしれない場所へと、未来が追撃を放った。


「ここで絶対に終わらせる……落ちろ——————!」


 星魔法を放ち、空から落ちる流星が落ちた後、静寂の末、【酒吞童子】のいた場所の奥に、空間の裂け目が現れた。


「よし……!」


「やった……!! レオっ!」


 疲労困憊の中、未来が抱き着いてきた、勢いを止められる力すら残っていないため、地面に押し倒されてしまう。


「ごめん! 大丈夫?」


「なんとか……。良かったぁ……。今回こそは終わったかと思ったぜ……」


「レオが呪いを何とかしてくれてなかったら、絶対二人仲良く死んでたね……」


「ガチで危機一髪だ……」


:うおおおおおおおおおおおお

:ぎゃああああああああああああああああ

:れおおおおおおおおおおおおおおおお

:強すぎいいいいいいいい

:やったあああああああああああああ

:よかった……


 ふわふわと飛んで近寄ってくるドローンを見て、終わったことをしっかり実感できた俺は、起き上がって息を吐く。


「勝ったぞ……」


「頑張ったよ~……」


:ヤバすぎる、全員ほんとにやばすぎる

:俳句出来てて草

:川柳な

:月を隠せば魔物が弱体化する説、正しかったら世紀の大発見では?

:でも普通の人間が月隠せるのか?

:無理ですね

:ていうか何時までイチャイチャしてるんだ

:ここまで凄いもの見せられたら、誰も文句言わんわ 

:愛花ちゃん派だけど、どっちも好きだからレオにはもうハーレムルート選んでほしい

:もっとイチャイチャしろ


「もう考えるのもしんどいので配信終わってさっさと帰ります」


「ありがとうございましたぁ……」


 二人そろって配信を終えたあと、勝利を噛みしめ笑いあう。


「疲れたぁ~」


「だね……ぁ」


 帰る準備を整えようと立ち上がると、未来がこちらに倒れこんできた。


「未来……? おい、大丈夫か!?」


 魔力切れというわけでもなさそうで、何が起きているかわからない。


 軽く叩いたりゆすったりしても目覚める様子がない。とにかく、ここにいても何もない。さっさと地上に引き返そう。ただの疲れて眠っているだけならいいんだが……。


「大丈夫か……?」 





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