第16話 第七層へ

 全世界の探索者の上位1%以下の存在、A級とS級が、仲良く探索者に恥を晒したその日の夜。


「いい運動だったな~」 


 今日も今日とてダンジョン。今まで放課後は、ダンジョン協会の訓練場で体を鍛えるか、自室で魔力操作を練習するくらいしか出来なかったが、夜にダンジョンに行くようになったおかげで、よりハイスピードで成長出来ている気がする。


「お昼にせいで全力出せないとかだったら本末転倒だからね、ほんとに気を付けてよ」


「ごめんって、魔力はほとんど回復したから……」


「能力の把握とか魔法の試し撃ちとか、私も一緒にしたかったのに……」 


「すいません……」


:あーあ、怒らせてやんの

:Zに上がってた協会の訓練場の惨状ほんと笑ったわ

:強くなってはしゃいで施設を破壊するバカ

:A級探索者<S級探索者<職員さん

:ワイ、現場におったB級やけど、普通に魔力でちびりそうになった

:先に注意喚起してよかったな、威厳もクソもないぞ

:それな


 今はもう配信中で、視聴者への注意喚起を終えて未来と話しながら、七層へ繋がる空間の裂け目へ向かっている。そういえば、未来もA級に上がっていたらしい。


「ついに半分かぁ……」


「前回みたいに異界化してないといいね……。ランクアップした今ならもう少し楽に倒せるかもしれないけど」


 異界化。異界化とは、その名の通りダンジョンの構造が変化する現象だ。出現する魔物、ダンジョンの環境や特徴が突然変化してしまう。第六層ではそれが起きており、本来の天草ダンジョンの第十二層のボス、【雷鳴の金獅子】が出現した。さらにそれが変身した【雷鳴の獅子王】は後で協会が正式に鑑定したところS級の魔物だったようだ。こんなのが続けば完全攻略はかなりしんどいだろう。


「確かに……。ソロだったら絶対死んでただろうからなあ……」


「ね。レオと組めてよかったよ、ほんとに」


「こちらこそ」


:てえてえ

:さっさと結婚しろ

:戦友じゃん

:そういうのが大好物だ! もっとやれ!!!れ!

:贅沢言わないからジジババになるまで一緒にいて欲しい、あとずっと配信して


 穏やかに目を細め、ふんわり笑う未来とグータッチをして、裂け目を通り抜けた。






 二人で踏み入れた第七層は、これまでのダンジョンとは更に違う景色が広がっていた。


 構造自体は、ダンジョンによくある洞窟の中のような場所。低い天井、狭い通路、ボロボロの石畳。挑むものに閉塞感を与えるような典型的なダンジョンの構造。


 しかし、禍々しさが違う。紫がかった毒々しい魔力が空気中を霧のように漂い、視界は不明瞭だ。明らかに体に悪そうな空間だが、俺には何の影響もない。


「なんだろうな、これ」


 不思議に思って未来を見ると、鋭い目つきで霧の奥を睨んでいた。普段から穏やかで、ここまで怖い雰囲気なんて、これまで一度も見たことがない。


 あんなに温厚な未来から、怒気が漏れ出ていることに、思わず俺の気も引き締まる。


「やっぱり……ここにいるんだね」


「【千呪の黒龍】……か?」


「この感じ、間違いないと思う。この層かはわからないけど、このダンジョンにはいると思う。とにかく、行こう」


「ああ……」


:マジでいるのか……

:S級に召集かけたほうがいいレベルじゃないか、ほんとなら

:ここ数十年で一番の被害だったからな……どうにかなってくれ……

:A級二人で倒せる相手じゃなくないか……?

:未だに俺の妹が呪いで苦しんでるんだ、頼む。ぶっ倒してください……。

:このダンジョンが異界化する夜にしか行けない場所に隠れてるってこと?



 あまりの剣幕に気圧されながら、俺たちは禍々しい空間を進んでいく。


 嫌な空気とは裏腹に、ボス部屋まで魔物は一切出現しなかった。むしろ、それがより不穏に感じて、緊張感が高まっていく。


「行こうか」


「ああ」


 ほんの数分しか滞在しなかった七層から、ボスのいる空間への裂け目へと俺たちは飛び込んだ。





―――


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る