第15話 成長
自身の魔晶石を見ると、このように表示された。
《魔素量》:A
《魔法》:炎
《スキル》:
【炎の申し子】:炎を用いたあらゆる行動に補正。
【孤軍奮闘】:一人で行動時、身体能力・魔力に補正。
【燎原之炎】:炎属性の魔力をチャージし、その時間に応じて威力が上昇。この炎はあらゆる耐性・防御を無視する。
【限界突破】:生命の限界が近づくほど全能力が向上。意識的に発動する場合、あらゆる能力を瞬間的に向上させるが、自身の魔力・体力・気力の消費量が増加する。
【聖なる炎】:自身と仲間と認識した対象を守護・強化する。怪我や傷を癒し、敵対者を浄化する炎。
【
【逆境超越】:自身より強い相手との戦闘時、あらゆる行動に補正。
新しく三つも増えてる。前回の【雷鳴の獅子王】との戦いで得た感覚がスキルに昇華されているようだ。
B級の俺がS級相当の格上の敵と渡り合えたのは、【限界突破】と【完全燃焼】、そして【逆境超越】の力と、人よりかなり多い魔力量があったからだろう。
同じB級であんな半端ない魔法を使う未来はどうなっているんだか。
「おっけーです、お願いします!」
「とにかく能力の把握が優先だ。ガス欠で疲れて死なれたら困るからな。全力で来い。訓練場が壊れない範囲でな」
「はい! 【
「【剛力無双】【戦神】【鋼の守護】。よし、来い」
歴代でも日本に片手で数えられる人数しか存在しない、元S級。片目を失い、呪いに蝕まれ、年齢を重ね、全盛期からすればとんでもない弱体化をしているはずだ。それでもこの人は俺より強い。そう確信できる存在感、そして圧。
そんな人に師事する状況に感謝しながら、一歩。
右足に力を入れ、手にした木剣を構え、力強く踏み込み、師匠に向かって振り下ろす―———!
「あっ」
「この馬鹿」
俺の超速での接近に、驚くほどあっさりと反応した師匠と目が合う。
まさに師匠の大剣とぶつかり合おうかという瞬間、俺の木剣が燃えカスになって消えた。
突然消失した武器の長さを修正する時間など、この相手を前にして存在するはずもなく、俺は訓練場の壁まで、15メートル以上吹き飛ばされる。
ぶつかる壁からの背中への衝撃で、肺から空気が一気に押し出され胸が痛む。追撃を警戒し即座に立ち上がろうとするが、一拍遅れてしまう。
「一本、だな。実践でやってたらどうなっていたことか。自分の武器まで灰にしてどうするんだ、このアホ」
首筋へと剣を突き付けられ、俺は敗北した。
「すいません、もう一本お願いします!」
「ああ、次は実戦用の武器でやるぞ、いいな?」
「はい!」
「その状態の魔力消費はどうだ。長時間それを維持できるなら、どこでも問題なく戦えると思うが」
「このままなら30分くらいは大丈夫そうですね。他のスキルと合わせるともう少し短くなりそうですけど」
「じゃあ次は全部使ってみろ。今度はつまらん終わり方にはするなよ、俺も楽しくない」
「あはは……はい。あ、そうだ」
新スキルの【聖なる炎】。これは師匠の過去の傷や呪いにも効果があるのだろうか。
「師匠、俺の新スキルの効果で、もしかしたら体が良くなるかもしれません。ちょっと体触ってもいいですか?」
「ああ、任せる」
「【聖なる炎】」
手のひらの上をふわふわと燃える金色の炎。 手始めにさっきから痛んでいる俺の腹部に当てると、痛みが引いていった。
「よし」
師匠に自分で服をめくってもらい、呪いの痕跡がある脇腹を見せてもらう。そこには、黒く、禍々しく、痛々しい傷跡が残っていた。
そこへ先ほどと同じ要領で【聖なる炎】を使用する。
「全く熱くないな」
「どうですかね……」
一分ほど試してみたが、外見的な変化は見られなかった。
「呪いにはあんまり効かないみたいですね……」
「いや、体感ではかなり楽になった。治癒魔法などより遥かに効果があるようだな、これは。今後もたまに頼んでもいいか?」
「もちろんです!」
「助かる。じゃあやるぞ。おかげさまでちょっと力を出しやすくなったからな。次は俺から行くぞ――」
「え、ちょっ――――!!」
「問答無用! 死ぬなよ!」
文句を言う余裕もなく、一瞬で【聖なる炎】、【限界突破】、【完全燃焼】を起動して師匠の大剣になんとか剣を打ち合わせる。
持てる力をすべて使い、あらゆる能力を強化してようやく、師匠と鍔迫り合いになった。消耗の激しいこちらからすれば、この状態が続けられる間に決着を付けなければならない。
膠着状態から押し切るために足の魔力をさらに強めて押し切る。それを読んでいたかのように軽く受け流され、隙を晒してしまった。
まずい、これは
と思っているように見せかける。
そこを逃さず追撃を狙う師匠が、大剣を振ろうとしたところに、背中に炎の翼を生やすことで体を無理やり制御し、こちらから仕掛ける――――!
「やるようになったな、フッ―———!」
しかし、どうやったのか、俺の渾身の策も破られてしまう。
「反応速ッ! 大人気ないですよ! もうアラフィフでしょ!」
「ハッ! 探索者なんてやるやつは、大抵頭がガキなんだよ!」
「もう師匠の頭は髪の毛ないですけどね!」
「この野郎! 人が気にしてることを――」
当然のように対応してくる師匠に、勝つ算段を立てようと頭を回しながら剣を振るうが、この化け物はなんにでも反応するし、どんな攻撃も受け切られてしまう。
どうしたものかと思いながら、強大な師を見やると、額には汗が滲んでいる。思っているよりも体力を消耗させられたかもしれない。
「めっちゃ汗かいてますよ! もうそっちの負けでいいんじゃないですか!?」
「うるせえ、お前の炎が熱すぎるんだよ! 喋ってないで俺を超えてみろ!」
そういえばそうだった。
「よっしゃぁ! 今日こそ師匠越えしますから! 何時間でもやってやる――――!」
「全力で来い! 人気になって調子に乗ってる鼻、バキバキにへし折ってやる!」
こうして、魔力がすっからかんになるまで俺と師匠は戦った。
一時間後。100平方メートルはあるであろう訓練場は、見るも無残な光景となっていた。
平な地面などどこにもなく、あらゆる場所が焼け焦げている。風が吹き抜けると、灰が舞い上がり、焼け焦げた跡をさらに強調するかのようだ。
そして、協会から訓練場へ繋がる通路もボロボロになっている。
こんな事態を起こした俺と師匠は――――――
「全力で戦ったらこうなるの、わかってましたよね! どうするんですか! 他の人が使えない状態にしちゃだめでしょ! 修繕費とか馬鹿にならないんですよ! 支部長がいるのに何でこんなことになってるんですか、もう!」
土の上に正座させられ、眼鏡美人な副支部長の末崎さんにどやされていた。
「すまん……」
「すいません……」
結局、決着がつく前にお互い魔力を使い果たしてしまい、二本目の決着はつかなかった。しいて言うなら、末崎さんの一人勝ちだろう。
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