第13話 星降る荒野、決着の一撃。

 雷を宿した剛腕が振り上げられる。超近距離で、踏み込まれた最後の一歩に合わせて、俺は相手より一息早く動き出す。


 そして、怪物の右腕の暴威を、黄金の剣で押し切る――――――!


 轟音。


 莫大な魔力のぶつかり合いが、荒野の地表を吹き飛ばす。


 押し切られて吹き飛んでいく獅子王は、空中で雷を操り、俺の周囲に落としてくる。その回避を強制され、追撃のチャンスをやり過ごされてしまい、これ以上の接近を許してくれない。


 しかし、このまま近距離で戦いを続ければ、俺たちは確実にこいつを倒せる。その確信を得た。


 新たな能力でズレた感覚を知るための一撃は、【雷鳴の獅子王】の命を絶つには至らなかった。しかし、確実にダメージを与えている。


 体勢を立て直した怪物と、再び睨み合う。丸太のような豪腕は炎に焼かれ、金獅子の腕は黒く焦げている。その腕の動作には、確かに鈍さが感じ取れる。


 未来のことを一切気にせず、俺だけを見つめる獅子王。自らの命を脅かす存在は、俺だけだと思い込んでいるようだ。ならば、この誤認識を活かさない手はない。


「跪け!」 


 上段から振り下ろした剣を、両腕を交差して受け切られる。その刹那、俺の頭上に魔力が集中する。


 雷が落とされる――――!


 それを察知していた俺は、後ろに跳んで回避する。そして、それを追いかけるように、両腕を焦がした獅子王が、俺へと跳躍し、仕掛けてくる。ぶつかり合いこそ優位に運べたが、現在の戦闘は拮抗している。


 拳と剣が、常人には見えない速さで無限にぶつかり合う。


 その衝撃波により、暴風が吹き荒れる。


 まるで世界の終わりが来たかのように、空間全体が震えている。


「■■■■————ッ!」


「もう限界だろ! さっさと倒れろ!」


 火傷が増えていく獅子王に対し、俺の傷は最初にくらった腹部への衝撃のみ。このまま、このまま進めばもう勝敗は歴然だろう。


 ————しかし、現実はそう甘くない。


 数十度だろうか、数百度だろうか。数えきれないほどの拳と剣の衝突の末、俺の刃が獅子王を上回り、獅子王をひるませることに成功する。


 ここだ。


 今なら、こいつを打倒できる——!


 その瞬間。


 出力をさらに上げ、強く一歩、踏み込んだとき、


「なっ————、くそ……!?」


 【完全燃焼】オーバーロードの限界が来てしまった。


 黄金色だった炎は赤に戻り、身体能力は低下し、全身の万能感が消える。疲労が一気に到来し、先ほどまでと真逆で体が重くなる。

  

 刹那の隙を逃した俺は、獅子王のそれからしたら長すぎる隙を晒す。


 確実にS級だろうこの魔物が、そんな隙を逃すわけがない。俺はなんとか逃げ伸びるため、残った力すべてで足を強化し、後ろへ飛びきった。


 好機を逃すまいと、獅子王は今までより大振りに剛腕を振り下ろした。


 その拳は、最初見たときと比較すれば、あまりに弱弱しく遅い。


 灼熱に晒されながらの攻防で、やつも明らかに疲労していた。動きが鈍り、少しの休息を求めて止まる怪物。


 そこに、まるで大雲に月が隠されたかのように、上空から大きな影が差す。


「【魔力凝縮】【魔の祝福】【星光の煌き】、ありったけ、全部ぶつけるよ————、落ちろ――――!!!」  


 この数分間、虎視眈々と息を潜めて機を伺っていた未来が、獅子王の上に浮かんでいる。


 星属性。それは、多種多様な魔法属性の中でもさらに稀有な魔法。使用者が少なく、わかっていないことが多すぎる魔法。使用するのが難しく、他の魔法よりも時間がかかるというデメリットがあるため、ソロの未来が今まで一度も使えなかった魔法。


 それが今、【雷鳴の獅子王】へと襲い掛かる——!


 未来の周囲を、星々が踊るように輝く。そして、遥か彼方の空から、小さな光の点が一つ、また一つと現れ、それが次第に大きくなり、数多の星が超速で、敵に向かって落ちていく。


 落下する流星は、まばゆいばかりの光を放ちながら、猛烈なスピードで獅子王を襲う。何とか直撃を避ける【雷鳴の獅子王】だが、衝突した瞬間、星のエネルギーが解放され、爆発とともに灼熱の衝撃波が周囲に広がる。


 数え切れないほどの星々の落下で、ボロボロになった獅子王が攻撃をすべてしのぎ切ったのかと思い、夜空を見上げたその瞬間、最後の一撃が降ってくる。


 今まででもっとも大きな星。


「さよなら。落ちろ――――!」


 月を隠していた空の変化の元凶が、これまでのどの流星よりも速く落下する。これまでの星々はすべて前座だったかとでもいうような一撃は、


「■■ッ————」


 雷の王の立つ大地とともに、その存在を消し去った。




 


「やった、か――――――」


「やったね……」


 すべての魔力を使いつくしたのか、周囲を浮かんでいた神々しい星光が消え、ゆっくりと落ちてくる未来をキャッチして、優しく下ろす。


 俺も、無理が祟ったのか体がそれ以上動かず、二人で地面に横たわる。


「もう、しばらく動けんわ……」 

 

「私も……流石に、全力の全力すぎて、しんどいや……」


「これでまだ六層なのか……十二層には神様でも出てくるんじゃないか……?」


「そうだったらきついなぁ……。でも、これだけ頑張ったから流石に……A級になれたんじゃないかな、私たち」


「かもな……」


 落ち着いて呼吸を整えていると、ドローンが近づいてきたことに気づいた。

 

「そういえば、配信してたな……。みんなー、俺たちやったぞ~……」


「がんばったよ~……」


 あまりの疲労感から、力の抜けた声でしか会話できない俺たちは、目だけを動かす。


 気力も魔力も体力も、すべて使い切った。全身全霊でなんとか格上殺しジャイアントキリングを成し遂げたが、本当に疲れた。


:うおおおおおおおおおおおおおおおお

:ああああああああああああああああああ

:どああああああああああああああああああ

:すげえええええええええええええええええ

:ぎゃああああああああああああああああ

:やばすぎいいいいいいいいいいいいい


「発狂してることしかわからん……」


「だねぇ……」


:B級二人でなんでS級の化け物倒せるんだ……

:なんかもう、見たことないもののオンパレードすぎて、こっちも疲れた……

:めちゃくちゃはらはらしたわ

:涙が止まらん

:かっこよすぎる、二人とも

:凄すぎて言葉がでない……

:あかん、最高や……


「ははっ、とりあえず、今日はもうこれ以上行くのは無理だ……。配信終わらせて、さっさと帰ろう。みんなもあったかくして寝ろよ」


「もう動けない……。ありがとうございました……」

 

 俺たちは配信を終え、ボロボロの体を支え合いながら家路についた。


 





 

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