第5話 ぼっち卒業チャンス、でもピンチ。
「ちょっと離れようか、色々とその、まずい……っす」
「あ、ごめんね! あはは……」
状況を自覚した未来さんが、赤面している。
気まずい雰囲気をごまかすため、とにかく口を動かしてみる。
「えーっと、初めまして。レオって名前で探索者やってます。コメントで君が危ないって聞いて飛んできたんだけど、迷惑だったらごめん」
「ううん! 足をやられて逃げることすら厳しそうだったから、助かったよ。私は蛍原未来。ほんとにありがとう」
「よかった、未来さんはこの後どうする? 引き返すならゲートまで送るけど」
「貰ったポーションを飲んだらほとんど痛みもなくなったし、魔力と体力も余裕があるからあと一層くらい潜ろうと思ってるよ。それで、もしよかったらなんだけど……一緒に行かない? あと、未来って呼んでね?」
装備はかなり汚れているが血は付いていないし、ふんわり笑う表情から嘘は感じられない。氷と雷の属性を持っていて、同ランクでおそらく同年代の探索者。しかもかわいい。こんな好条件、なかなか無いが……。
「行きたいのはやまやまなんだけど、視聴者が……ちょっとやばそうだぞ? 見てみ?」
「んー?」
「いや、コメント欄」
「あ、そうだね。レオくんを呼んでくれた命の恩人さんたちに感謝しないと」
「いや、そうじゃなくて……」
未来が開いたコメント欄をそーっと覗くと、案の定大荒れしていた。
:男帰れ
:未来ちゃん、危ないよ!!
:男といちゃいちゃ配信しないで
:彼氏いたんだね、失望しましたファンやめます
:レオ〇ね
:可愛い女の子見に来たのになんで男見ないといけないんだよ
:これがBSS……アリだな。
「助けを呼んでくれて、ありがとうございました。おかげでレオくんと出会えました」
「言い方が……」
ドローンに向かってペコリと頭を下げる未来を見ながら、チラッと自分のコメント欄を確認してみる。
:ぼっち卒業チャンスだぞ! 頑張れレオ!
:よかったじゃん。美少女だぞ、ユニコーン付きだけど
:未来ちゃんから離れろクソ野郎
:過激だなあ、ハグくらいで。ハグぐらい……だと!? うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ふう。
:嫉妬で人格分裂してますよ
:また強化種きたら危ないし普通に二人で行ってくれる方が安心だわ
:好きにやれ、気を使われてもおもんない
ちょっと荒れているがいつも通りだ。落ち着く。
容姿がいい配信者にはこういう厄介なファンが付き物だというが、実際に体験するとほんとに大変そうだな……。未来がアイドル売りしてるとかなら結構ヤバそうだが……大丈夫なのか?
「ねえ、レオくん。私たち相性いいと思うの」
「だから言い方……」
「とりあえず、お試しで次の層だけでも一緒に行かない?」
「視聴者はほんとに大丈夫か? めっちゃ怒ってる人いるぞ?」
「いいの。私がやりたいようにやってるだけだもん。それで見たくない人は見ない、見たい人は見る。どうするかは見る人が選べるんだから、私は気にせず好きにやるだけだよ」
人気になっても自分のスタイルを大事にしてるってすごいなあ、なんて思っていると、俯いた未来の小さな呟きを聞き取ることができなかった。
「他人なんて、誰も、助けてくれないし……」
「? おっけー。実は俺も、仲間がずっと欲しかったんだ。マジで嬉しいよ。よろしくな」
「うん! 私も、ずっと一人で心細かったんだ、よろしくね!」
うおおおおおおおおおお!
平静を装っているが、内心は物凄く嬉しい。
ついに……、ついに! ソロ卒業の日が来た!
最初に組んだ三人パーティでは、すぐに他の二人がくっつき、ろくに強くなろうとしなくなったので解散。次に組んだパーティでは、俺とのモチベーションの違いでついていけないと言われて脱退。その次こそはと思い、敗因を分析して、メンバーを募集する側に回ってみたが、誰も入ってこなかった。
ついに! ついに……!!!
そんな日々とはおさらばだ!
俺と未来はひとまず臨時でパーティ結成しておくために必要な情報――お互いの能力や得意分野、戦闘スタイルなど――について話ながら五層を進んでいた。
第五層は、広大な砂漠だった四層とは異なり、石造りの狭い迷宮のような場所だった。少し声を出すと反響し、遠くまで響いていく。ここは屋内なので昼夜で危険性はほとんど変わらないはずだ。
一人から二人になったことで浮かれてながらも、気を抜きすぎず、注意して進んでいく。
この階層にいるのは、蝙蝠の魔物だけ。多少凶暴になってもほとんど誤差の、E級やD級のダンジョンによく出る魔物だ。以前から感じていたが、本当にこのダンジョンはボス以外が弱い。しかしボスが異様に強い。本当にアンバランスな空間だ。
「へえ、だから夜の天草ダンジョンに来たんだ。強くなりたい理由が不純すぎるけど、逆に純粋だね……そりゃっ」
「そーそー。未来は? ほいっ」
この層に出てくる敵の、あまりの弱さに拍子抜けしながら、こちらに飛んでくる蝙蝠を片っ端から撃ち落とし、気楽に雑談配信をしている。
「私は……【千呪の黒龍】を倒したいからだよ。あいつはなんとなく、このダンジョンにいる気がするんだ」
よほど倒したい気持ちが強いのか、俺には青色の大きな瞳が燃えているように見えた。
「そっか。俺も日中のここのダンジョンは攻略したけど、時間でダンジョンの構造や出現する魔物が変わるなんて話も聞くし、どこかに本当にいるかもしれないな」
「でも、A級の魔物の強化種ぐらいで苦戦してたら、夢のまた夢だって思っちゃうよね……」
「ソロだと特にワンミスが命取りだからな……。二人いれば助け合えるし、大丈夫大丈夫、一緒に頑張ろうぜ」
「ありがとう、誰かと一緒に戦うなんて初めてだから、拙いところとかあったら教えてね?」
「ああ。こっちも遠慮なく頼む。お、ボス部屋だ。開ける前に一個だけ聞きたいことがあるんだけど、未来はなんで夜しか配信しないんだ?」
「それはね……実は……」
暗い表情で下を向く未来を見て、聞いてはいけないことだったか、と思い、質問を取り消そうとすると、未来がパッとこちらを見上げてきた。
「ズバリ、私が朝、起きれないからだよ!」
「マジか……」
若干気の抜けた雰囲気になりつつも、俺たちは空間の裂け目に足を踏み入れた。
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