1章 15話「魔法学」
覚醒の儀式から数週間が過ぎた。
座学はきちんと他の生徒たちと共に基礎を学び、真面目に授業を受けている。
初めは授業中に他の本を読まないノアールにクラスメイトたちは少しザワついていた。
そして実技。各々で使う魔法が異なるため、属性の系統ごとにグループ分けがされた。
そのおかげもあり、ノアールとグリーゼオが自然に2人組を作ることが出来た。
初めに学んだことは基礎中の基礎でもある魔力制御。小さな的に目掛けて魔法の玉を放つ訓練が行われた。
ノアールの魔法属性は火だ。上手く制御出来なければ火事になる。そればかりか本人も大怪我をする。
2人は交互に魔法を撃ち合い、火で的を燃やしてはそれを水で消していく。
初めは上手く出来ずに消火が間に合わないこともあったが、練習の甲斐もあって簡単な魔法は難なく発動できるようになってきた。
「ふう……基礎は身についてきたのかな」
「だと、いいけどな……最初の頃よか疲れにくくなってきたし」
地面に座り込み、互いに呼吸を整える。
魔力は精神力を消費する。制御が下手なままだとその分精神力を無駄に減らしてしまう。
最初の授業ではものの数分で息を切らしていた2人だが、今は1時間の授業をやって少し疲れる程度までに慣れてきた。
「ゼオ、魔法使うの上手いね。もう初級魔法マスターしてて凄いなぁ」
「お前の場合、魔力が高すぎるせいで普通より難易度上がってるってだけだろ。おれには想像できねぇよ、測定不可能な魔力」
「私だってよく分かんないもん」
「そうだろうな。他の人がどう魔力を感じ取ってるかなんて理解できないものだし」
「他人の体だもんね」
「まぁでも、お前は前世とはいえ他人の記憶を共有してるんだよな」
「あー、そうだね」
それが当たり前になっていて、そもそも自分が普通じゃないことを思い出す。
確かに今の自分ではないが、他人かと言われると違う。紛れもなく同じ魂。前世の、名前も顔も分からない彼女は自分自身でもある。
だからといって全くの同一人物かと言われるとそうじゃない。こればかりはノアール本人にも判断しかねることだ。
「どういう感じなの? というか、こういうのって気軽に聞いてもいいやつ?」
「え、全然良いよ。周りに聞いてる人がいなければ」
「そうか。じゃあさ、自分じゃない人の記憶があるのってどうなの?」
「うーん……なんだろうな。私の場合、前世の記憶を全部思い出したとかじゃないんだけど……鮮明な夢を見ているような感じ? 夢の中で違う人生を疑似体験しているような……でも肝心なところが見れてないというか、ボヤけてるというか……名前も分からないんだよね」
「ふーん。そういうのってごっちゃにならないんだな。前世を思い出したことで人格に影響が出るとかさ」
「あー、でも影響がなくもないんじゃないのかな。文字とか読み書きはすぐ出来るようになったし、おかげで、難しい本も読めるようになったし。魔力の制御もすぐ出来てたみたいだから」
「それはメリットだな。だからお前頭良いのか」
「うん。これは前世の記憶のおかげ。授業で聞くことは全部理解できてるから、基本的に学校で習う勉強は全部身に付いてると思う。魔法に関しては知識だけじゃどうにもならないけど」
ノアールは乾いた笑いを浮かべた。
記憶だけ。知識だけはあっても体はまだ子供だ。この未成熟な体には収まりきらないはずの魔力を制御できているだけでも奇跡と言える。そこは前世の記憶、知識が無意識にうまく制御してくれているのかと推測している。
「まぁ、無理せずにやれよ」
「うん。出来ることから頑張っていくよ」
ノアールは両手をギュッと握り締めて笑う。
疲れているせいか表情は弱々しく見えるが、目はキラキラと輝いて見えた。
本当に楽しいのだろう。普段の授業ではずっと本を見ているだけだったが、こうして体を動かして魔法を覚えていくのが楽しくて仕方ないという様子が目に見えて分かる。
「おれもお前みたいに楽しくやった方がいいんかな」
「ゼオは楽しくないの?」
「疲れの方が先に来る」
「魔法を使うと確かに疲れちゃうよね。体力とは別に精神力を消費するから」
「魔法は覚えれば便利だけど、言っちゃえば命懸けの力なんだよな。一歩間違えば廃人になるんだし」
「そうだよね。ちゃんと自分の限界を知っておかないとね」
ノアールは立ち上がり、グッと腕を伸ばした。グリーゼオも重い腰を持ち上げ、軽く深呼吸をする。
魔法学の授業があるときは基本的に他の授業は行われない。その日は魔法の実技練習のみ。普通の授業よりも長い休憩時間を挟みながら、ゆっくりと魔法を覚えていく。
ちなみに二人の指導をしてくれるのは学園の先生に加えて、ノアールに何かあったときのために教会の司祭が付いている。司祭のことは他の生徒には隠し、新人教諭という扱いになっている。
今は休憩時間なので二人とも職員室に戻っている。もうじき戻ってくるはずだろう。ノアールは入念に柔軟をして次の授業に備えてた。
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