第12話 【 真実と罪 】



(風太)

「 うんっ まつぼっくり、とりにいきたいの。ゆうまね、みせるとすごくよろこぶんだ。だから、たくさんおおきなのあにうえといっしょにとりに行きたいの。」


(桜)「 行ってあげたら? 風馬。」



(てんとう虫でもご機嫌な勇真)

「 たいッ!」


(風太)

「 コレ? てんとう虫も欲しいの? ゆうま。じゃあ、いっぱいさがしてあげる。」


「 ねぇ いこうよ。風馬にぃちゃん。いいでしょ?」


(風馬)「 分かった、分かった。」


(桜)

「 風太、いい? お山へ行ったら何でも茂みの中に入っちゃだめよ。周りをよく見てスズメバチの巣の近くには絶対近づかないこと。近くを飛んできてもビックリして大きな音や決して慌てないこと。」


「 風馬も一緒にいてくれるけど、もしマムシに遭遇したら自分で見分け方、ちゃんと分かるわね?毒性のある植物には絶対手でさわっちゃダメよ。」



(風太)

「 うんっ、大丈夫。ちゃんとまもってるよ。」




(風馬)「 ───…。」


「 風太、」



(風太)「 ? …わぁっ!♪ あにうえのかたぐるまだ! やったぁ。えっへへへっ 」



(風馬)

「 母上、それじゃあちょっと行ってきます。」



(桜)「 えぇ、行ってらっしゃい。…風馬、」



(振り返る)「 …?」



(桜)「 ありがとう。風太のこと… お願いね・・。」




…その一年後に、雨天だったあの日、

あの落石事故は、母さんの命を簡単に奪い去ってしまった。




ザァァァァァァァァ────────…ッ!

(雨の中、残された風太と勇真)



(風太)

「 …ッ! ……ひぐっ..。ははうえ・・!!」


(勇真)「 うわぁぁぁぁん!!」






(風馬)「 ……、」



“ この子に罪はありませぬ…っ!”



“ お願いです、あなた、この子は……死ぬ気です…。



罰せられるべきはもう、せめて… この子だけは…っ “



父親の末路を見届けると最初から自分も覚悟が決まっていたのか死を見つめた眼差しで桜花の刀の前に紫苑は立った。



大牙丸たいがまる

「 ───・・ 子供? せがれの方か。」



高王たかおう

「 おそらくな、まだ成人してねぇガキとはいえ、そいつは朝廷上位についた豪権の跡取りだろうが。」


「 戦場に立ってる以上は、自分の置かれた甘くねぇ状況くらいそいつも分からねぇはずはないだろう。」




(桜花)「紫苑、…と言ったな?」



(紫苑)「 ……。」




“ 死を選ぶことが正しい償いになれるとは思っていなかった。”



けれど、それ以上に


生きることを


今ここで自分が選ぼうとするのは、


決して許されない罪を


自分達は民に犯してしまった重さだけは事実だった。



だから逃げることも 命乞いもせず


最期となる自分へ向けられた刃。


生きる道を、


正しい生き方をしてきた


この人になら


然るべき父上の過ちを罰し、


決して間違った裁きをしないと


今ここで斬られたとしても


その運命は、


自分もその命をもって受け入れるべき けじめだと思ったから


死ぬ迷いなど無かった。



だから・・・


自分に出来る事が


どれだけ今更 無力だと思い知らされたか


本当の意味で父親を救えなかったのは



(紫苑)「 ……、」



刺し違えてでも


“ あの人を止めたかった…。 ”



それが出来なかったのも、


多くの命が父の命令一つで一瞬に終わった



…それが、


俺の全ての罪だった。



風馬の父親はかつて 地方の豪権争いから朝廷上位に上り詰め東国各地をおさめていた人物であった。

欲望のまま、莫大な財力と兵を駆使し

従わない民や納税の納められない難民の虐殺を数えきれないほど手に掛けてきたのである。


風太の父、桜花は独自に築き上げてきた西国の諸国に渡り、同盟和国を結んだ様々な部落に存在している少数民族のまとめ役として西の国を統括していたが、

西国もまた朝廷の制圧による激しい政権争いの混乱の危機に、桜花は各部落の首領と討伐にあたり軍兵を殲滅せんめつさせたのだった。



その結果として紫苑が最後の一人に残った。



(紫苑)

「 …うっ!……っ !! 」



─── ・・、……。(膝をつく)



(紫苑)

「あぁぁぁ…………っ !!!」



(高王)「ボウズ…。」


 

紫苑は込み上げる感情を言葉に絞り出した。



「 ・・・・。声を…、声を聞いて欲しかった..。あの時一度でもいい、自分の手を・・・振り払わず 」


“ 信頼しあえる臣下、愛した母上も居なくなってしまったあなたには、父上… ”



(紫苑)「 わたしなど最後まで息子ですら無かったのですか…っ!? どんな冷たいあしらいも……死んだ母上を思えば、残されたあなたを決して一人になどさせなかった・・」


「 でも、もう…っ!二度とその言葉だって

貴方には…… 届かない・・ うぅっ! 」




“ 父さん…… “



(大牙丸)

「 紫苑、お前 …。」




“ ──────…・・。”




(桜花)「( この少年… ) 」



最期まで自分の父親のことを・・




(桜花)「 ……。」




せめて救えたものなら・・



“ 子供の前で斬るべきではなかった。”





(虚しみに横たわる父親の遺体)



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