第4話 【 兄の優しさと幼い涙 】



ピクッ。

(反応する)


(風太)「 ・・はは..うえ… 」



(風馬)「 ───.. 、」



“ たとえ危険だと分かってても苦しむお前が少しでも助かるすべがあるなら ”



母さんは…






“ お願いします ”



(桜)

“ これ以上、この子の苦しむ姿だけは… ”




何があっても



“ 白翁山への入山許可のお許しを下さい

桜花様。”




きっと、私の身を案じた故に



“ ですが、夫婦であり

あなたという方は、一族の里長さとおさ



(桜) 「 分かってくださるはず。この子の父親ですから 」



“ 私を行かせて下さい、あなた・・。”



(白老)

「 龍神斎様の持つ薬ならば間違いはない。」




(桜花)

(風太を見る)「 ……、」



“ 今この場で一番救わねばならないのは… “




(風太)

「 …ッ、 ハァッ.. ハッ…。」



(桜)「 きっとこの子が助かると私は信じています 」


「 …風太・・。」



一族の長にとって一番辛いのは、

人一人の命を守る立場の為に父親という私情に流されてはならない上で桜は、

決断を下す桜花の辛い立場も理解してあえて言った言葉だった。


自らおきてを破り更には妻の代わりにという身勝手な訳にも行かなかったのである。




(桜花)「 …、」




“ 桜…。“







(風馬)

「 .. あの時、重症だったお前の命の状態も

どうなるか分からなかったのに 母上は救いたい一心で龍神斎様に会い、回復の兆しが見えた時は本当に良かった ………、


「 だから 母さんのことも、そんな風に

もう自分を責めなくてもいい 風太、」



(風馬)「 元気だせ。」








“ 風馬…。”





(風馬)

「 ! … 母上────────っ!!!」




───… 激しい雨に打ちのめされる目の前には、これまでに無い悲しい現実が、風馬の胸を痛く突き付けた。



決して人前で涙を流がしたことも無かった彼がこの時、悲しみに打ちひしがれ風太と勇真、まだ幼い二人の弟達の事が雨の悲しみと共に脳裏をかすめた。





(勇真の泣き声)

「 ───── …!!!」




(風馬)「 ! 」



(幼子の声に全員が視線を向ける)


(三月)

「 ………、風太..。 」



(桜花)「 何故っ… ここにいる 」




ピチャ…。



(風太)

「 ……… 」



漠然と状況が飲み込めていない冷たい雨に打たれ、ずぶ濡れになりながら佇んでいた。




「 ────────!! ..ッ、…! まうっ 」



「 まうぁっ!!!」


二歳の勇真は雨から体を守るように笠や蓑を被り手を繋がれていたが外の慌ただしい皆の出て行く様子がおかしかったのか突然泣き出し、寝たきりで不安に煽られた風太は病んでいた体を無理して勇真を連れてみんなの後を追ってきたのだ。



(祐之介)

「 …! 詩織、勇真は 」



(すぐに駆け寄った詩織)「 ………、泣いてるけど勇真は大丈夫、この子風太がちゃんと濡れない様に着せてたみたい、…けど、」





ザァァァァァァァァァァア・・・・・。

(雨)



(風太)

「 …ッ! ひっぐ・・、おかぁ・・さ… 」



心細さに体力をひどく消耗し母を懸命に呼ぶ声は雨にかき消されここにいる兄達の元へたどり着いたのだろう。



「 ───… ふうまにぃちゃん・・。」


(風太)

「 ゆうまがなきやまない…。ちちうえ、みんなをさがして、おかあさんいないと… ゆうま… まだ、こんな小さいから… 」


「 どうしていないの・・。ははうえ ずっとよんでも…  … っ…!! 」



(白老)「 …! いかん、また発作が…っ まだ起きていい状態ではない 」



(風馬)「 ! 風太っ!! 」





” 勇真… ! ! “



















(風太)


─────────────・・。




それからまる七日間、風太は力の発作が回復するまでしばらく薬で安静に眠らされていた。



その間、母上の葬儀は・・



(一族総勢で行う)



(桜花)

“ 症状がおさまったら、風太にはまたゆっくり話す…。”



“ 勇真の事もある、それまで二人から目を離さないでやってくれ風馬。”




(風馬)「 はい、父上 」



「 …、失礼します。」




……………、

(部屋を退室する)




数日後。

風太は父上から母上の死去を告げられた。












(雀)

「 チュンチュン ! 」


「 チュン…ッ、

……チチ!」




(縁側に座る風太) ───── . .



(風馬)

「 ……。」



(トキ婆)

「 ほぅれ。よしよし、おぉ… 勇真はいい子じゃなぁ。そぉれ、もう少しじゃよ。」



(勇真)「 ばぁ、ば… ばぁば。」(歩きの練習)



神水の効力が幸いし症状は回復しても

精神的に心を閉ざした瞳は虚ろに全くそこから動こうとはしなかった。



(風太)「 ……。」


(風馬)「 風太・・ 」



(勇真)

「 ばぁ、ば?…ふぅに?」



(トキ婆)

「 …風坊、元気をお出し。そんな所にいてないで寒いだろう? こっちにおいで 」




(風太)「 ………。」

(無反応)



(風馬)「 ──.. 風太、ほら。」


(風太を抱っこし日向に連れ出す)




(風太)「 ……。」



(風馬)「 あまり思い詰めると体にさわるぞ。 お前は無理できない体調だったんだから、…勇真はもうちゃんと笑ってるぞ?なぁ。」



(勇真)「 にぃ… にぃ 」

(両手を伸ばす)



「 ばぁっ!とき、ば。にぃ、ば…?」



(トキ婆)「 そうそう、トキばぁばじゃよ。言葉もだいぶ言えるようになったんだねぇ。桜がいつもここで風坊のこと勇真に言い聞かせていたから… もうお兄ちゃんだからねぇ…って」



(桜)

“ 風太ももうお兄ちゃんになったのね…。 ”



ピクッ。

(反応する)


(風太)「 ・・はは..うえ… 」



(風馬)「 ───.. 、」



“ たとえ危険だと分かってても苦しむお前が少しでも助かるすべがあるなら ”



母さんは…






“ お願いします ”



(桜)

“ これ以上、この子の苦しむ姿だけは… ”




何があっても



白翁山はくおうざんへの入山許可のお許しを下さい

桜花様。”




きっと、私の身を案じた故に



“ ですが、夫婦であり

あなたという方は、一族の里長さとおさ



(桜) 「 分かってくださるはず。この子の父親ですから 」



“ 私を行かせて下さい、あなた・・。”



(白老)

「 龍神斎様の持つ薬ならば間違いはない。」




(桜花)

(風太を見る)「 ……、」



“ 今この場で一番救わねばならないのは… “




(風太)

「 …ッ、 ハァッ.. ハッ…。」



(桜)「 きっとこの子が助かると私は信じています 」


「 …風太・・。」



一族の長にとって一番辛いのは、

人一人の命を守る立場の為に父親という私情に流されてはならない上で桜は、

決断を下す桜花の辛い立場も理解してあえて言った言葉だった。


自らおきてを破り更には妻の代わりにという身勝手な訳にも行かなかったのである。




(桜花)「 …、」




“ 桜…。“







(風馬)

「 .. あの時、重症だったお前の命の状態も

どうなるか分からなかったのに 母上は救いたい一心で龍神斎様に会い、回復の兆しが見えた時は本当に良かった ………、


「 だから 母さんのことも、そんな風に

もう自分を責めなくてもいい 風太、」



(風馬)「 元気だせ。」








… 抱きしめられた時、


兄のぬくもりにずっと心を閉ざしていた感情が一気に込み上げ、風太の大粒の涙はボロボロと風馬の胸にこぼれ落ちた。



(風太)

「 ──…、..っ!! ・・・、おかあ…さん…。うっ!・・ひ…ぐっ、──────────────っ !!!



(トキ婆)「 風馬…。」



(風馬)「 トキ婆、…大丈夫、本当は風太もちゃんと分かってるよ。」



「 な.. ? 風太 。」



(風太)

「 うぁぁぁぁぁあんっ!!、おか…ッ!おかあさん!!…っ、なんでいっちゃったの…っ 」



「 ぼく……もう…っげんきになおったのにっ・・」



(風馬)「 ……、」



“ 風太にとってあまりに辛く母上の死を初めて受け入れた幼い涙だった。”






(風馬)「 ───・・。」



(風太)「うっ…!」




(勇真)

「 …にぃ・・ 」


「..ェッ……! …、」

(ぐずりそうになる)



(トキ婆)「 ..? ぉぉ、ほぉれ大丈夫じゃよ勇真、風坊はすぐ元気になるからねぇ。…よ〜しよし、お兄ちゃん心配なんじゃなぁ、ねぇ大丈夫じゃよ。見てごらん」



“ きっとまた風坊達の元気に駆け回る笑い声がこの庭から聞こえてくるから ”



(トキ婆)

「 … 今だけは、お兄ちゃんを泣かせておやり」


「ねぇ?」



トキ婆の落ち着いたあやしに誘われるよう

たんぽぽの綿毛が、春のそよ風に乗って

勇真の鼻に引っ付いた。



…… 。。



(勇真)「…?」


(トキ婆)「 おやまぁ。フフ」






…………………………………。












(風馬)「 風太 」

(風太)「 、…… 」






“ ぼくが病気なんてしなかったら… ”




お母さん、あのとき死ななかった・・・。



















(泣き疲れる)

──────────・・・。













時は流れ、その二年後。



(集落の門の入り口から二人の元気な笑い声が近づいて走ってくる)



斗夜とうや】「 じゃあな、風太。……ホントにだいじょうぶか?さっき木の枝にひっかけて服やぶいちゃったけど、」



「 後でトキ婆のとこいっしょにいく? 」



【風太】(7歳)

「 ううん、だいじょうぶ。これくらいひとりでなおせるよ。ありがとう、斗夜とうや





・・ずっと昔 、


“ 母さんを早くに亡くしてから、自分の事は何でも一人で出来るようになりたかった。”



(斗夜)

「 そっか、うん。またあしたな 」











……………………。



(急いで家に戻るとゴソゴソと部屋の箪笥たんすの中をいじる風太)



(風太)

「 えっと、! あった。」



・・、しかし表情はどこか沈んでいた。






───…

夕暮れ時の庭の縁側。



集落から見える雑木林の向こうからひぐらしの寂しそうな声がこだましていた。





──… カナカナカナ…… 。




(風太)「 … 」




シュルッ。


(腰帯を解きそのまま上服を脱ぐ)



やがて家の畑仕事から帰ってくる兄の風馬に引っ付いて勇真も楽しそうに帰って来た。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る