第7話


あれから約6年の年月が経った。俺は親父やお袋に責められた失意から立ち直り、2度目の青春を謳歌するため、自分磨きに励んだ。


ジムにも通い、知識を高め、エステや美容院に行き、容姿も6年前よりも若々しくなったと思う。


それもすべて夕陽と結婚するためだ。

もう夕陽は成人しており、結婚も可能だ。


知り合いのツテで安く興信所にも頼むことができて夕陽の現状も知ることが出来た。


可哀想に夕陽は康を捨て、俺を選んだ事により、親からは呆れられてぞんざいに扱われているらしい。


あの優秀な夕陽が、三流大学に通っているのも、親があまり学費を出さないかららしい。


しかし、三流大学に通っているということは俺にとってはある程度のアドバンテージがある。


夕陽の同級生である男どもは優秀な奴が少ないということだ。


今の俺には年齢というマイナス面がある。俺と同じように優秀な男が俺と同時に夕陽に告白したならば、年齢の若い方に目移りするかもしれないからな。


しかし、三流大学の男どもは、下半身で行動してしまう獣みたいな奴しかいないので、夕陽に襲いかかる可能性もあるので、悠長にしている訳にはいかない。


俺は、今日、夕陽に告白して俺と結婚してもらおうと思っている。


今度は夕陽を離さない。過去の俺は康や亡き妻の事を思って夕陽を捨てた。

これは大きな過ちだった。

俺は康や亡き妻を捨てるべきだったんだ。


俺の懺悔を夕陽に聞いてもらい、赦しをこう。

そして、改めて俺と一緒に人生を歩んでもらう。

それこそが、今の夕陽を救い出す唯一の方法だ。


大学を卒業したら、俺と同じ職場に就職させて、2人で生活すればいい。


俺は子どもは康で懲りたが、夕陽が望めば産んでもらっても良いと思う。

夕陽との子供だったら、今度は俺も愛することができると思う。 


俺は夕陽の通っている大学に向かう。

さすが三流大学だけあって通っている学生も頭が悪そうだ。


人の顔をジロジロ見て、大学生のくせに礼儀すら身に付けていない。

こんなクズが集まるところに俺の夕陽を置いて置くわけにはいかない。

早く夕陽を救い出さなければならない。


俺は興信所からの情報で夕陽がこの時間には、大学で講義を受講していると聞いていた。

俺は今、彼女が受けている講義が終わるのを講義室の前で待っている。


早く終わって夕陽が出てこないかな?


しばらく待つと、講義が終わったのか、室内がざわめきを取り戻し、気の早い何人かの学生が講義室から出てくる。


いた!

夕陽だ。あの頃よりも、成熟し女の色気をまとっており、俺の妻に相応しい女になっている。


俺は夕陽の前に立つ。

夕陽と話していた友人らしき女が、俺の顔を見て、頬を赤らめるが、俺は無視をする。


夕陽は俺の顔を見ると涙を流す。

あぁ、俺の天使!

こんなにも君を待たせてごめん。


俺と夕陽は大学内で周りの人の目も憚らず抱き合う。


もう俺は夕陽を離さないからな。

そう、夕陽の可愛らしい耳にそっと囁くと夕陽は恥ずかしそうに頷く。


見たか、香里奈!

俺は、今日お前の呪いから解き放たれた!


〜〜〜〜〜〜


俺は暗い部屋の中で1人呟く。

「今日からジムに通うんだ。」

「自分を取り戻すんだ。」

「美容院にもいかなければ。」

「興信所にも頼まないと。」

「就職先の人事部にも行って夕陽の事を教えておかないと。」

「もうすぐ夕陽が成人してしまうぞ。」


そう呟いて一日が終わってしまう。

呟いた言葉はどれも実現できていない。


この何も行動を起こす気がなくなるのは香里奈の呪いだ。

あの女は死ぬ前に俺に呪いをかけたんだ!


そう思って、周囲を見渡せば、どこかにあの女の気配が感じられる。


俺は夕陽と再び再会できる日を思い、暗い部屋の中であの女の呪いと戦いながら、一日一日を無駄に過ごしている。

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