第6話


康は念願だった高校に合格、今日は入学式の1人だった。


祖父母も入学式を見にくるとのことだったが、康は通学路の下見もしたかったので、先に1人で高校に向かっていて、後から祖父母と合流する予定だ。


合格発表の時には夕陽とは会わなかったので、彼女が合格したのかはわからなかったけど、その日の夜、夕陽の両親から、祖父母経由で彼女も合格していたと教えてもらった。


康は、もしかしたら、2人で合格発表を確認して、喜びのあまり、抱きあったりしていたのかもしれないな。


なんてことを考えてしまっている自分に気がついた。

康は自分が夕陽のことが忘れられていないのかもしれない。


康は自分の頭を振り、夕陽のことを忘れようとした。


もう夕陽とは関係ないんだよ!

そう自分に言い聞かせ、自分のクラスがどのクラスになるのか確認に行く。


そして、張り出されているクラス分けの一覧表を見ると、自分の名前よりも、夕陽の名前を探している自分に気がついた。


俺の馬鹿野郎!

頭の中から、夕陽のことを消してしまえ!


康はそう自分に言い聞かせて改めて自分の名前を探す。


そして、1組のところに自分の名前を見つけると入学式が始まるまで、そこで待機と書かれていたので、康は1組に向かう。


すると、


「やすくん!」


康にとって忘れられない女性の声が後ろから聞こえてきた。


康が振り向くと、そこには走ってきたのか、夕陽が少し息をきらせて、康から少し離れたところに立っていた。


「何だよ。今さら、俺に話しかけるなって言ったろ。」


康は不機嫌な声を出すが、心の中では少し嬉しいと思っている自分がいることに気付いていた。


「あの時は、ごめん。私もどうかしていたんだ。」


夕陽は泣きそうな顔をしている。


「泣くなよ。周りに人がいるだろ。」


康はそう言っている自分も泣きそうになっていることに気がついた。


「うん。ごめんね。でも、これだけは言わせて、私はね。やすくんと付き合いたくて、やすくんのお父さんに相談したの、最初はやすくんのことを教えてくれたり、していたんだけど、それからは、男と女は初めて同士だと上手くいかないなんて言われて、私はあの人に洗脳されていたんだと思っているよ。」


夕陽はもうほとんど泣いているみたいだ。

そう思っている自分の目からも大粒の涙が流れていることに康は気付いた。


「俺も、あの時は隣にいた女の人、あの人に騙されていたんだ。俺に酷いことをした夕陽を苦しめてやれ。なんて言われて、その気になってしまったんだ。」


夕陽は泣きながらも、笑顔を浮かべようとしているのか、泣き笑いのような顔になった。


「大丈夫、だってやすくんはあんな酷いことは言わないもんね。あの人に騙されているんだって思っていたよ。」


夕陽の言葉を聞いて、康は安心した。

 

「夕陽、俺たち、また同じ関係に戻れるかな?」


康の言葉を聞いて夕陽はニッコリと笑って応える。


「うん。だけど、今度はちゃんとした恋人関係になりたいな!」


康はその言葉に真っ赤になっていたが大きく頷き、


「夕陽・・・、ずっと好きだった。俺と付き合ってくれないか?」


夕陽は真っ赤になって告白をする康をとても可愛いと思った。

答えは決まっている。


「はい!お願いします!」


2人はしっかりと手を握って自分達の愛に気付いた。


〜〜〜〜〜〜〜


私は入学式の日に行う計画を頭に叩き込んだ。


そうだよね。

やすくんはあの女に騙されているんだから。


私がこうやって歩みよれば、2人は恋人同士になれるんだからね!


あれからやすくんは、学校で会っても一つも口をきいてくれないまま卒業式を迎えた。

子供っぽいけど、やすくんの第2ボタンをもらってあげようと思ったのに、やすくんがどこにもいない!



これも、あの女の策略よ!

本当なら私が、私が、やすくんの隣にいるはずなんだよ!


私が部屋の中で、1人計画を練っていると、お母さんが部屋に入ってきた。


「夕陽・・・、大丈夫?今日は合格発表の日だったのよ。」


大丈夫だよ。

あの高校は合格発表、張り出されるけど、通知もくるじゃない!


やすくんは私に会うのは避けるため合格発表の日はこないかもしれない。だけど、入学式の日はくるでしょ!


そこで会うのよ。

あの高校の入学式は父母兄弟や親戚だけしか入れない。


そう、あの女は学校には入れないから、やすくんと2人きりになれるのよ。


「夕陽、貴女は合格していたよ。お父さん、貴女と合格発表見たかったって言っていたよ。」


やすくんがいない合格発表なんて価値がない。

やすくんと合格発表を祝えない合格発表なんて見に行かなくていい!


お母さんがため息をつきながら話す。


「それからね。これは康くんからの伝言、貴女が無事にあの高校に合格したら伝えてくださいって康くんのお祖父さん経由でお願いがあったの。」


私は母さんから、やすくんの名前が出たので、お母さんの顔を見る。


今まで、若々しくて、自慢のお母さんだったけど、この数ヶ月でずいぶん疲れた顔になっていた。


「貴女は康くんの名前を出さないと私の顔を見てくれないのね。

まぁ良いわ。康くんね。別の高校を受けて、合格したそうよ。高校の名前や場所は教えられないって。」


えっ、私の計画はどうなるの?

なんでやすくんは私と一緒じゃないの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る