第5話

「いや、あの姿を見せられて、まだ俺が君のことを好きだと思われているのは不快なんだけど。」


あれ?おかしいな?

やすくん、何を言っているのかなぁ?


「君がうちのくそオヤジと結婚しようが、別の男と付き合おうが関係ない。二度と俺の前に表れないでくれ。」


ダメだよ。

やすくん、彼女にそんなことを言ったら、女の子には優しくしないと、めっ!だよ。


私は泰一さんが家に謝罪しにきたとき、家の前でやすくんからこんなことを言われてしまった。


まったく最近はおかしなことばかり起きて困るな。

やすくんが友達の家に泊まりに行くって言っていたのに帰ってきたり、私と泰一さんが仲良くしているところをみたり、泰一さんが私と別れるなんて言ったり、どうして皆分かってくれないのだろう。


なんで皆、私の思いどおりに動いてくれないのだろう。

そうね。

これは私が泰一さんややすくんからの愛をただ享受するだけの弱い女の子だったからなのね。


やっぱり、いくら女の子が持て囃されている現代でも、ちゃんと努力しないといけないね。


そう、私のスマホにやすくんの位置情報が判るアプリを入れておけばやすくんがいきなり帰って来ても分かって対処できたじゃない!


泰一さんと仲良くする時もお金をケチったりせずに、ちゃんとホテルに行けばやすくんに私の裸を見せることもなかったし、泰一さんとも家で仲良くしたら、前の奥さんのことを上書きできるとおもっていたから家で仲良くしていたけど、毎回、家だとちょっとマンネリ化していたかな?


もう!

大人の男の人って身体を許したらすぐに調子に乗るからね。

もうちょっと我慢させれば良かった。


逆にやすくんにはちょっと早いと思っていたけど、キスくらいはさせてあげた方が良かったわね。


手を握ってあげるくらいだったから、ちょっと年上の女が優しくしたら、騙されちゃったかな?


私ほどじゃないけど多少は見た目も良かったしね。


でも、失敗したな〜。

やすくんは亡くなったお母さんを思って、癇癪起こしてばかりだったから、子供みたいに思ってしまっていたからね。

もう少し早く身体を許してあげていたら良かったかな?


最初にやすくんと恋人のフリをしていたら、上手く泰一さんとも仲良くできていたかもね。


泰一さんも、さすがに息子の恋人だったらもっと慎重にしてバレないように協力してくれて、いたかもしれないからね。


まぁ、良いや!

やすくんもようやく反抗期がきて大人の男になってきたみたいだから、私にあんなことを言ったんだよね!


やすくんには似合わないあの女と別れてもらって、私にあんな事を言ったのを反省してもらったら今度は手を握る以上のことをさせてあげないとね。


楽しみにしていてね、やすくん!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


俺は康に夕陽との行為をしているところを見られたあの日、康が家を飛び出して行った時、俺は亡き妻に申し訳ない気持ちで一杯だった。


そして、夕陽に別れを告げて、老人になっている自分の父母につれられ、同い年に近い夕陽の両親に頭を下げる惨めな俺に対して、あの場にいる人たちの蔑む目がとても嫌だった。


確かに俺は悪いことをしたのだろう。

でも、あれは夕陽から誘ってきたんだ!

俺はそう言いたかった!

だから、俺は悪くない!

俺が唯一、悪かったところは死んだ妻との約束を破ってしまったことだけだ!


大体、後、5年もしたら、夕陽は成人だろう。

そうしたら世間の奴らは、


「若い女性と結婚出来て羨ましいですね。」


なんて言っていたはずだろう!

そうだよ。

そうしたら、康も夕陽のことはきっぱりと諦めがついて、新しい母親として夕陽を認めてくれていたはずなんだよ!


あの日、康がちゃんと友達の家に泊まっていてくれたら、あるいは、俺が夕陽をホテルに連れて行っていれば!


こんなことにならなかったのに!


結局、夕陽の今後の事を考えて、話を大きくしたくないと夕陽の両親が言ってきたので、示談し、俺は慰謝料を払い、今後、夕陽とは連絡を取らず、別の土地に移り住むことになった。


親父とお袋からは康とも離れて暮らすように言われたので、転職をして、今まで行ったことの無い土地に引っ越しをした。


妻との思い出があった家は、康が、もう見たくないと言ったので売却をし、俺は今、親父とお袋に位置情報を伝えるアプリで毎日、居場所を確認されている。


俺は薄暗い部屋の中で考える。


親父達もいい歳だ。

親父達がいなくなれば・・・・、その頃には、夕陽も成人しているだろう。


今はまだ精神的に未熟な康も成長しているだろう。


そうすれば・・・。

俺は一人部屋の中で夕陽との幸せな家庭を築く夢を見ている。

だって、その夢だけが、今の俺を支えてくれているのだから・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る