第3話


私は母親に連れてこられた公園では少し早い時間だったのか、誰もいなかったので、母親と一緒に遊具で遊んでいた。


私がジャングルジムで遊ぼうとすると、母親からは


「お母さんはジャングルジムでは遊べないわ。」


なんて言われたので、私は仕方なく

一人で遊んでいたけど、つまらなくなってジャングルジムの一番上から、公園の入口をぼーっと眺めていた。


しばらくすると、入口からお母さんに連れられて、こちらに向かってくる男の子が見えた。


私は今まで、何回かこの公園にはきているけど、その男の子は見たことはなかった。

何故か私はその男の子と友達になり、一緒に遊びたいと思ったんだ。


私は、その男の子に話しかけようと、急いで、ジャングルジムを降りるが、焦っていたのか、三分の二まで降りたところで足を滑らせて落ちてしまった。


だけど、上手くお尻から落ちたので、お尻以外はどこも痛くはなかった。

お尻の痛みよりは、落ちたこと自体にびっくりして、私は、しばらく立ち上がることができなかった。


すると、その様子を見た男の子やその子のお母さんが慌てて、こちらに来てくれて


「君!大丈夫?」


なんてその男の子が、声をかけてくれたから私はとても嬉しかった。


私の周りにいる男の子は少し乱暴な子が多くて、虫やミミズを投げてきたり、悪口を言ってきたりする子が多くて、その子みたいに優しく声をかけてくれることなんかなかったから、私はお尻はもう痛くないということと、お友達になって一緒に遊びたいことを一生懸命に伝えた。


するとその男の子は嬉しそうに笑って

「うん!僕も、遊びたい!君の名前は?僕は康(やすし)って言うんだ!」


「私はね、夕陽(ゆうひ)っていうの!今日はね!お母さんと公園に来ているの!」


すると私が康くんの家族と話をしているのが見えたのか、母さんが慌ててこちらに向かってくる。


「うちの夕陽がすみません!何かありましたか!?」


お母さんがそう言ったら、


康くんのお母さんが、

「私達が公園に入ってきたら、夕陽ちゃんがジャングルジムの真ん中よりちょっとしたから足を滑らせて落ちてしまったのを見たので、心配になって慌てて様子を見にきたんですよ。」


私はそこで初めて康くんのお母さんの顔を見たら、私のお母さんよりも優しそうで、康くんが羨ましくなった。


私のお母さんも少し安心して


「そうなんですね。うちの娘がご心配をおかけしてすみません。」


普段はあまり出さない、そう、電話で話すときに喋るようなおしゃれな声でそう言っていた。


私は康くんを、


「康くんの好きな遊具で遊ぼう!」


なんて言って、私達が手を繋いで走り出すと、私のお母さんと康くんのお母さんは2人で話を始めた。


そして、私が康くんと遊んで、しばらくしたら、お母さんが、


「夕陽〜!そろそろお昼だから、お家に帰ってごはんを食べよう〜!」


と呼びかけてきた。

そうか、もうこんな時間が経っていたんだ。


私は康くんに


「またお昼ご飯を食べたら遊べるかな?」


と聞いてみた。

すると康くんは


「うん。僕もお母さんに聞いてみるよ。」


「ありがとう。私は康くんとお友達になりたいな。」


と私が言うと、康くんも嬉しそうに、


「うん。僕も。」


と言ってくれた。


私が、康くんとお昼からも遊びたいと言うと、お母さんは少し難しそうな顔をした。


多分、晩ごはんの準備をしたり、家でゆっくりしたいのだろう。


すると、康くんのお母さんが、


「うちの康も夕陽ちゃんと遊びたいと言っていますので、こちらの家で遊ばせるのはどうでしょう。お昼からは暑くなりますし、家で遊べば、熱中症にもなりにくいと思います。」


まさに私にとって救いの一言だけど、お母さんは、


「いえ、初めてお会いした方のお家にお邪魔するなんて、とんでもありません。」


だけど、康くんのお母さんが


「大丈夫ですよ。私達もこちらに、引っ越してきたばかりですし、私も、是非、夕陽ちゃんのママがお友達になって頂けると嬉しいです!」


そこまで言われるとお母さんもさすがにダメと言えずに、


「では、お昼を過ぎた頃に、お宅にお邪魔したいと思います。」


「はい!連絡先も交換して頂けると嬉しいです!」


と康くんのお母さんと連絡先を交換して、お昼ご飯を食べて少しゆっくりしたら、康くんのお家に行くことになったんだ。


住所を調べると、私達の家からもそんなに、離れていないので、お母さんの機嫌も悪くならなくてよかった。


それからも、康くんとは公園で遊んだり、お互いの家で遊んだりしていたので、お互いの母親も仲良くなっていた。


でも、お互いの父親はいつも忙しいそうにしていて、顔を見る程度で、たまに康くんをお父さんが公園に連れてくるときがあっても、いつもベンチに座って難しそうな顔をしてスマホを触ったりしていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜


私達は少し大きくなったけど、変わらず一緒に遊んでいた。


学校では、男の子と女の子ということもあり、周りから冷やかされることもあったけど、お互い気にすることなく、遊んだり話をしたりしていた。


しかし、小学校の低学年の頃、康くんのお母さんが病気になったことで私と康くんの関係が変化した。


康くんのお母さんが健康だった頃は、休みの日や学校が終わったら、私とよく遊んでいたけど、康くんのお母さんが病気になったら、康くんはお父さんと一緒にお母さんの通院や入院の時にはお見舞いに着いて行くことが多くなった。


でも、学校では私と一緒に遊んだり、行事の時には一緒の班で行動したりしていたので、私は康くんとは仲良くしていた。


だけど、康くんのお母さんは病気になってから、私達が小学校高学年になった時に亡くなってしまった。


すると、康くんはそれまでと違って乱暴な言葉使いをするようになり、ひどいときにはケンカもするようになってしまった。


まるでそれは、小さな子供がお母さんがいなくなったことで癇癪を起こすみたいな感じだったので、私は彼のお姉さんみたいな感じで、少しだけ上から諭すように話をしてみた。


すると、康くんは他の友達や先生の言葉には反発するけど、私の言葉は素直に聞いてくれて、私が止めたり注意したら、ケンカ相手にも謝ることができるようになってくれた。


康くんはお母さんがいなくなって甘える対象が欲しくなったんだろうな。

と私は思い、それからは彼のお母さんの代わりを務める感じで彼に接するようになった。


彼の食生活を心配したら、お母さんに習った料理を作ったり、勉強を一緒にしてみたり、彼が観たい映画があると言ったら、一緒に行ったりした。


彼が時折、見せる笑顔は小さな時から変わらず、まるで彼のお母さんに見せるような笑顔のままだった。


私が彼の面倒をみるようになったら、やすくんのお父さんとも接するようになった。


私が彼の家にいる時にやすくんのお父さんが


「君のおかげで康が落ち着いてきたみたいだ。ありがとう。」


とお礼を言ってくれた。

私はやすくんのお父さんとまともな会話をしたのはこれが初めてだったと思う。


その時、子供みたいなやすくんよりもしっかりした大人の男性だなと思い、私も精一杯背伸びをして、


「大丈夫です。やすくんとは友達ですし。」


なんて自分がイメージする大人みたいな応え方をした。



私はそれからはやすくんのお父さん・・・、泰一さんを、大人の男性としてみるようになった。


それは、周りの同級生の女の子がテレビや雑誌のアイドルやモデルに憧れるような・・・、麻疹みたいなものだったのだろう。


だけど、泰一さんはテレビのアイドルとは違って、身近に話をすることや見ることができる存在だった。


私はやすくんの世話をすることが、泰一さんと接することができる確実な方法と思ったので、それからは積極的にやすくんの世話をすることにした。


中学生になると、私はやすくんと手を繋いだりしても、子供と手を繋いだりするイメージしかわかなかったので、周りから冷やかされても、全然気にならなかった。


やすくんも普段は手を繋いでくるのに、泰一さんといるときには、私と手を繋いだりするところを見られるのは、小さな子供と思われるのが、恥ずかしいのか、手を繋ぐようなことはなかった。


中学生になると、私の周りの女子はませている子もおり、さすがに、初体験の話は聞かなかったけど、キスくらいならしたという子もチラホラいた。



ある時、私は、今は女性も男性も結婚は18歳からになったけど、昔は女性は16歳から結婚できた話を聞いた時、私は泰一さんとの結婚することを意識しはじめた。


もちろん私と泰一さんは、今はまだ結婚することができない。

それまではやすくんとデートをしたりして、泰一さんとの結婚を受け入れてもらえるように仲が良い関係を築いて行こう。


やすくんも私をお母さんみたいな感じにとらえているから、私が本当のお母さんになってあげれば、やすくんも安心するだろうし!


私はそう思い、それからは食事を作る時も、片付けるときも泰一さんの隣にいることを意識しはじめた。


そして、中学2年の頃、やすくんがテレビを観て泰一さんと私が並んで食事の準備をしているとき、私は勇気を出して泰一さんの手を握り、


「泰一さん」


とそれまでは心の中で呼んでいた呼び方を初めて口に出して呼んでみた。


〜〜〜〜〜〜〜


私はやすくんに泰一さんとの行為を見られた、あの後、泰一さんに家に帰らされる前に、


「君とはもう結婚することも付き合うこともできない。俺はやはり康の父親になる。これが香里奈の最後の願いだと、その願いを忘れ、君に溺れた俺への罰が今の状況なんだろう。」


そう言われた。

泰一さん、いや彼の目には、もう私は映っていないだろう。



私は自分を省みた。


私には何が残っているのだろう、年上の男性に憧れ、身体も許した私に・・・、そうだ。まだ私には彼が・・・、やすくんが残っている。

もちろん、やすくんには嫌われているだろう。


だけど、それまでは仲が良くて、私はやすくんを子供だと思っていたけど、今改めて思うと、やすくんは私を1人の女性だと意識していたはずだ。


デートだって(私はその頃はデートとは意識していなかったけど)した関係だったんだ。

私と恋人になれると知ったら、関係を修復できるかもしれない。


早く私のもとに帰ってきて、やすくん。

今度は、私は間違えないから・・・。

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