第2話
警告
この話は父親からの視点で書かれています。
あくまでフィクションであり、犯罪を助長する意図はありません。
話は変わりますが、故事成語の成り立ちでは「助長」は、「助けようとしてかえって邪魔をする」という故事からできているのですが、最近の辞典では、「助けて成長させる」という意味が①で「助けようとして、かえって邪魔をする」という意味が②になっているんですよね。
〜〜〜〜〜〜〜
俺は妻の和久井香里奈(わくい かりな)とは大学時代に知りあった。
大学1年の頃、共通の講義を受けている内に、たまたま隣の席に座ってから、課題のことで会話をしてから顔見知りになり、何となく挨拶をし始めると、隣同士になることが多くなり、会話をするようになった。
香里奈の容姿はぱっとしたものではなかったが、俺は彼女から安心させるような、ホッとする感じがしたので、俺の方から積極的に声をかけた感じだ。
休憩中の何気ない会話から大学の食堂で一緒に食事をするようになり、休日も一緒に過ごすようになったら、自然な感じで仲良くなり、俺の方から告白して、付き合いはじめた。
俺の容姿はアイドルみたいなイケメンではなかったが、そこそこははモテる外見をしていたので、女性からたまに声をかけられていたが、俺はよく知りもしない人と付き合う気にはなれなかったので例え声をかけられても知らない女性にはまったく興味がわかなかった。
2人とも何となく社会人になって、少し落ち着いたら、結婚しようかなんて言っていたが、社会人になってしばらくしたら、香里奈の妊娠が判明したので、俺達はお互いの両親に挨拶をした。
俺達は大学生の時からお互いの家に行ったりしていたので、家族他はようやくかという感じで俺達の結婚を祝福してくれた。
香里奈は出産直前まで、働いてから、産休・育休を取った。
香里奈は市役所に勤めている公務員だったのでそこら辺は融通が利くみたいだった。
出産予定日の朝早く、香里奈が
「初めてだから分からないけど、多分、陣痛が始まった。」
と言ってきたので、俺は産院に連絡、そうしたら、電話に出た当直の看護師から
「奥さんを連れてきてください。」
と言われたので、俺は香里奈を車を乗せ、産院に向かった。
産院に無事に着いた俺は香里奈を支えつつ、産院に入ると、看護師が待ち構えていて、香里奈を連れて分娩室に入って行った。
感染症対策のため、俺は分娩室には入れず、このことは後で香里奈から
「私は立ち合い出産をしてもらいたかったのに〜。」
と可愛く小言を言われたけど、中々、赤ちゃんが出てこなくて、香里奈の血圧も危険なくらい上昇していたので、医師の判断で普通分娩から帝王切開に切り替えられたので、俺はどちらにしろ立ち合うことはできなかったんだがな。
俺は自分や香里奈の家族に連絡をして香里奈の状況を伝えた。
するとしばらくしてから、自分や香里奈の家族が産院に到着したので、医師や看護師から聞いた状況を伝えた。
しかし、どちらの家族ともに、父親は焦っても母親は泰然自若としていたので、出産には女性の力は必要だな、などと思った。
俺が思っていたより、早く手術は終わり、看護師から無事に産まれたことを聞いた俺達は、ガラス越しに産まれた赤ちゃんを見ることができた俺達はガラス越しにも関わるかとなく、写真を撮りまくっていたら、看護師から、
「香里奈さんは、手術後の処置を終えたので、病室に移動しました。面会はできますが、術後なので、静かにしてくださいね。」
と告げられたので、俺達は香里奈の病室に入って行った。
「香里奈、頑張ってくれてありがとう。」
俺は心から感謝をして、香里奈に伝えた。
香里奈も俺の声を聞いて嬉しそうにそして誇らしげに
「私、頑張ったよ!」
と言ってくれた。
赤ちゃんは処置を終えていないので病室には連れてきてはおらず、看護師の話では、しばらくは看護師で面倒を見て、母乳を飲ませる時に赤ちゃんを連れてくるみたいだった(例え母乳が出なくても連れてきて口に含ませるらしい。)
香里奈は帝王切開で出産したので、しばらくは赤ちゃんとともに入院すると聞かされた俺は、香里奈から必要な物を聞いて、後で持ってくると伝えたところで、お互いの家族から、香里奈を褒める言葉が出てきては香里奈が照れるなんて構図が繰り広げられたので、俺も嬉しくなった。
しばらくして、赤ちゃんが母乳を飲むため、連れて来られたら皆がこの小さな生命力に溢れた存在を見つめていた。
香里奈の麻酔が切れたところで、赤ちゃんとの接触を増やすとのことなので、翌日からは皆が赤ちゃんを抱っこできる時間も増えてきた。
翌日、俺が香里奈の病室に行くと、香里奈は、赤ちゃんを抱っこしており、俺の姿を見ると抱いている赤ちゃんに向かって
「ほら、パパが来てくれたよ!」
なんて言っているのを聞いて、ああ、俺は父親になったんだななんて思っていた。
そこから、子供の名前を
「康(やすし)」と決めて、市役所に出生届を提出したり、忙しくしていたら、いつの間にか、香里奈は俺のことを「パパ」と呼ぶようになった。
そして、俺もそれにつられて香里奈のことを「ママ」と呼ぶようになった。
そこからだろう。
俺は、香里奈を・・・、いや「ママ」を1人の女性ではなく、「康の母親」と見るようになってしまった。
香里奈も俺のことを「康の父親」と見ているはずだ。
康は順調に育ち、母親が大好きなが男の子に育った。
康が小学校低学年の頃に、妻が倒れた。
俺は休みだったので、慌てて、康とともに妻を病院に連れて行くと、彼女は癌との診断で、入院をして再度、精密検査を受けて下さいと医師からの説明を受けた。
俺は一旦、妻と康を連れて、家に帰り、妻の入院準備を行う。
妻からは不安を伝えられ、俺からは、俺も不安だけど、とりあえずは入院して、治療に全力を尽くそうと伝えた。
妻の診断結果は思っていたよりも悪く、抗癌治療を続けるために長期入院が必要とのことだったので、俺は日頃から定期的に康を連れて「ママ」の病室に行った。
妻からは康を連れて来てくれてありがとうと言われて、俺も良い「パパ」だな。なんて自分では思っていた。
妻の病状は回復はせずにどんどん悪くなり、医師から、今までどおりにするか、終末医療に切り替えるかの意思確認が行われた。
俺は、正直に医師の言葉を妻に伝えて、一緒に泣いた。
そして、終末医療に切り替えることを医師に伝え、そこからは、毎日、康を連れて「ママ」に会いに病院に通った。
そして、康が小学校高学年になろうとしていた時に、妻が亡くなった。
彼女の最後の言葉は
「パパ、康をよろしくお願いします。」
だった。
彼女の中では、俺は最後まで「康の父親」だったのだろう。
そして、俺は香里奈に与えられた「康の父親」という役目を最後まで果たそうと誓った。
「ママ」が亡くなったことで、康が荒れた。
俺は妻からの最後の役目を果たそうと康にちゃんと向きあったが、康には受け入れてもらえず、親子の溝は深まるばかりだった。
しかし、ある日、俺が仕事から帰ると康の横には同じような年の女の子がいた。
その子は夕陽(ゆうひ)ちゃんといい、俺の顔を知っているらしく、「やすくんのお父さん」と呼んでくれた。
彼女が言うには、康とは小さな頃から遊んでおり、俺や「ママ」のことは、俺達が康を連れて公園に行っていた時に顔を知ったらしい。
彼女といると康は落ち着いていて、俺の話もちゃんと聞いてくれた。
彼女から聞くと、康は学校でも、「ママ」のことを思って、荒れていたみたいだが、最近は落ち着いてきたと教えてくれたので、俺は夕陽ちゃんが康を落ち着かせてくれたんだな、なんて思ったので、彼女に
「君のおかげで康が落ち着いてきたみたいだ。ありがとう。」
と素直に感謝の言葉を伝えた。
「大丈夫です。やすくんとは友達ですし。」
なんて照れながらも、しっかりと受け答えをしている夕陽ちゃんを見ると、康より大人びた性格でしっかりとしているな。
なんて思った。
その日から、我が家によく夕陽ちゃんが訪れるようになってきた。
俺としても、康が落ち着いてくれるので、夕陽ちゃんが家にくることを歓迎していた。
夕陽ちゃんは、俺の不在時に家事までしてくれているときがあり、
康と彼女が中学生になる頃には、食事まで作ってくれるときがあったりして、俺が康(この頃には康と普通に会話をするようになっていた)に、
「康、あんまり夕陽ちゃんに迷惑をかけるなよ。俺が基本的には作るけど、康も簡単な食事くらい作れるようになっておけよ。」
と俺が言っても、康は
「夕陽のやつ俺のことを子供扱いするんだよね。俺だって炊飯器くらい使えるし、簡単な食事くらい作れるんだけどね。」
なんて文句を言っていたけど、少し嬉しそうだった。
夕陽ちゃんはそれからも康と仲が良いみたいで、休日にどこかに出かけた後でも、我が家に来て、俺に挨拶をしてくれた。
とある休みの日、夕陽ちゃんが康と出かけた後、一緒に家に帰ってきて、俺が夕食の準備をしていると、康はのんびりテレビを観ていたけど、夕陽ちゃんが手伝ってくれ、その後、なぜか3人で食事をすることになった。
俺は夕陽ちゃんの家に連絡を入れて、家で食事を取らせることを伝え、帰りは自宅まで送る旨を伝えた。
電話に出た夕陽ちゃん母親からは
「先程、急に本人から今日はやすくんの家で食べてくるって言われたので、申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」
と逆に申し訳なさそうに謝られた。
「ほら、やすくん、口元が汚れているよ!」
「自分でできるから大丈夫だよ!」
う〜ん。
康と夕陽ちゃんとのやり取りを見ていると、彼女と彼氏というよりは母親と息子だな。
なんて思ってしまった。
そして、康と夕陽ちゃんが中学2年生の頃、俺はふと感じてしまったんだ。
彼女・・・夕陽ちゃんが、康ではなく、俺を見ていると。
普段から、最近、何となく夕陽ちゃんとは、目線が合うなと感じていた。
ある時、康がテレビを観て、俺と夕陽ちゃんが食事の準備しているときに彼女が俺の手を握り、いつもの「やすくんのお父さん」ではなく、泰一さんと呼ばれた時に、それは確信に変わった。
そこからは、俺は亡き妻から与えられた「康の父親」という役目を忘れ、1人の男として、夕陽を、1人の女性を愛するようになった。
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