最初の候補その2

 さて、お次の世界は…これだ。


 ここはスポーツのスタジアム。結構先進的な感じがするだろ?

 でも技術水準はそう離れてはいない、そんな感じはしないかな?君の世界で現状実現可能な最先端がこんな感じだと思うのだがね。


 これはサッカーの試合風景だ。ルールは君の世界のとそう変わりない。


 …気が付いたかな?観客席の違和感に。


 観客席が明らかに分断されているし、観客らはやけに過激なことが書かれたボードを掲げているだろう?


 そして、それが当たり前のように誰も気にする素振りを見せない。

 それどころかどちら側の観客でさえも同じような雰囲気だ。どちらも自分たちのチームの応援よりも相手を貶すことに夢中なんだ。


 まるで戦争だろ?自分たちが勝つために、自分たちの士気を上げるのに手段を選んでいない。融和という発想など端から無く徹底的に勝利しようとしている。


 一部ではスポーツ大会の事を代理戦争なんて言われてるが、この世界では正しく代理戦争なんだ。


 選手は軍に所属して身を守らないといけないし、ドーピングどころか文字通りの人体改造も堂々と行われている。

 流石に機械を埋め込んだりとかは無いんだが、遺伝子レベルで厳選した上で選手を発掘し、肉体も性格も作り変えられる。


 どうしてこうスポーツが殺伐としているか気になるだろ?

 誰が何をしたとか語っても腑に落ちないだろうから、私の考察を簡単に語っておこう。


 それはズバリ、優越感やアイデンティティなんかが大元にある話だ。この世界の住人は優越感を得る為に手段を選ばない傾向にある。


 でも、ラフプレーやドンパチといった暴力的な手段で優越感を満たすことは意外と少ないんだ。自分たちは野蛮だと主張するようなものだからね。

 それが写真にあるような侮辱行為とは結び付かないのが何ともシュールではあるけど。

 

 自身の価値を模索するという行為は、役割の分担を前提とする社会において非常に重要な行動と言える。でも、自分にふさわしい役割を自分で選ぶには苦労が伴うし、自分に価値を見出せなければ途方もない不安が付きまとってくるだろう。

 不安が持つ影響力は侮れなくてね…不安が人間を奇行に導いた事例ならいくらでもある。


 勘違いしないでほしいのは、私にはそういう人間を悪く言う意図はないんだ。そういうのも一つの生存戦略だからね。それに、機内は生存戦略とは無縁の場所だということもお忘れなく。


 この世界ではメディアやインフルエンサーも思いっきり煽り散らかしたりと、そこら中に独裁者気取りが蔓延っている。君の世界よりも過激な方向に進んじゃったんだろうね。

 これでも、この文明水準に至るまでは君の世界と似たような歴史を辿っていたんだ。現代に入ってから何かが変わったと、他の歴史を知っているからこその推測もできる。


 この世界を候補に選んだのは、実はそこにあるんだ。


 この世界、君の世界と似通っているだろ?

 根本から何も異なる異世界も良いけど、似たような異世界でそこにある違いを探ってみたいって需要に応えようとするなら、ということでこの世界を候補に選んでみたんだ。


 君ならこの世界の人間にも溶け込める。紛争地帯を歩く訳でもないから、旅行する上でも不便は感じないはずだよ。


 そんな優越感の略奪が横行する世界ナンバー63-Cだけどね、面白い人物がいてね。この世界を選んだならその人物にフォーカスを当てようと思ってる。

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