機内案内 後編

 ここにいたか。ここはリアルアフターライフ号のサロンだ。

 当機は広いだろ?エンジンを10機も積んでいると言われれば、納得行くかな?


 当機のサロンでは、客人同士が交流する為のスペースを想定している。今は君しかいないが、いずれは客人たちがこの部屋から世界を超えた接点を築いていくようになるだろう。

 君には、その第一歩を踏み出す手伝いをしてもらいたい。難しく考える必要はないさ。君は当機のおもてなしを受けてもらうだけでいい。


 現在、当機は多分中央アジアの辺りを飛行中だ。今どっかの軍事基地の上を通り過ぎたな。これほどの低空飛行ができるのも当機ならではだ。


 そんなところを飛んで撃ち落とされないのかって?心配ないさ。

 リアルアフターライフ号には複数の世界の技術が用いられている。少なくともこの世界の技術力では当機の存在を認識することはできない。


 レーダーに写らないのはモチロン、飛行中は肉眼でも見えないし、騒音も環境音にかき消されるレベルだ。当機のことを知らなきゃ、運が良くても耳鳴りが聞こえる程度にしか思わないだろうさ。


 それは置いといてだ。君にとっての最初のフライトの行き先が粗方絞り込めたんで、具体的なことは君に決めてもらおうと思うんだ。

 行き当たりばったりでも良いんだが、客人を乗せての飛行は初めてなんでね。過去に行ったことのある世界が良いんじゃないかってなったんだ。


 …とはいっても、それだけでどう選べば良いんだって話だな?

 とりあえず異世界について簡単に説明しよう。その後に今回の候補になっている世界の特徴を話す。


 まず異世界というものは、ざっくり言えば君がいるこの世界とは異なる世界だ。具体的な世界の定義は無い。君の世界との違いがほぼ見分けがつかない異世界もあれば、物理法則から異なる異世界も存在している。


 世界の数は決して一定ではなく、今この瞬間にも誕生したり消滅したりしている。が、基本的には世界が誕生する勢いの方が強いって感じだな。

 我々が足を踏み入れる世界というものは、無限に増殖し続けている世界のほんの一部ということになる。寿命が無限にあるとしても、すべての世界を旅するのは実質不可能になる。


 で、世界を渡り歩く上で問題になるのが世界の区別だ。それぞれの世界が律儀に世界そのものに名前を付けているとは限らない。


 この世界の場合、君が生活している惑星である地球やその地球が含まれている太陽系、天の川銀河には名前がついている。

 でも、それらが含まれている宇宙…いや、世界そのものには個別に名前は付けられていない。まだ複数の宇宙を識別することがそう身近ではないから仕方のないことだけどね。

 なんなら君が思うような宇宙が無い世界も存在している。


 となるとこちら側で独自かつ一方的に名前を付けることになるわけだが、基本的には訪れた順に番号を付けている。世界ナンバー何とかっていう風にね。


 それだけじゃあ不便なんで…ジャンル分けしたり、共通点が見られる世界同士を時系列にまとめたりもしているんだ。


 宇宙船やら人型ロボットなんかが普及しているような世界はSFというジャンルに分類される。その分類の基準も大雑把だからあまり気にしすぎないように。


 それと時系列は君で例えてみよう。君が当機に乗り込んだ世界と、乗り込まなかった世界。その違いが生まれるまでが同じような歴史ならそれは同一の時系列にまとめられる。

 でも、歴史が根本から違っていてそもそも君が生まれないような世界ならその時系列には入らないだろうね。


 ちょっと難しいかな?こういう分類は世界の中心をどこにするかによっても変わるからね。今の例えは君を世界の中心としたんだ。

 世界にはいろんな側面がある。中心がどこになるかで世界のジャンルも時系列も変わる。一つの世界が複数のジャンルや時系列に入れられることも珍しくないんだ。


 我々にとっての世界の中心は、その世界で最初に足を踏み入れたその場所、その時代としている。わかりやすく言えば、正確にはどこに着くか分からないワープの到着地点だ。


 当機では訪れた世界の記録もしているんだが、記録するのはそんな世界の中心とその周囲にとどめている。その世界の全てを記録しようとしたら、いつまでたっても次の世界には行けないからね。

 我々が君にこれから見せるのは、限られた世界の限られた一面ということを頭に入れておいてくれ。


 リーダー、その辺にしておけ。それ以上の説明はあまり意味がない。


 そうだな。基本的なことは話したし、あとは感覚で理解してもらおう。


 このアンドロイドはジェネラル。当機の航空機関士だったり整備士だったりするんだが、このサロンの管理も彼の管轄だ。

 当機は、私ことリーダーとキャプテンとジェネラルの3人体制なんだ。誰が上って訳じゃない。一応私が当機、いや我々3人組の代表者ってことにはなっているけどね。


 じゃあ、気を取り直して…最初の異世界旅行の候補となる3つの世界について話そう。ジェネラル、上映の用意を頼む。

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