5 新たな友人と血の契約
次の日の夜。
レントレートは赤紫色腕章を手に入れたのはいいが、その重みを感じ始めていた。
廊下を歩けば珍獣でも見るかのような視線を向けられ、上級生らしき人たちからは明らかに警戒されているように感じる。レントレートは戸惑いを隠せなかった。
「レントレート様、授業の時間です」
ナナミの言葉に我に返る。
「あぁ……」
言われ、城へ来たときに掲示板前で指定された教室へと辿り着いたことに気づいたレントレート。教室へ入り辺りを見回す。
中にはレントレート以外にも赤紫色の腕章をした生徒が含まれていた。
青色腕章や青紫色腕章の生徒の大多数が学園長の魅了の魔眼でやられてしまったおかげで、クラスが再編成されたのだろう。
適当な席に付くと、クラスをざわつきが支配した。
「あれ……上級生の新入生狩りに勝ったって噂の人じゃない?」
「え? あの人がそうなの? ふーんかわいい顔してるんだね」
クラスメイト達が公然とレントレートの話をしていることに、レントレートは驚きを隠せない。
「あら……誰か来たのかしら?」
そんな噂を聞きつけてか、1つ前の席に座っていた女生徒がレントレート達の方へ振り返った。
肩まである柔らかそうな金髪を靡かせ、鋭い緑色の瞳をレントレート達へと向けてくる。
右腕を見れば、赤紫色の腕章を付けていた。
「私、ブラッドムーン子爵家出身のアイリーン・ブラッドムーンよ。よろしくね」
「ブラッドムーン……? もしかして学園長の御親戚ですか?」
レントレートは昨日の入学式のことを思い出していた。
確か、学園長の名前はミレイユ・ブラッドムーン……同じブラッドムーンだ。
「えぇ……あちらは侯爵家で、私は分家の子爵家なの。ミレイユお姉様には小さい頃からお世話になっているわ」
「そうでしたか……あ、ヴァエル準男爵家出身のレントレート・ヴァエルです。よろしくお願いします」
レントレートがそう自己紹介すると、アイリーンは他の生徒達と同じく奇異の目を向けてきた。
「あぁ準男爵で赤紫色腕章……ということは、貴方が噂のレントレートさん?」
「噂のって……一体どんな噂が流れてるんですか?」
レントレートは困った様子でアイリーンに問う。
「ウフフ……気にしないで、新入生狩りを撃退したとかその程度の話よ。赤紫色腕章同士仲良くしましょう!」
アイリーンがそう笑って、再び前へと向き直る。
するとクラスの入口からチエミさんがナイトを伴ってやってきた。
アデリーナさんも一緒だ。
レントレートが小さく右手を振ると、気付いた3人がレントレートの隣へとやってきた。
「おはようございますレントレートさん、ナナミさん!」
チエミさんがほんわかと微笑み、ナイトが「よう! 昨夜振りだな!」と笑う。
そこへアデリーナさんが突っ込みをいれる。
「聞いたわよ、新入生狩りにあったんですって? なんでも青色腕章を狙ったとか……私はアルトランド様のところにいたから、決闘を申し込まれずに済んだけれど……どうだったの?」
アデリーナさんが少しだけ心配そうに聞いてくる。
「結果は、レントレート様の右腕を見ていただければ分かるかと」
ナナミが淡々と答える。
「へぇ……勝ったのねレントレートさん。やるじゃない」
「いや、ナナミとナイトのおかげだよ……!」
レントレートが照れながらそう答えると、アデリーナが「守護騎士の武功は主の武功ってね!」と少しだけ笑顔を作った。
レントレートが何か言い返そうとしたとき、教室のドアが勢いよく開いた。
「ここは青色から赤紫色腕章教室だ。これより授業を始める!」
入ってきた男性教師らしき男が声を上げる。
「私は魔法理論担当のアルフレッド・グリムソンだ。早速だが今日すぐにでも実践的な内容に入ろうと思う。上級生による新入生狩りも始まったと聞いたのでね……君たち新入生は早急に実力を付け、上級生による腕章の奪取行為に抗って貰いたいものだ。そうでなければ我々教師も教え甲斐がないのでね……」
グリムソン先生は教壇に立つと、不敵な笑みを浮かべた。
「今日教えるのは“血の契約”についてだ」
教室内がざわめく。
「血の契約って?」
レントレートは隣のナナミに尋ねた。
「契約魔法の一つです。血を媒介として契約を結び、様々な効果が得られます……ですが……」
ナナミが説明を続けようとしたところを、グリムソン先生が遮る。
「血の契約は眷属となるものとしか結ばないと勘違いしている者もいると思うが、そうではない。吸血鬼の血を与える契約は確かに眷属契約となるが、血の契約は必ずしも血を与えるものではない。基本はあくまで血を媒介として契約を行うに過ぎない。今日は実際に契約を結んで貰う」
生徒たちの間から驚きの声が上がる。
「ペアを組んで、互いに血の契約を結びなさい。効果は単純な力の強化でいい。ただし――」
教授は意味ありげに言葉を区切った。
「契約の強度は、血の質で決まる。つまり、高位の者同士で組めば、より強力な効果が得られるというわけだ」
グリムソン先生の言葉に、皆が躍起になってより高位の相手とペアを組もうと動き始める。
「レントレート様、私と……!」
ナナミがいつもの冷たい様子と違い必死そうにそう言ってきた。だが……。
「レントレートさん! 私と組みましょう!」
振り返って話しかけてきたアイリーンに割って入られてしまう。
「ごめんなさい! より高位の者同士で組むのが理想だもの。せっかく同じ赤紫色腕章同士なんだし、私とレントレートさんとで組むべきじゃない?」
レントレートは困惑した。ナナミとの信頼関係か、同位の者との契約か。
「それは……そうかもしれないけど……ごめんアイリーンさん。私はナナミと組むことにするよ。実は母様の遺言で、血液関係の話は守護騎士のナナミとだけしろって言われてるんだ」
レントレートが答えると、「あら、残念……。それならば仕方ないわね」とアイリーンさんは引き下がる。
契約の儀式の手法をグリムソン先生から教わり、儀式が始まる。
レントレートはナイフで軽く自分の右手人差し指の先に傷を付ける。
ナナミも自身の左手人差し指に傷を付ける。
そしてレントレートはナナミの右の手のひらに触れ、ナナミもまたレントレートの左手に触れた。
「先に私が契約の言葉を言うね」
レントレートが目を閉じる。
「我が血をもって汝に力を与えん。汝の血をもって我に力を与えよ」
ナナミも同じ言葉を唱えた。
するとレントレートとナナミの二人が淡い青色の光に包まれる。
「これが……血の契約……!」
レントレートはなんだがいつもやっている血液操作強化の訓練に似ていると思った。
「素晴らしい出来だが、青色か……」
グリムソン先生が近づいてきた。
「そこの貴方、人間ですね?」
「……はい」
ナナミは素直に答える。
「人間が守護騎士とは……君、名前は?」
「ナナミと申します。レントレート・ヴァエル様の守護騎士です」
「あ、あの私が主人のレントレートですが、なにか……?」
グリムソン先生はレントレートの腕章を見る。
「君、家の爵位は?」
「はい。準男爵家ですが……それが……?」
「ほぉ……では君があのヴィクターくんを……まぁいいでしょう」
グリムソン先生はレントレート達の元を離れていく。
授業が終わり、レントレートが教室を出ようとすると、アイリーンさんに呼び止められた。
「ねぇレントレートさん。今度の週末、我が家が主催するパーティがあるの。来てくれない?」
「……でも子爵家のパーティに準男爵家の私なんかが……」
「大丈夫よ! むしろあなたに来て欲しいの! これなら血の契約じゃないから断る必要ないでしょう?」
「それは……」
ナナミの方を見やると、ナナミは黙って頷いた。
「じゃあ、行かせて貰おうかな」
「えぇ! 決まりね! もちろんナナミさんも一緒でいいのよ守護騎士だもの」
アイリーンさんが嬉しそうに微笑んだ。
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