3 入学式と同級生
暫くして入学式の時間になったので、レントレートはナナミを伴ってヴァンプリアナの中央にある学び舎となる城へと向かうこととなった。
寮を出る前、ナナミに呼び止められる。
「レントレート様、これを付けるように言われておりますので、お付け致します」
「あぁ……腕章か」
「はい。このような低級位を示す腕章をレントレート様に付けさせるなど無礼ですが、どうぞお許しください」
「いや、いいって。それに普段見慣れている色だしな」
腕章は真っ青な青色で、薔薇の紋章があしらわれその下に黒文字のローマ数字でⅢと書かれていた。
ナナミに腕章を付けて貰い、ナナミも同様に自分に腕章を着けるがこちらには薔薇の紋章がなく剣と盾が描かれている。
貴族と守護騎士とで違うということなのだろう。
レントレートは違いを覚えておこうと思った。
「それでは参りましょう」
「あぁ!」
ナナミと共に城へと向かったレントレートは城の門を抜けると、講堂へと足を踏み入れた。
そして同じ色の腕章毎に列を成すと、入学式の始まりを待った。
直に大きな声で「ヴァンプリアナ、学園長挨拶」という声がして、壇上へと一人の女性が上がっていき、割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
壇上に上がったのは、腰まであろうかという金髪に白色と金色のドレスを纏ったレントレートよりも少しお姉さんくらいに見える女性だった。
女性は壇上の演説台にたどり着くと、第一声をあげた。
「吸血貴族の若人諸君、ヴァンプリアナへようこそ。
我が名はミレイユ・ブラッドムーン! 早速だが諸君らにお願いがある……
言われ、レントレートは吸い寄せられるかのようにミレイユと名乗る女性の瞳を見つめた。
「……私を愛し、そして敬え!!」
ミレイユの声が響くと、レントレートはその言葉に引き寄せられるように感じた。
しかし、ナナミがレントレートの制服の裾を引っ張ったので、レントレートは我に帰ることができた。
「理解できたものは今すぐに講堂を出て、一般市民区画へと行くのだ! そこで我が眷属となるための手続きを行っている」
ミレイユさんがそう再び命じると、多くの者たちがふらりふらりと講堂を出ていく。
自分もそうしなければならないのだろうか……?
レントレートがそう思いながらおぼろげな瞳でナナミを見やると、ナナミがふるふると首を横に振った。
すると壇上のミレイユさんが再び喋り始める。
「……ふむ。残った者たちはおめでとう! 君たちこそ真にヴァンプリアナへの入学を認められた吸血貴族であり、また栄えあるその守護騎士だ! 思っていたよりも些か数が減ってしまったようだが……まぁ問題はあるまい。魅了の中級魔眼程度に
済まないが守護騎士を失った者は新たに守護騎士を探し給え。あるいは主を失ってしまったなんて者が居れば、残念だけれど新たな主を探してくれ。可能な限りヴァンプリアナとして援助することを誓おう。まぁ何にせよ、真祖を目指しお互いに切磋琢磨しながら頑張ってくれ! 以上だ!!」
ミレイユさんは笑顔でそう締めくくり、壇上を去っていく。
その後、生徒会長だという黒髪の男子生徒が壇上へと上がり、説明を始めた。
両目が髪で隠れていてその表情をうかがい知ることはできなかったが、生徒会長だけにきっとさぞ高貴な吸血貴族なのだろうと思うレントレートだった。
レントレートは頭の中で説明内容を纏める。
ヴァンプリアナでは低位の吸血貴族から順に、青い色から真紅の赤色に近づくように腕章と寮が割り当てられていること。そして定期的にある試験の結果に応じて腕章の色が変わるらしい。また試験以外にも、個人間の決闘によって腕章の交換が許されているというにわかには信じがたいことまでが伝えられた。
説明が終わり、各自解散となった。
辺りを見回すレントレートだったが、しかし青色の腕章をした生徒はほぼ全滅しているようだった。しかし、しばらく探して大分右側に離れた位置で二、三人の青色の腕章の生徒を見つけた。歩み寄るレントレート。
「やぁ……青色の腕章をした生徒はほとんど全滅してしまったみたいだね。
私はレントレート・ヴァエル! 準男爵家の出身! 残った青色同士仲良くしよう!」
レントレートが声をかけると、三人組の内の男子生徒が応えた。
「お! お前も青色か! えーっと3号寮か。俺達は2号寮!
俺はナイトハルト・ブラドーだ! 長いから友人や家族はナイトって呼んでる!
家は騎士の家系で俺も守護騎士をやってる! それと俺の主人のチエミ・ブラッドウォーカーだ!」
黒髪の清潔感ある短髪の男子生徒が自己紹介し、主へと繋げた。
「は、ハジメマシテ! チエミ・ブラッドウォーカーです。家は準男爵家です。
どうぞよろしくお願いします!」
深々と何度も頭を下げてくるチエミさんに、ナイトくんが「そんなに頭下げる必要ねーって! 相手も準男爵らしいじゃん? 公侯伯子男騎士って順番で偉いんだったろ?
公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、で俺の家の騎士爵が一番下だ。
チエミはレントレートと同じ準男爵なんだからもっと胸を張れって!」とチエミさんの背中を軽く叩く。
「ひゃい!」
と返事をしながら背筋を伸ばし、ピンク色の長い髪と大きな胸を揺らすチエミさん。
「……」
それを見ていたもう一人がぽりぽりと無言で自身の右頬を掻いた。
「あ、あのそれからこちらは先ほど式が始まる前にお知り合いになった男爵家お抱えの守護騎士さんで、名前をアデリーナさんです!」
チエミさんがそう紹介すると、 紫色の肩まである髪を耳に掻き上げながらアデリーナさんが「……よろしく」と短く言った。
「まぁ、そのなんだ。アデリーナは男爵家長男の守護騎士だったんだが、さっきの学園長の魅了の魔眼で主がやられちまってな……」
ナイトくんが気まずそうに説明する。
「……いいのよ別に、気にしないで。私としてもいけ好かない主だと思っていたのだから。それよりも誰か新しい主の当て、ないかしら?」
アデリーナさんが聞いてくる。
「ごめんなさい! 私、ヴァンプリアナに来たばかりで友達がいないんです……」
チエミさんが両手を顔の前で横に振る。
それにレントレートが「右に同じく」と答えると、一同はナナミの方を向いた。
「貴方は……レントレートさんの守護騎士よね? どうかしら、新しい主の当て、ないかしら?」
「はい、ナナミと申します。それでしたら、新入生ではありませんがケイオス家の次男坊のアルトランド様ならばご紹介出来るやもしれません」
ナナミがそう淡々と答え、レントレートは意外そうに「へぇ」と漏らした。
「え? ケイオス家と言ったら侯爵家のケイオス家で合っているかしら?」
アデリーナさんがナナミに不思議そうに問う。
「はい。そのケイオス家です」
「どんな知り合いなんだ?」
レントレートがナナミが侯爵家と知り合いであることが不思議で思わず事情を聞くと、ナナミは「孤児院でケイオス家の方に武芸を教わる機会がありまして……その際に守護騎士としてスカウトされたことがあったのですが……」と淡々と答えた。
「……それなのに準男爵家のヴァエル家を選んだの? 変わっているのね貴方。
まぁいいわ……ナナミさんアルトランド様を紹介していただけるかしら?」
「はい。お側を離れてもよろしいでしょうかレントレート様?」
「あぁ、紹介してあげてくれ。魔眼を
「はい。それでは行ってまいります」
ナナミがペコリと頭を下げ、アデリーナさんを伴いレントレート達の元を去っていった。
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