第13話
シャワーを浴び終えてリビングに戻ると、カラスさんはいなくなっていた。
急にいなくなるような人ではないため、髪を乾かしながら気楽に待っていると小さく玄関が開いた。
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました。すみません、勝手に出かけてしまって」
「黙って帰ってしまう人ではないと思っていたので大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」
「はい。ほんの少しの野暮用でしたので」
カラスさんは濡れた翼を出来るだけ動かさないようにしながら首を傾げた。
「帰ってきて来て早々で申し訳ありませんがシャワーを貸してもらえませんか?」
「勿論です!」
「ありがとうございます、お借りしますね」
カラスさんはそう言ってバスルームに向かった。
カラスさんが出てきてから、私たちは何でもない話をしながら夜を明かした。
「そういえば、カラスさん」
「はい?」
「あれから考えたのですが、やっぱり私はご主人の元に戻ることはできません」
私の言葉に彼女は何も言わない。
ただその綺麗な顔を歪ませた。
「…もう少しだけ、生まれる時代が違えば幸せになれたのかなって思ってしまいます」
「……」
「時代のせいにするのは良くないことだと分かっていても、どうしてもそう思ってしまうんです」
「お嬢さん……」
カラスさんは何かを言い淀むような仕草を見せた後、深呼吸をしてから口を開いた。
「もしも、全ての壁が無くなったとしたらお嬢さんはその人間の元に戻りますか?」
「全て、ですか」
「奴隷制の法令も、身分も、種族も全ての不安要素が取り除かれたとしたら。あなたはその人間の元に戻りたいですか」
そんなこと言われるとは思っていなかった。
でも、もし真正面からルークと向き合うことができるのならば、その時私はきっと…、
「…戻ると思いますよ」
答えは案外簡単に出た。
8年前、獣人を奴隷とする法令が出るまではルークと対等な立場で居られたのだから。
ルークの身分が高いものだとしても、それでも私にとってはたった1人の大切な人だ。
「その答えが聞けて安心しました」
カラスさんはどこかすっきりした顔で笑っていた。
「私はその言葉が聞きたかったのです」
先ほどまで振っていた雨はいつの間にか止み、太陽がゆっくり上るのが見えた。
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