第11話

それから村で何日か暮らしていると、ある問題に気がついた。


「そういえば、ルークって私に3億出したんだっけ…」


眠ろうとしていたのだが、その事実に気づいてしまって目が冴えてしまった。

それだけの額を払わせただけでなく、生活費や食費なども出させてしまっている。


あれ、これ逃げてきたらまずかったんじゃ…


「返したいけれどそんなにお金ないし…」


それでもこのまま逃げるのは良くない気がする。

何かいい折衷案はないかと考えてみるも、良い案は思いつかない。


「皆に相談したいけれど人間へのお礼の相談っていうだけで嫌な顔するだろうし…」


部屋をうろうろしながら考えていた時、机の上に置かれた綺麗なベルが目に入った。

相談に乗ってくれそうで、且つ、いい答えをくれそうな人。


「カラスさんのこと、頼ってもいいのかな」


ベルを持ち上げて思い切って振ってみる。

しかし、綺麗な音が響くだけで特に何も起きはしなかった。


「やっぱり無理か…」


ベルを元の位置に戻してからベッドに戻る。

今考えても無理そうだし、明日の自分に任せてしまおう。





玄関がノックされる音で目を覚ます。


「は~い…」


眠い目をこすりながら扉を開けると、カラスさんが立っていた。


「おはよう、お嬢さん。来ましたよ」

「え、まさか昨日の・・・」

「はい、そうです」

「ちょ、ちょっと待っててください!!お茶出しますので!!」


さすがに放置はまずいと思い、彼女をリビングに通してお茶を出す。

少し時間を貰って着替えて身だしなみを整えてからリビングに向かう。


「すみません、お待たせしました」

「大丈夫ですよ。寝起きのお嬢さんも可愛かったですし」


カラスさんは目を細めて笑う。


「それで、私に何か御用ですか?」

「えっと実は…私の、そのご主人について相談したいことがあって」

「ご主人というと、お屋敷の人間のことですね」

「そうです。…実は私は獣人のオークションにかけられていたんです。そこで、偶然居合わせたご主人に買っていただきました」

「なるほど。…おや、でもあなた方はそれだけの仲ではないように見えましたが?」

「8年前、獣人が奴隷化したあの日まで私たちは付き合っていました。でもこの森に逃げる時、どうしても離れないといけなくて…」

「・・・・・・」

「…あの?カラスさん?」


今まで相槌を打ちながら話を聞いてくれていたカラスさんだったが、獣人が奴隷化した日のことを出すと急に顔を険しくして黙ってしまった。

その代わり振りに首を傾げるとハッとしてから再び笑顔を浮かべた。


「すみません。この8年、色々あったと思ってしまって」


そう言ってお茶に口をつけると話の続きを促してきた。


「では相談の本題に入るのですが、ご主人は私を3億で買ってくださいました。屋敷から逃げ出してしまった身でいうのはおかしいと分かっていますが、何か恩返しをしたいと思っています」

「なるほど。3億ですか…」

「現金ではないにしろ、それ相応のものを用意したいのですが何かいい案はないですか?私には思いつかなくて…」


カラスさんは私の言葉に首を傾げてから大声で笑いだした。

彼女のそんな大胆な姿を見たことがなくて呆気に取られてしまう。


「あははっ、そんなことですか。それならあるじゃないですか、3億を超える恩返しの方法が」

「え、本当ですか!」

「えぇ。簡単なことです」


そう言って彼女は私の方に指を向けた。


「あなたが彼の元に戻ればいいんです。今度は自分の足で、自分の意思で」


真っ直ぐ向けられる視線に思わずたじろいでしまう。


「お嬢さんにはそれができます。あなたは許される。立場が主人と奴隷だとしても傍に居られるのです」


彼女の言葉は確かに私に向けられている。

それなのに何故か、私ではない誰かに向けられているように感じてしまうのは気のせいだろうか。


「私、は……」

「もし怖いならいつでも私を呼んでください。私はお嬢さんの味方ですから」


彼女は立ち上がり、私の前まで歩み寄ってきた。

そして綺麗な手で私の手を包み込んだ。


「カラスさんは何故ここまでしてくれるんですか」

「…幸せな人を増やしたいという私のエゴですよ」


そう言って笑うカラスさんはどこか泣きそうな顔をしていた。


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