第10話
ふと、段々と高度が下がっていることに気づいた。
「もうすぐ着きますよ」
私の視線に気づいたのか、彼女は優しく教えてくれた。
「ありがとうございます。…あの、毎晩探してくれていましたよね」
「おや、気づいていましたか」
「はい。でも私のことを探してくれているとは思っていませんでした」
「…今となっては貴女をこうして連れ出したことが良かったのか疑念が残ってしまいますがね」
彼女はどこか寂しそうにそう呟いた。
「……ルークのことですか?」
「あなたたちのことですよ」
「それって、」
「…もう少し飛びますか」
下がりつつあった高度がふわりと上昇する。
「第三者である私が言うのは烏滸がましいですが、あなた方は互いに本音を打ち明ける必要があると思いますよ」
「…もう会うこともないのに」
「それはどうでしょうね」
「……なんですか、その言い方は」
「貴女のご主人、とんでもない執着心をお持ちですからね」
「そんなわけ、」
「さて、どうでしょうね」
彼女は意味深にそう呟くとまた高度を下げ始めた。
もう村は真下だった。
「ベルナ!」
下降していくとアマンダが目一杯手を振ってくれているのが見えた。
地面に優しく降ろしてもらった瞬間、アマンダに思いきり抱き締められる。
彼女はグスグスと泣きながら、何度も「ごめんね」と繰り返していた。
「アマンダは悪くないよ」
「でも、私がベルナを1人にしなければ……」
そんな私たちをカラスの獣人は優しく見守ってくれている。
「あの、本当にありがとうございました。今更ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」
「名乗るほどの者でもないので。呼びにくければ『カラス』とそのままお呼びください」
アマンダの頭を撫でながらそんな話をしていると、遠くからブロンが走ってくるのが見えた。
「ベルナ!良かった、無事着いたんだな」
「ブロンもありがとう」
ブロンにも礼を述べると、彼はフードを取って頭を軽く振った。
それから少し悲しそうに眉を下げた。
「その、良かったのか?」
「何が?」
「…人間の、」
そこまで言って私の表情に気づいたのか、彼は口を噤んだ。
「…迎えに来てくれてありがとう。私はこれで良かったと思っているよ」
「……頑張ったな」
ブロンはそう言って頭を撫でてくれた。
獣人の間では頭を撫でることはコミュニケーションの一種だから、私も笑いながらそれを享受した。
「では、私はこれで失礼しますね。あ、そうそう」
カラスさんは私に何かを差し出してきた。
受け取るとそれは小さなベルだった。
「私を呼びたいときはそのベルを鳴らしてください」
「そんな……、そこまでご迷惑をお掛けするわけには……」
「これは私の我儘です。どうか受け取ってください」
そう言って彼女は微笑んだ。
「……では、遠慮なく使わせていただきます」
「はい。それではお元気で。またどこかでお会いできることを願っていますね」
そう言うとカラスさんは空高く飛んでいった。
彼女を見送ったのを皮切りに、各々の家から顔見知りが出てきた。
皆、私のことを心配してくれていたらしく、中には泣いて喜んでくれる人もいた。
そう、これで良かった。
例え彼のことを忘れられなくても、こうして皆とまた会えたから。
これで良かったんだ。
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