第7話


やっぱり寝れない。

暗い部屋の中、ベッドで仰向けになりながらぼんやりと天蓋を見つめる。


「元々猫は夜行性だから夜に寝るの大変なんだよね…」


本でも読もうかと体を起こして本棚まで裸足で歩く。

暗い中でも目が見えるのは利点として大きいが、それ故に見えすぎてしまうこともよくある。

そう、今みたいにカラスの獣人が夜空を飛んでいるのもしっかりと見えてしまう。

取り出しかけた本を仕舞って、気まぐれに窓を開ける。


「綺麗なカラス」


窓枠に肘をついてカラスを見上げる。

もしも私に翼があったら今すぐにでもここから出て行くのに。


「カラスの獣人は鳥目ではないらしいから夜飛んだ場合怖いものはないって本当なのね」


それにしても飛び方が少し変わっているように感じる。

まるで何かを探す様な飛び方だ。


しばらく見つめていると、カラスは急に方向を変えて飛んで行った。


「何だったんだろ」


不思議に思いながらも窓を閉めると廊下からバタバタと足音が聞こえだした。

意味もなく慌ててベッドに飛び込むと、ノックもなしに扉が激しい音を立てて開かれた。


「ベルナ!!」

「え、なに」


半ば叫ぶように私を呼んだルークは息を切らしていた。


「何が…」


あったのかを聞こうとすると、彼は私の肩を掴んで抱き寄せた。


「良かった」

「どうしたの?」

「今空に何かが飛んでいるのが見えたからベルナが連れ去られるんじゃないかって不安で」


どうやら彼も空を飛ぶカラスの獣人を見たようだ。

ただ、人間の目には何が飛んでいるまでは分からなかったらしい。


「そうだったの?ごめんね、ベッドにいたから全く気づかなかった」


何故か嘘を吐いた。

こんな嘘を吐いたって仕方ないのに。


「ううん、俺こそごめん。急に押し掛けて驚かせたよな」

「大丈夫」


肩を抱く彼の腕は震えている。

そんな状態の彼を追い出せるほど彼に無感情ではない。

いや、一瞬でも彼の元から逃げ出したいと思ったことへの罪滅ぼしか。


「ねぇ、ルーク。一緒に寝ない?」

「…いいの?」

「うん」


ルークは迷いながらゆっくりベッドに上がって来た。

そのまま2人で横になれば優しく抱きしめられる。

そういえば随分昔、それこそ付き合っていた時はこうやって2人で寝ることだってあった。


「懐かしいな」


どうやらルークも同じことを思ったようで小さく呟く声が聞こえた。


あの時よりも歪んだ関係。

見方によっては上下がハッキリした分かりやすい関係。

【主人と奴隷】

その関係性が全ての邪魔をする。


だから純粋に彼を抱きしめ返せない。


「愛してるよ」

「…私も」


求められた言葉を吐くことは出来る。

それが本心かなんて、そんなのここで問われていない。


ぐるぐると考えていれば次第に瞼が下りてくる。

ルークに擦り寄って、そのままゆっくりと夢の世界へと旅立った。

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