第6話
「ベルナ~」
聞き慣れた声と共に優しく身体を揺さぶられる。
「ん…ぅ……?」
目が覚めると私はルークの膝の上で横抱きにされていた。
一瞬、状況が呑み込めなかったが、すぐに先ほどまでのことを思い出した。
どうやらあのまま寝てしまったらしい。
「おはよう」
「……おはよ…」
彼は私の頭を撫でるとそのまま額にキスを落とした。
「さっきマツエが夕食に呼びに来てくれたからそろそろ行こうか」
「もしかしてずっと寝かせてくれてたの?」
「ベルナの寝顔見るの久しぶりだったから堪能させてもらったよ」
そう言って彼は立ち上がると私に手を差し出した。
どうやら食堂までエスコート擬きをしてくれるらしい。
ここは素直に従っておこうと手を重ねると優しく握り返された。
「ねぇ、ルーク」
「ん?」
「なんで再会した時あんなに怖い感じの口調だったの?今と結構違うよね?」
廊下を歩きながらふと疑問に思ったことを尋ねてみる。
彼は一瞬驚いた顔をしたがすぐにいつもの笑顔に戻った。
「あれでも久しぶりにベルナに会うから緊張していたんだよ。あと、外だと誰が見ているか分からないから一応ね。これでも仕事中は寡黙って言われちゃってるから」
「ルークが寡黙!?」
「時間があったらベルナを探したかったからプライベートで誰かと親しくすることもなかったしね」
そんなことを話しているうちに食堂に着いた。
扉を開けると、すでに食事の準備が整っていた。
「すみません、お待たせしてしまって」
3人に謝罪をしてルークと共に席に着く。
「今日はお魚をメインとしたメニューにさせていただきました。お口に合えば幸いです」
そう言ってリリアンさんは一礼をして下がっていく。
ルークは早速料理を食べ始めていたので私も手を合わせて食べ始める。
一口食べると、甘いソースの味に思わず感想が零れてしまう。
「美味しい」
「良かったです。先ほどまでお休みになられていたようですし、ご無理なさらないでくださいね」
どうやらマツエさんには寝ているところをしっかり見られたらしく、言葉を詰まらせてしまう。
主人の膝の上で眠る獣人を見て彼女はどのような印象を抱いたのだろう。
ルークは別として、大多数の人は獣人を奴隷として見ているから決していい印象ではないと思う。
「どうした?」
私の違和感を察したのか、食事の手を止めてルークが顔を覗き込んでくる。
「あ、いや…なんでもない」
「ベルナ」
素直に考えていることを言わなかったから気に障ったのか、圧をかけるように名前を呼ばれる。
しかしそんな圧に屈して胸中を明かすほど素直ではないため、一瞬考えて口を開く。
「…さっき寝ちゃったから夜寝られるか不安だなって思っただけよ」
「寝れないなら一緒に寝るか?」
「なんでそうなるのよ!っていうか、明日仕事じゃないの?」
「…嫌なこと言わないでくれよ」
仕事と言った瞬間、顔が暗くなるルークを見て笑ってしまう。
本当は私も仕事をしたいのだがルークに買われている今、それは難しい。
「ベルナと一緒に居たい…仕事行きたくない」
「また休みの時に沢山話そうよ。それで良くない?」
「良くないぃぃぃぃ…」
「はいはい、早く食べて」
そう言うと彼は再び手を動かし始めた。
マツエさんがその様子を微笑ましそうに見ていたのは見なかったことにしておこう。
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