第4話


この屋敷で暮らし始めてから約1カ月が経った。


暮らしてみて分かったことは、屋敷では使用人を最低限しか雇っていないということとルークは国の中でも相当立場が高い役職に就いているということだった。


「ベルナ様、お食事の準備が整いました」

「あ、ありがとうございます」


ルークに貰った部屋で編み物をしていると部屋の扉がノックされ、使用人のマツエさんが顔を覗かせた。

慌てて編み物を中断させて立ち上がると小さく笑われる。


「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。それに、私たちには敬語も不要です」

「うぅ…なかなか慣れなくて…」

「まぁ、徐々に慣れていきましょう。では、食堂にご案内しますね」


マツエさんは毎食こうして食堂まで案内してくれた。

この屋敷はマツエさんとマツエさんの旦那さん、そしてお二人の3人の娘さんの計5人しか雇っていないらしい。

他の使用人を雇わないのかとルークに尋ねたところ、「人間が嫌いだから最小限にしたい」とのことだった。


食堂に着くと食事を配膳していた3人の娘さんと目が合った。

名前はそれぞれ、カスミさん、リリアンさん、マリアンヌさん。

いつ見ても美人姉妹だと感心してしまう。


「こんにちは、ベルナ様」

「「こんにちは~」」

「こんにちは。いつもありがとうございます」


椅子に座りながらお礼を伝えると、3人は顔を見合わせて笑った。


「ベルナ様~、何故そんなにお優しいんですか~」

「謙虚で丁寧な上に気遣いもしていただけるなんて…」

「ルーク様がベタ惚れなのも頷けますね」


うんうんと頷き合う3人を見かねたのか、マツエさんが手を叩いて注目を集めた。


「ベルナ様のお食事が冷めてしまうでしょう。早く配膳しなさい」

「「「は~い」」」


マツエさんの言葉に従ってカスミさんとリリアンさんは配膳を始めた。

マリアンヌさんは私の向かいに食器を並べ始めていた。


「…あの」

「どうされましたか?」

「もしかしてルークも一緒に食事を?」

「はい。本日は休暇を取ったと伺っていますので昼食の準備をさせていただいております」


ルークの予定などは一切知らされていないため、マリアンヌさんに言われて初めて知った。

仕事が忙しいのか食事を一緒に取るのはなんだかんだ言って初めてだった。


「お待たせ致しました」


考え事をしていると目の前に野菜のスープやパン、サラダなどが運ばれる。

毎食栄養に関してしっかりと考えられたメニューで本当に有り難い。

食事を始めていると、少ししてから眠そうなルークが食堂に入って来た。


「「「「おはようございます、ルーク様」」」」

「おはよ」


4人は声を揃えてルークに挨拶をする。

こういう場面を見ると使用人という仕事の大変さがよくわかる。


「ベルナ~」


彼は寝起きなのかいつもよりもふわふわとした口調で抱き着いてきた。

そのままスリスリと頬ずりをされ、髪や耳にキスをされる。


「ルーク、今食事中だから…」


指摘してもなお抱き着いてくる彼を離そうと力を入れるもびくともしない。

それどころかマツエさんを筆頭に皆から生暖かい視線を向けられる始末だ。


「ちょ、あの…」


顔に熱が集まるのを感じていると、急にルークが尻尾に触って来た。


「ひぅ…!?ちょっと!何するの!!」

「……ベルナ、あとで俺の部屋に来てくれるか?」

「え?」


急にそんなことを言ってきたかと思ったら、彼は向かいの席に座って食事を始めた。

あまりの訳の分からなさに4人の方向を見るも、全員驚いた顔で首を横に振った。


それからの食事の味がしなかったことは言うまでもない。

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