第3話
建物の外に出ると、止められていた馬車に乗せられる。
御者に合図を出した彼は動き出したことを確認してから口を開いた。
「そんなに怯えないで。取って食ったりしないよ」
「……どうしてここに?」
「ベルナを迎えに」
愛おしそうに細められる彼の目がどこか怖くて思わず目を逸らしてしまう。
「わ、私は……あなたを裏切った」
「……」
「あなたのことを、信じ切れなかった」
愛していたのに。
愛されていたのに、信じ切れなかった。
その事実に苦しくなってしまい涙が零れる。
「もういいよ。ほら、泣かないで」
そう言って彼は優しく私を抱きしめた。
二度と感じられないと思っていた彼の温もりに嗚咽が止まらない。
「ベルナ」
名を呼ばれるだけでこんなにも嬉しいなんて知らなかった。
「俺の名前も呼んで」
「ルーク」
「うん」
「ルーク、ごめんなさい」
「いいよ。…それよりも聞きたいことがある」
「なに」
顔を上げると熱に濡れた瞳と目が合った。
「今でも俺のこと好き?」
答えられずに俯くと彼は私の頬に手を当てて上を向かせた。
「俺は今でもベルナのことが好きだ」
「……でも、」
「俺は裏切られたとは思っていないし、ベルナがこれから傍にいてくれるのなら何だっていい」
彼は私の目を見て嬉しそうに言葉を続けた。
「帰ろうか、俺たちの家へ」
「え」
彼は今、なんて言った?
俺『たち』の家?
「ま、まって」
「ん?何か問題でもあったか?」
「私たち、人間と獣人でしょ。今の制度では一緒には居られないわよ」
そう告げれば彼は目を丸くして、それからくすくすと笑った。
「何言ってるんだ?俺がベルナを買ったんだからずっと一緒に居られるよ」
その笑顔は私が今まで見た中で一番楽しそうなものだった。
思わず、怖いと思ってしまうほどに綺麗な笑顔。
「まぁ、俺は恋人でもご主人様でもどっちでもいいけど」
本能的に悟った。
今だけでも従順にならなければならない。
彼は私に信じてもらえなかったことに対しては全く怒っていない。
彼が怒っているのは私が『彼の元から逃げ出したこと』だ。
「どうした?」
「なんでも、ない」
そう答えると彼は満足そうに私の頭を撫でた。
丁度その時、馬車が止まる。
窓から外を見れば驚くほど豪華なお屋敷が建っていた。
「ほら、早く入ろう」
「ここ、ルークの家なの?」
「そうだ。外装が気に入らないなら今度変えるから遠慮なく言ってくれ」
手を引かれるまま馬車を降りると家の中へと案内された。
1階はリビングやキッチンなどがあり、2階は客室や書斎などがあるらしい。
ルークは1階の説明もそこそこに2階に上がると、沢山ある扉の内の中でも特に綺麗な扉を開けた。
「この部屋はベルナの部屋だから好きに使って」
「え……」
「クローゼットの中はベルナの服が入ってるから好きなの着ていいし、何か足りないものがあればすぐに言ってくれ」
そう言って彼は私の腰に腕を回した。
白色を基調とした部屋には家具だけでなく、装飾品も沢山あった。
しかしそれが邪魔をしているわけではなく、上品さな雰囲気を作っていた。
いつからこの準備をしていたのだろう。
埃1つ落ちていないが、私が今日捕まるなんて私自身も予想していなかった。
まさか、ずっと前から…?
「ベルナ、愛してる」
後ろから優しく抱きしめられて彼の声が鼓膜を震わせる。
「もう離さないから」
その言葉に私は頷くことしかできなかった。
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