第2話
それからどれほどの時間が経ったのだろう。
男たちは私を誰かに引き渡すとさっさと立ち去ってしまった。
それからもう何時間も拘束されたまま放置されている。
「おい、起きろ」
そんな声と共に目隠しと足に巻かれていた縄を解かれるが、首輪と手首に巻かれた縄は解いてもらえないまま立たされる。
どうやら暗闇のようだが、猫目の私には周囲の状況がよく見えた。
ここには獣人が何十人も集められている。
種族も性別も違うし、中には明らかに怪我をしている獣人もいた。
そんな悍ましい環境に小さく悲鳴が漏れた。
「ここは…」
「獣人専用のオークション会場だ。大人しくしてろよ」
半ば引きずられるように連れていかれた先には思わず目を細めてしまう程の光が溢れていた。
「さぁ、続いての商品は見目麗しい猫の獣人!」
司会の声がよく聞こえる。
私が連れられるままに舞台に立つと割れんばかりの拍手と歓声が上がった。
「まずは1000万から」
司会の声を合図に観客席から番号がかかれた札がいくつも上がる。
「2000!」
「3000!!」
「5000!!!」
「7000!!!!」
どんどん上がっていく数字に観客の興奮が収まらない。
私がここで出来ることは何もない。
目を閉じて息を吐いた時、聞き覚えのある声が会場に響いた。
「3億」
一瞬で水を打ったように静まり返る会場。
思わず目を開けると会場の1番奥の席に札が上がっているのが見えた。
札を上げて金額を宣言した男がもう一度口を開く。
「司会、宣言はしたんだ。さっさと進めろ」
「え、あ、はい。…え、えっと、3億が出ました。他にどなたかいらっしゃいますか」
誰も動かず、歓声1つ上がらなくなった会場に締め切りを知らせるガベルの音が響いた。
「3億で、落札が決まりました…」
まさかの結果に呆然としていると後ろから従業員らしき人物に声をかけられる。
これから引き渡しの手続きがあるらしく、連れられるまま舞台から下がった。
あれから迷路のような道を歩かされ続けて数分、従業員は急に1つの扉の前で足を止めた。
ノックと共に「連れてきました」と従業員が声をかけると扉は内側から開錠された。
「お待たせしてしまっている。早く引き渡しなさい」
「承知いたしました」
短いな会話だがそれで十分らしく、従業員たちは私に部屋の中に入るように命じた。
小さな部屋に設置された椅子には彼が座っていた。
美しい金髪に水色の瞳を携えた見目麗しい男性。
彼のことはよく覚えている。
忘れたくても忘れられなかった。
「ベルナ」
名前を呼ばれて体が震えた。
喜びではなく恐怖という意味で顔を上げられない。
そんな私の様子を見て、彼は小さく笑った気がした。
「場所を変えようか」
そう言って彼は私の手の自由を奪っていた縄を解くと、手を引いて部屋を出た。
従業員たちは一礼してから去っていった。
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