第1話

それから8年が経った。

今も仲間は森の奥で静かに暮らしている。

種族は違えど喧嘩はなく、皆で協力し合いながら平和に暮らしていた。


「ベルナ~。次の買い出し私たちみたいよ~」

「え、もう?」

「最近子どもたちが食べ盛りなんだって」

「あの子たちよく食べるもんね。分かったわ、すぐに準備するから少し待ってて」


村の子どもたちは6歳前後の子が多い。

森に避難して、生活が安定してきた辺りから所謂ベビーラッシュが到来した。

今では村の中心で遊ぶ子どもたちの元気な声が毎日聞こえている。

その声を聴きながら鏡を見て身だしなみを整える。

尻尾を隠す用のスカートに、猫の耳を隠す用の大きな帽子を被れば人間と見分けがつかなくなった。


「お待たせ、アマンダ」

「気にしないで。じゃあ行きましょ」


雑談をしながら街へ向かう。

鳥類の獣人や顔に特徴が出ている獣人以外が当番制で街に食材を買い出しに行くルールがあるおかげで今のところ飢えることなく皆で生きて来られた。

街に近づくにつれ、喧騒が鮮明に聞こえてくる。

今日は休日らしく、前回来た時よりも人が多い気がする。


「人が多いわね…」


アマンダも同じことを思ったようで思わず零れたらしい言葉に何度も頷いて帽子を目深に被る。

こんな中で帽子が取れたらとんでもないことになってしまう。


「早めに買って帰ろうか」

「そうね」

「じゃあアマンダは野菜をよろしく。私はそれ以外のものを買ってくるわ」

「分かったわ。終わったらいつもの噴水前で集合ね」


その言葉と共に別れて足早に買い物を済ませる。

本当はもっといい食材を選びたいのだが、今日はそんな余裕が無い。


買い物を終え、足早に噴水前に向かうとアマンダが複数の男に絡まれていた。


「アマンダ!」

「ベルナ!来ちゃダメ!」

「なんだ?お~、可愛い子が増えたじゃねーか」


男たちは気持ち悪い笑みを浮かべながら近づいてきた。


「俺たちと一緒に遊ぼうぜ」

「結構よ。私たちは暇じゃないの」

「そんな事言わないでさ~」


そう言って男の1人が腕を掴んできた。


「離して」

「おーおー、気が強い。ノラ猫みたいだな」

「……アマンダ。先に帰ってて」

「でも、」

「私なら大丈夫だから」


涙目のアマンダに食材を渡す。

何度も首を横に振る彼女の背を押して私は腕を掴まれたまま裏路地に連れ込まれた。


行き止まりに追い込まれ、壁に叩きつけられる。

その衝撃で帽子が地面に落ちてしまった。

隠されていた猫の耳が現れ、それを男たちは凝視したが数秒後には汚い笑い声をあげ始めた。


「なんだ、獣人だったのか」

「獣人は高く売れるからなぁ」

「大人しくしとけよ。暴れたらどうなるか分かるよな?」


そう言って1人がナイフを私の首に突きつける。

恐怖に震える体を抑え、男たちを睨む。


「お?なんだその目、まだ諦めてないのか?」

「威勢がいいのも今のうちだぞ」


何処から取り出したのか、男たちは縄で手足を拘束して布で視界を遮ると私を担ぎ上げた。

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