第45話 二日目④


 順番にお風呂に入った後、濡れた髪のままのヒューが「魔力みせて」と言って私の手を取りながら、「昨日言ってた温風大作戦やってみる?」とワクワクした顔で聞いてきた。


「あ、やってみたい!」


 私がすかさずそう答えると、そうしようってヒューも笑った。

 ヒューはゲストルームにある自分の荷物の中から手帳と書くものを持ってきて横に置き、再度私の手首を包んだ。


「風の魔力はいつ頃、誰に入れて貰ったの……?」

「お義姉さんの……、あ、ジェス兄さんのお嫁さんの魔力で、三年前ぐらいかな? のせてくれたのはジェス兄さん」


「のせたのって一回だけ?」

「うん」


「……一回でだけでこれかぁ、すごいな。風の魔力はよく使ってる?」

「ううん、だってずっと自分の魔力なかったから」

「あーーーーーー、ん……、そっか」


 ヒューは考え込むように目を閉じて、そして唸った。右手だけ離して、ペンの蓋を口にくわえて外し、手帳に数字を書き込んだ。


「それって……?」

「あ、なんとなくどの辺りにあるのかメモってる。番号は身体の場所。俺が勝手に割り振った番号だから他では使われていないと思う」


「身体のどの場所にあるかによって使い方って変わるの……?」

「俺はそう思ってる。たぶん、その人の身体の場所によって相性とかもあるんじゃないかなと思っているけど、まだ仮説」


「そうなんだ……」

「メインじゃない魔力の場合、使いやすい場所に移動させてから使うと負担が減るかなと思うのと。次にみた時に前回と同じ場所にあるのか移動しているのかもみておくと、その人のクセがだんだん解ってくるから」


「……それもフィーと色々やってみて見つけたことなの?」

「そう。あとは訓練場で指導補佐をしていたから、そこでデータをとってた」


 ヒューはすらすらと手帳に数字や文字を書いてから、再度私の手首を包んで言った。


「風の魔力と、火の魔力を手前に移動させたから。これで出しやすくなると思うんだけど。どうかな」


 ヒューは私の手を自分の髪まで導き、手を離した。

 そのままヒューの手は私の背中へ添えられた。


「ゆっくり弱めの出力で、混ぜ合わせるように出してみて」


 イメージと。周りにある空気への感謝と、ヒューの髪を乾かしたいと思う気持ちと、フィーが見せてくれたあの綺麗な炎の色をぐるりと混ぜて、手のひらに熱を集めた。

 ふわっとヒューの髪が揺れて温かくなっていったから、ゆっくりと指を動かしていって、少しずつ髪を漉きながら乾かした。


「すごい! 乾いたね、出力量も使い方もばっちり」

「うん。できた……! うん」


 私の背中にあるヒューの手のひらから、更に魔力が整えられているのが伝わってきた。

 使いやすく整えられていることにとても安心感をおぼえた。呼吸がしやすくなったような気がした。


「じゃあ、明日は乾かしてから、更に一回濡らしてもう一度乾かすのをやってみよう。……これを極めれば寝癖直しも一発だね!」


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魔力がなかったので能力を磨いてみたら、新しい幸せに巡りあえそうです! 泳ぐ。 @oyogu_swimswim

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