第42話 二日目。
朝。いつもの時間に目が覚めていつものように寝室から出ようと扉を開けると、美味しそうな匂いでいっぱいになっていることに驚いた。そっか、ヒューがいるんだ。
慌ててリビングの扉を開けると、
「あ、ニナ、おはよう!」
驚いて入り口で佇む私を、キッチンからササっと移動してきた笑顔のヒューが、私の手をとりテーブルまで誘導してくれた。椅子をひき、座らせてくれる。なんか急にすごい。
「……ニナ、朝ごはん、作ってみたんだけど食べられる? もし仕事の日は食べない派だったら、俺が昼に食べるから大丈夫」
「あ、食べたい! ありがとう。ヒューの分もあるよね? 一緒に食べよう。……ちょっと待って、すぐ顔洗ってきちゃうから」
「うん。パンは何枚食べる? 焼く? そのままがいい?」
「あ、焼いたの一枚でお願いしたい!」
「はーい」
顔を洗ってテーブルに戻ると、焼いたハムと目玉焼きからは湯気が立ち上り、トーストと野菜も添えられていた。そういえば昨晩もヒューは手際よく手伝ってくれていて。その時にだいぶ観察したんだろうなぁと今ならわかる。
「わ、美味しそう! ありがとう、いただきます」
「南部の屋敷で食べていた朝ごはんとほぼ同じものにした、それなら食べられるかと思って。食材勝手に使ってごめん、補充した方がいいものがあったらニナが仕事行っている間に買ってきておくから言って」
「大丈夫だよ。卵、これで最後だった?」
「うん」
「あ、じゃあ今日仕事終わったら買ってくるね」
「俺買いに行ってもいい? 今日は街を色々見て歩きたいからついでに行ってくる。昨日地図見ながら教えてくれたいつも食材を買っているお店でいいんだよね?」
「そうそう。そこで食べたいものとか、作りたいものの材料とか何でも買って? お金先に渡しておこうか?」
「いい、いい。泊めて貰っているんだもん、それぐらい自分で出すよ」
「ありがとう。……この卵もハムも熱々で美味しい」
「家でね、厨房のスタッフに料理を習って。時間が決まっていない時は、完成の少し手前まで作っておくといいよって言われたからそうしたの。だからちょっと卵かためかな」
「そうなんだ。美味しいから大丈夫、かためだとパンにのせやすくて好き」
「ふふ、良かった」
私の家で過ごす初めての朝だったけど、初めてじゃないみたいだったことに驚いた。
仕事に行く時間を気にしながら、朝ごはんを食べ終えた後にいそいそと仕度をして。スペアキーをヒューに渡して、仕事が終わったら通信機に連絡を入れること、何か困ったことがあったらいつでもすぐに連絡をしてと伝えた。
ヒューは大きく頷いて、私の手首を包んで魔力を整えてくれてから「いってらっしゃい」と言った。
私は自分の家でそう言われることが新鮮でくすぐったいような気持ちになりながら、今日の仕事は早く終わらせようと駆け足で職場に向かった。
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