第41話 一日目⑤


 お風呂から上がると、先に入っていたヒューが微笑んで言った。


「ニナ、可愛い。寝起きは南部のお屋敷で見たけど、お風呂上りは初めてだね」

「う。やだやだ、見ないで」

「なんで? 可愛いのに」


 ソファの上でヒューは両手を広げて私がくるのを待った。私は顔を見られるのが恥ずかしいのに、でも一緒にいたくてその腕に飛び込み、ヒューの胸元に額をつけて顔を隠した。

 ヒューはふわりと私の濡れた髪を撫でて、タオルで拭いて、


「あ、ニナの髪、乾かすのある? 俺やってみてもいい?」


 ウキウキとした顔でそう聞くから、私は頷いてタオルで顔を隠しつつドライヤーを取りに行った。

 ドライヤーに魔力を込めて使い方を説明すると、ヒューは私を自分の膝の上に向かいあうように座らせて、ゆっくりと私の髪に温風をあてながら


「……これであってる? 熱くない?」


 恐る恐る不安そうに何度も聞いた。「実家ではどうやって髪を乾かしていたの?」と聞くと


「姉さんが魔力で乾かしてくれていたから、これ使ったことないんだ」


 と言った。よく見ると、今のヒューの髪も半乾きなままだった。

 ヒューの指が私の髪を熱風にあてながら、やさしくとかしてくれるその動作が何度も繰り返されて。くすぐったくて嬉しくて、いいなって思って顔がほころんだから。


 私も指をヒューの髪に絡めて魔力で小さく風を送って、ヒューの髪が冷えないよう、ただ綺麗に乾ききるように祈った。


「……温風出せるといいね。こないだフィーに火の魔力入れて貰って熱湯は出せたから、訓練すれば出来るようになるかな?」

「お! 応用編。それが出来るように魔力を整えてみるから、明日やってみようよ」

「うん!!」


 ヒューに髪を手櫛ですいてもらいながら、頭もぽんぽんと撫でられて、時々キスもしながら私たちは笑いあった。

 こんな日がずっと続けばいいなと心から思った。




「ここでニナと過ごせて本当に嬉しい。ありがとう。夜も朝もホテルで過ごすと思っていたから……、ニナもその予定だったよね。仕事もあるのに本当にごめん」


 そろそろ寝る時間……と思った時に、ぽつりとヒューが言った。

 そして私から顔を隠すようにふわりと抱きしめて


「本当はこのままニナと一緒に眠りたいけど、今日は急なことすぎると思うから……。俺はこのままゲストルームで寝るね。……あの、えっと、今日でも明日以降でも、ニナがもしいいと思ったらいつでも来て? 夜中でも明け方でもいいから」

「……うん」


 私も同じように顔を上げられなくなって、ヒューの背中に回した腕でぎゅうぎゅうしがみついた。

 このむず痒いような気持ちに、どうやったら慣れていけるのか世の中の先輩方に聞いて回りたくなってしょうがなくなった。


 

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