第40話 一日目④


 想いをのせるかのように私を抱きしめるヒューの腕は大きくて、広い胸の中に私を閉じ込めるのは容易そうだった。

 私は緊張と照れとでソワソワする心が落ち着いた頃、ヒューの胸に顔をうずめたり、心臓に耳をあてて音を確認したり、ヒューの首筋にキスをしたりするたびに、私の動きを探りながら不器用そうに腕を彷徨わせるヒューが可愛いなと思った。


 同じ気持ちなんだということを確かめ合って、嬉しくて笑って、やっと触れ合えたことに満たされて。見つめ合って微笑んだ瞳を見てすぐに、ヒューの唇が私の額に触れて。ゆっくりとついばむように唇に落ちてきた。


 一人で眠る夜に何度も思い出した感触と熱さと、溢れだしそうになる気持ちが二人ぴったりと重なったような気持ちになった。


 キスの後、嬉しそうに微笑んだヒューが私の両頬を包んで


「嬉しい。ニナ、大好き」


 そう言うから、私はつられて微笑んで。ヒューの瞳にかかる黒髪を指先でかきあげた。

 ヒューはくすぐったそうに口元は笑ったまま、片目を少し細めてより優しい顔で私を見たから。私はヒューのその顔がとても好きだなと思って、やわらかな黒髪をわしわしとたくさん撫でた。

 ヒューの長いまつ毛も、形の良い鼻筋も綺麗な唇も近くでよく見えて嬉しくなった。


 ヒューは私の両頬を大きな手のひらで包みこんだまま、小さなキスを私の唇に落としてすぐ


「ニナ、魔力みていい……?」


 と幸せそうな顔をして聞くから、私はゆっくりとヒューの髪から両腕をおろすと、手首を前に差し出した。ヒューはゆっくりと大切そうに私の手首を下から手のひらで包んで、静かに目を閉じた。


「……魔力を起こしてから何か変わったこととかある?」

「うーーーん、兄さんの魔力をのせて貰っていた時は、頻繁には北にも帰れないし多くはのせて貰えなかったのもあって残量を気にしながら使っていたけど、今はそれが無くなって便利!」


「そ、そうなんだ。体調とかは?」

「魔道具を使うのに魔石を買わなくてよくなったのか助かるんだけど、すぐにお腹がすくようになったかな。あと一気に使うとすごく眠くなったりとかするかも」


「なるほど。でも馴染んでいるようで良かった。ニナは魔力が人より少し多目だから慣れるまで大変かなと思っていたけど。夜中に目が覚めちゃうとかない……?」

「あ、それはないかな。むしろ眠くなるからよく寝ちゃう感じ」


「ほほう。お兄さんの魔力を使っていた時から魔力があることへの馴染みはあったのかもね」

「そうなのかな」


 ヒューが包んでくれる手首から、ゆっくりと自分の内側から整えられていく感じがひどく懐かしくて心地よくてふわふわとした気持ちになった。

 内側から整えられて透き通っていくような感覚でいっぱいになる。

 これはまるで素敵な魔法にかけられたかのようで、きっと明日もこの感覚がほしくなるような気がして。次に離れる日を思うと少しだけ心が震えた。


「この【吸収】の能力はすごいね、この感じ、離れられなくなっちゃいそう……」

「本当? そう思ってくれる……? 離れられなくなっていいよ」


 ヒューがニィィと、してやったりな顔をした後に、ふふふふと笑った。

 愛おしさと心地よさがセットで目の前にあるこの幸福に、くらくらと眩暈がしそうだった。


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