第36話 青白。
南部からの長距離列車が到着して。列車のホームからは、続々とたくさんの人が改札口に向かって歩いてくる。しばらくその人の波を見ていると、奥に頭一つ背の高い人がやっと見えた。ヒューだ。
たくさんの人がゆっくりと進んでくるその人の波の中で、まずヒューの黒髪がはっきりと見えて、その後きょろきょろと人を探すように揺れる赤い瞳がはっきりと見えてきた。ヒューが中央に来た。
少し不安そうな瞳と表情と、手にしたメモを交互に見る姿が愛しくて暫く声を掛けずにただ見ていた。
きょろきょろと動く赤い瞳がこっちを向いた時、ひらひらと小さく手を振ると、ヒューの顔がぱぁっと明るくなって途端に笑顔になった。そのやわらかい表情に、私は自分の胸がとくんと鳴ったのを受け止めた。
ヒューが無事に中央に着いて、笑顔を見せてくれたことが何より嬉しかった。
そう思えたのも束の間、慣れない手つきで改札を出たヒューに駆け寄ると、驚くほどに顔が真っ青だった。ヒューは少し浅く荒い呼吸を繰り返し、私を見て気丈に微笑んだ後、
「ニナ、久しぶり。会えて本当に嬉しいよ。……あの、ごめん。すぐに他に人のいないところに行きたいんだけど……、あぁ、えっとあの、変な意味じゃなくてちょっと体調が……」
背の高い身体が今にもふらりと倒れてきそうなぐらいふらふらで、ひとまず私が寄りかかっていた建物の壁をヒューに譲って寄りかかってもらった。
「大丈夫? 疲れ? 気持ちが悪い? 頭が痛い?」
「本当にごめん、人込みに酔ったのかな……、ちょっと気持ちが悪くて。……この紙に書かれているホテルに宿泊予約を入れているから、そこまで最短でどうやって行ったらいいかだけ教えてくれる?」
ヒューから紙を預かると、そこに書かれていたのは商会の近くの私がおすすめしたホテルだった。
ここなら商会のお客さんが来る時によく手配しているのでどうにでもなる。
「わかった。商会の馬車を借りてきていて外に待たせているから、それで行こう。その前にお茶があるけど飲む? 温かいのと冷たいのとどっちがいい?」
「……ありがとう。冷たいお茶を少しだけ貰える?」
「うん、わかった」
私は自分の水筒のお茶に氷を出して入れて、からんからんと振ってお茶を冷たくしてヒューに渡した。ヒューはよろよろと力のない腕でお茶を一口飲むと「ありがとう」と言って少しだけ微笑んで、もう一度壁に寄りかかった。
「落ち着いたら馬車まで案内するから言って。そこを出てすぐだけど、歩けそう?」
「……うん、大丈夫。本当に久々に会ったのに格好悪くてごめん」
「何言ってるの! 体調が悪い時はしょうがないじゃん、大丈夫、甘えて?」
私がヒューの背中をさすりながらそう言うと、ヒューは困ったようにゆるく微笑んで荷物を持ち直し、出口の方へ視線を向けた。
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