第35話 中央。
あっという間に、南部から中央へ戻ってきて二週間が経った。
ヒューからは通信機に時々連絡がきて、でも向こうから連絡がくるときは大抵フィーが話すことが多かった。フィーはいつも可愛かった。私からかける時は、だいたいいつもヒューは一人で、ゆっくりと言葉を紡ぎ、途中無言が暫く続いて、いつも「ニナと話せて本当に嬉しい」そう言ってくれた。
ある日仕事を終えて家でゆっくりしていると、通信機が鳴った。
ヒューからだった。
「仕事の引継ぎが一段落ついたから、来週そっちへ行きたいんだけど……。いつなら都合つくかな?」
遠慮がちに小さな声でそういうヒューに返事をする前に、いよいよか……と思った。
ヒューから伝えられた熱を思い出すたびに、本当に来るのかな? と不安になる時もあった。それと同時にあの優しい雰囲気の南部で、ヒューがそのまま幸せに過ごすことが一番いいのではないかと思う日もあった。
私は自分の中の気持ちを押し殺して、淡々と来週の自分の予定を伝えた。
ヒューはゆっくりと考えたような沈黙の後で「出来れば最初は一週間ぐらい滞在したいと思ってる。中央へ行く列車の切符と、泊まるところの手配をしてまた連絡する」と言って通信機を切った。
私は自分より年下の子が故郷を出て、自分の住んでいるところまで時間をかけてくること。その重さに緊張が走る背中と、またあの熱を直接伝えあえるんだという期待、あの南部での一週間が嘘ではなかったんだという喜びと全てが織り交ざった気持ちの中に居る自分に戸惑った。
ちゃんと誠実に向き合うこと、冷静に自分の気持ちを確認すること。
南部で交わした言葉の一つ一つと、通信機でのやりとりの一つ一つを思い出しながら、自分がここでヒューに何をしてあげられるかを考えた。
ヒューの到着を楽しみに思う自分も間違いなく自分の今も素直な心だということを認めると、いつも以上に仕事が捗ったことを不思議に思ったりした。
それからヒューは驚くほど手際良く中央への滞在の手続きを取り、本当にやってきた。
昼過ぎの到着だったので仕事を午前中で終わらせて、商会の馬車を借りて中央の列車の駅まで迎えに行った。
列車の到着時間よりだいぶ前に駅に着いた私は、馬車の中でソワソワとメイク直したり水筒に入れてきたお茶を飲んだりした。
兄さんたちがこんな私を見たら指をさして大笑いしたに違いない。
列車の到着時間から五分ほど経過した時に通信機が鳴って。
「到着しました」
そう告げる緊張したようなヒューの声が、今まで通信機で話していた時よりも近いように感じて。
私は列車から出てくるたくさんの人の波の中、背の高いヒューをソワソワと探し続けた。
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