襲撃

第13話

 丸田公園に待機していた機動隊は特科車両隊の隊員を残して全て出動しており、園内は静かだった。


 楽一は全速力で走り、銃器運用部隊が待機している人員輸送車に飛び込む。


「総員。武装して待機だ!」


「分かっています」


 車内では、各々の武器を持って戦闘準備を整えた隊員たちが、すでにテロリストの襲撃に備えて待機していた。


 楽一は判断力の高い部下たちに心強さを感じつつ、アサルトスーツの上から防弾ベストを着込んで、棚に置かれている短機関銃を持ち上げる。


「やはり暴徒は陽動っすかね?」


 西田副隊長は楽一隊長にそう聞く。


「その可能性が極めて高いな。となると、向こうの攻撃目標は機動隊の指揮所が設置されているここ丸田公園だろう」


 楽一は防弾ベストの弾薬ポーチに短機関銃用と拳銃用の弾倉を押し込みつつ、緊張した口調で言った。


 現在、丸田公園は守備に当たっていた機動隊員の大半が出動しており、残存している部隊は、銃器運用部隊を除くと特科車両隊が一個小隊のみとガラ空きの状態だ。


 そして特科車両隊の隊員は車両の運用が主な任務で、個人の戦闘能力は他の常設機動隊に比較するとやや劣る。


 テロリストや暴徒にとっては、丸田公園を襲撃する絶好の機会というわけだ。


「じゃあ俺は指揮車の方に行く。襲撃があった時、あそこに守備があった方が都合がいいだろう。それに、指揮車がやられたらこっちの負けだしな」


 岩水は防弾盾を持ち上げつつ立ち上がる。


「待て岩水。銃器運用部隊の隊員は全員ここで待機だ。勝手に外を出歩くことは許可できない。バラバラに行動して各個撃破されたら洒落にならないし、ここにいれば少なくとも初動で銃器運用部隊が殲滅されることはないだろうからな」


 楽一は緊張を押し殺し、可能な限り普段通りに振る舞う。だが、その表情は確かに緊張と殺気を孕んでいた。


「だがテロリストはほとんど大学内にいるんだろ?それなら、たとえ攻撃があってもせいぜい拳銃持った素人ぐらいだろ。それなら俺一人で十分だ」


 岩水はそう豪語する。


 実際、力自慢が多い機動隊内でも並外れて屈強な体を持ち、防弾盾を巧みに操る岩水にとって、拳銃程度の武装など脅威にもならない。


「そうとは限らないよ。向こうの規模は未知数だし、人質の赤鋼教授は防衛装備庁とも関わっている重要人物だ。犯人が海外の特殊部隊とかだったら、というか海外の特殊部隊なんだろうけど、普通に重機関銃ぐらいは来てもおかしくないね」


 美梨は、ナイフを指先でクルクル回しつつ言った。


「美梨の言う通りだ。可能な限り警戒を緩めずに」


 次の瞬間、狙撃銃を抱き抱えるようにして座席に座りぼんやりと窓の外を眺めていた静海が声を上げた。


「みんな伏せて!」


 普段は無口な静海の大声に隊員たちは驚いたものの、すぐに反応して伏せる。


 直後、人員輸送車の窓が一斉に砕けた。


 重たい発砲音が連続して鳴り響き、隊員たちの鼓膜を殴る。


「まさか本当に重機関銃が来るとはね!冗談のつもりだったんだけど!」


 美梨は壮絶な笑みを浮かべて声を上げる。


「冗談言っている場合か!総員戦闘開始!ガスグレネードで射線を切れ!」


 楽一は素早く、重機関銃の発砲音に負けない大声で命令を下す。


「分かっているよ」


 美梨は人員輸送車の床に転がっている箱を開けて中からガスグレネードを一つ取り出すと、素早くピンを抜いて投げた。


 投擲されたガスグレネードは芝生の上に転がり、もうもうと白い煙を吐き出す。弾幕が少しだけ弱まった。


 楽一は少しだけ顔を上げて、車外の様子を確認した。


 公園の入り口付近に、薄汚れたトラックが停車していた。その荷台には三脚の銃架で重機関銃が設置されており、拳銃を腰に吊ったテロリストが引き金を引いている。


 警視庁特科車両隊の車両が12.7ミリの豪雨に打たれ次々と破壊されていく。回転式拳銃で応戦する機動隊員は、圧倒的な重機関銃の火力を前に次々と射殺され、ズタボロの死体が公園中に転がった。


 楽一は重機関銃が別の方角を攻撃している隙に窓から少しだけ顔を出し、短機関銃を構えて照準器を覗き込む。


 照準器の赤い点が、重機関銃の射手にピッタリと重なる。緊張と殺意と冷静を混ぜたような射手の表情は、一流の戦闘員が持つそれだった。


 楽一は一切躊躇することなく、引き金を引いた。


 重機関銃を操作していた戦闘員は頭を撃ち抜かれてトラックの車内に倒れる。その手が引き金から離れ、重機関銃の弾幕は途絶えた。


 数秒後、今度は自動小銃や対戦車ロケットランチャーを持ったテロリストたちが、続々と公園内に走り込んできた。


 重機関銃に気を取られているうちに、公園はテロリストによって包囲されていたらしい。


 園内へと入ってきたテロリストたちは、重傷を負ったり死亡したりして動けずにいる機動隊員に駆け寄ると、頭に一発撃ち込んで確実にとどめを刺していく。


 その動きはプロのそれだった。


 楽一は接近してきたテロリストたちに気づかれないよう素早く車内に伏せると、仲間に指示を出す。


「指揮車に向かうぞ。あそこが破壊されたら、我々の負けだ」


「了解」


 銃器運用部隊の隊員たちは一斉に頷いた。

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