最後の旅路
エース到着
なさけないことに、最初にダウンさせられたのは俺だった。
デーモンキングが肉薄して、シラカバの盾をかざして走れ周防くん、とさけんだまではおぼえてる。
目をさましたら壁ぎわでたおれてて、鬼城さんがファーストエイドよりもつよい回復魔法のメディキュアをぶつけたらしい背中にかけてくれてた。
たぶんさいごの回復魔法だ。
反射的に盾をかまえながらまわりをみると、店長とギムさんは地面に倒れてた。
「やべ。何分寝てた?」
「30秒っす。もう回復ないから、覚悟決めてくださいよ!」
周防くんがふたたび鬼城さんを背おう。
このメンバーで秒殺かよ。
「クソ! 行ってくれ! 出口についたらそのまま地上に逃げろ!」
「そうさせてもらいます!」
たとえたどりついても、あのクレーエヘルムがうじゃうじゃわいてくるかぎり、二人が生きのこる可能性は低い。
が、ここでデーモンキングに殺されるのはもっと腹がたつ。
それをわかってくれてるから、周防くんもこの返事なのだ。
「店長! こんなところでのたれ死にしたら都留凛さんめちゃおこで地獄に追いかけてくるよ! ギムさんも立ちあがれ! あと少しで出口だ!」
やけくそであらがう。
「あと少しだ! あと30メートルでこのクソデーモンキングにひと泡吹かせてられる! 男に生まれたなら寝てんじゃない! 戦いながら死のうぜ!」
人生で一度も思ったことない言葉を口にする。
一人戦った分、1秒てこずらせた分だけ生きのこる仲間が増えるんだ。
ここでがんばらないやつなんて、それこそ生きてる価値ない。
全身がいてえ。
歯を食いしばって立ちあがる。
俺はデーモンキングに吠える。
「かかってこいクソ色タイツ! 俺はここだ!」
「ワレヘノ侮辱、最早生カシテハ、オカヌ!」
そのとき背後の壁が、おおきな音をたてた。
バゥン。
さいしょは奥でひびく水流のウネリだと思った。
だけどちがった。
バァン!
音のしたところの壁がふくらんで、タテに割れた。
バシャン!
音がもう一つ。
壁がガラガラと崩れてむこうの闇がみえた。
「みんな! 聞こえてんなら頭さげて! テッサイいくよ!」
その声が聞こえたとき、ぼくらの勝利を確信する。
ペヤングの中身をこぼしたところに野菜洗いのザルがあったように。
提出レポートを忘れてた講義の直前に、同じ講義うけてるまじめな部活仲間を見つけたように。
そしてデーモンキングに絶体絶命の窮地においこまれたときに、いちばん頼れるアタッカーが間にあったときのように。
「みんな! アップルさんが来てくれた! まわし蹴りがくる! 地面にへばりつけ!」
動けた全員がとばした指示にしたがった直後、砕けた壁から発せられた横薙ぎの衝撃波が、広間全面をなめつくした。
「グアー!」
デーモンキングが絶叫する。
ギムさんの剣をもはね返した足が、その固そうな爪をすべて斬られていた。
「すごい!」「きいてる!」「アクマのオウがくるしんでる!」
スキをみて自由をとりもどした賢者たちが、希望にわきたつ。
声がした壁が、ま横に裂けてガラガラ穴がひろがる。
「ごめ。またしたよね」
そこに、まちこがれた人がいた。
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