デーモンキングとの死闘
ピロティをあがってそーっと顔をだすと、デーモンキングはまだ反対側の入り口前に陣どっていた。
天井と床とのちょうど中間で、翼をゆるやかにらはためかせて滞空し、腕を組んで目をとじている。
「重ねて言うけど、これ最終作戦だから。どんなトラブルおきても、やり直しきかないから。おけ?」
「おけまる」
「まかせて石動くん」
「が、がんばりますっ……」
コンビニ夜勤メンバーが、一部のぞいて力づよき返事をする。
後方貯水槽はすでに1メートル以上の水深ができており、1時間とたたずに広場に水があふれるだろう。
物陰の反対側にいるギムさんに合図すると、ギムさんと賢者たちが気配をけしてするすると步をすすめる。
出口はむかって左側の一番奥にあり、自分たちの左の壁がそれで、ギムさんたちが対角側になる。
陸上でいうところの、自分サイドがインフィールド、ギムさんサイドがアウトフィールド。
わかりにくかったらすまん。
さて、作戦はこうだ。
四角形の広間の左奥に陣取るデーモンキングを、扇形に包囲する。
デーモンキングはその場所からはなれられないのだから、そこまではむずかしくないはず。
ポジショニングが完了したら、鬼城さんがファイヤーボールブッパしてそのスキに出口にたどりついて逃げる。
たどりついたやつからデーモンキングにいやがらせをしつつ出口を確保、全員が逃げられるまでがんばる。
状況から推察して、デーモンキングはこの広間から出られないようなので、全員が出口に到達したらケツまくって逃げれば作戦成功。
「だって出られたらもっといやがらせしてくるはずじゃん」
「石動サイコパスプロセッサがはじきだした推論ですよ? ボクらが疑うわけないじゃん」
周防くんが罵倒しつつほめてくれる。
ここから逃げさえすれば、タリスマン取ってデーモンキングを倒せるらしいので、ぼくらは討伐の成功を祈りつつわがホニャララマート下北沢店に帰還する。
どんぶり勘定の出たとこ勝負だけど、こっちに戦える労働リソースないからしゃーなしだ。
これぐらいのヤバい状況なら、今まで何度もきりぬけてる。
障害を打破してくれた仲間は、今ここにはいないけど。
あの細い背中が恋しくなるががまん。
みんなでじわじわ近づくと、あと50メートルでデーモンキングが目をひらく。
「ククク……姑息ナ真似ヲ」
デーモンキングの言葉なんかまたずに俺と店長が距離をつめる。
「このオヤフコー! やー!」
「デーモンキングのバカー!」
「とーてきー」
おとりの三賢者が落ちてるなんかを投げる。
ギムさんが店長の背中を踏み台にすべくコーナーランのようにカーブを作りながら走りこむ。
「鬼城さん! やっちゃって!」
「は、はい! くらえっ、ファイヤーボール!」
プス。
なんか失敗っぽいスカ音。
ちゃんとファイヤーボールって、言えてたよね。
「あれ? ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
失敗じゃなかった。
鬼城さんほんとに魔力切れてた。
「石動さんすんません。ボクのミスっす。鬼城さんのファイヤーボール、ボクらのとは魔力消費量ダンチだったみたい」
ずっと引きこもりだった鬼城さんには、スタミナがなかった。
まさか店長の予言、このタイミングで的中とは。
いらんことする店長め。
「まーできないなら、しゃーないね。とにかく二人は出口にたどりつこう。ギムさん援護ないけどおねがいします! 店長、すぐに援護いきますんで耐えて!」
「おまかせを!」
「信じるよ!」
くそ。泣かせるセリフだ。
これで間にあわなかったらなんて泣き言こそ封印。
「周防くん走れ!」
「がってん!」
「すすすみません〜」
スカはガッカリだけど、今日入ったばかりの新人に責任おわすわけにもいかんよね。
「帰りのクレーエヘルム分の魔力も使いきりますから、ぜったいに助けますから!」
「おけまる。時間帯責任者として、一人も犠牲にはさせない所存だぜ!」
強がってみせたけど、自信はゼロ。
だからってやらんわけにはいかんよね。
「だああ!」
地面ポップ店長ステップで大きくジャンプして、ギムさんがデーモンキングの胴に斬りかかる。
「キカヌ!」
デーモンキングがそれをよけずに受けとめた。
剣閃がひらめいて火花がちった。
「フッ!」
黒い翼をガっとひろげ、口の外にまではみ出たキバでニタッと笑うデーモンキング。
やっぱりノーダメだ。
「くっ……!」
「愚カ者メ!」
空中で体勢をくずしたギムさんに、デーモンキングの腕がのびる。
その指先は足の爪同様に凶悪にとがっていて、ギムさんの皮のヘルムをやすやす切りさく。
「ゲホ!」
ギムさんが悶絶する。
「ユウシャ!」
「ギム!」
「しなないで!」
心配してギムさんをよぶ三人の賢者を、デーモンキングがでっかい手でわしづかみにする。
「ククク……貴様ラヲ殺シテシマエバ、コノ世界ハ滅ビテシマウ……ダガ、ツカマエテオケバ賢者ノ国ハ存続スル。ナラバ永遠ニ、貴様ラ三賢者ヲ生ケドリ二シテヤル!」
それらをすべて無視して出口をめざしたコッチ勢だったが、デーモンキングが前にまわりこみ、右足から発する魔力だけでこちらをふきとばす。
シラカバのの盾の魔力をはぎとられ、一撃でぼくらは蹴ちらされた。
「うわ!」
「むぎゅあっ」
「だめえ」
「くうう」
余波で店長とギムさんまで吹きちらされる。
「まじかよ」
デーモンキングつよすぎ。
デビルフィッシュより強いとはゆったけど、比べもんにならんだろ。
吸血鬼の二倍ちょっとってはずだろ。
「……周防くん、痛いだろうけど、立ちあがってくれる?」
「さす石動さん。そのセリフ待ってました」
周防くんがつよがってくれる。
「店長! ぜったいに助けるって言ったじゃん! 俺は言ったことは守るから!」
「……やれやれ、石動くんは強情だなあ」
店長が腰痛をおして立ちあがってくれる。
「ギムさんブラウ、パパ、アムゼル! ここでがんばんなきゃ、男じゃないぜ!」
「ヨウセイは、オトコじゃない!」
「石動さん、まかせてください!」
まだみんな元気だ。
心さえ折れてなければ、たたかえる。
「ここからは死闘だ! みんな死んでもがんばれ!」
死闘がはじまった。
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